真実の愛の犠牲になるつもりはありませんー私は貴方の子どもさえ幸せに出来たらいいー

春目

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17. 予想外で危機的な状況

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「う、うーん……はっ?」

マリィが気がつくと、そこは1面のピンクだった。

ピンクの壁紙、ピンクの絨毯、ピンクの家具、ピンクのカーテン、そして、自分が寝かされていたピンクのベッド。

目に痛いピンクのオンパレードに、マリィは顔を顰め、ベッドから立ち上がる。

その瞬間、ハートマークだらけのビビットなピンクの部屋の扉が開いた。

部屋に入ってきたのは男だった……但し、ピンクのパンツ1枚だけしか履いていない全裸の……。

「マリィちゅああん! ボクのものになってぇぇ!!」

その声を聞いた瞬間、マリィは全身の鳥肌が立ちゾワッとした。
それはもう気持ち悪かった。吐き気すら湧いた。最悪な気持ちになった。だから……。



そのパンツに思いっきり蹴りを入れた。




数分後。

「あぁ、最悪! 気持ち悪い!本当に嫌!」

マリィは部屋から逃げ出していた。

ビルのようなその場所は長い廊下があり、幾つもの扉が並び、物の見事に全部ピンク色だった。

マリィは察した。ここは所謂、ラブホテルだ。男女が卑猥なことをする為に作られた楽園……今のマリィにとっては地獄だが。

「うぅ、何でこんな目に遭うのよ!見たくないもの見ちゃったし!」

今まで様々な修羅場を乗り越えた流石のマリィも涙目だ。
その時、後ろから数人分の走る足音が聞こえた。
マリィが後ろを振り返ると、無精髭を生やした屈強な傭兵らしき男達がマリィを見つけ、目を吊り上げた。

「いたぞ! 追え!」

(まずい!)

こうなったら悠長に廊下なんて走ってられない。そう考えたマリィは近くにあった飾られていた植木鉢を手に取り、その辺にあった窓に放り投げて叩き割った。



月の光の下、マリィは逃げた。
それはもうあらゆる手段を使って逃げた。
絶対に捕まりたくない。その一心だった。

だが、追っている傭兵達はドン引きした。

「本当にあの女、公爵夫人か!?
やることなすこと大胆すぎるだろ! 雇い主の股間蹴り上げて、3階の窓から隣の屋根に飛び移ったと思ったら、路地裏に逃げ込んで、並んでいるゴミ箱全部俺達に向かって蹴り飛ばして、走りながらゴミやら石やらどんどん投げつけてくるんだが!?」

「そこに痰壺を追加してくれ。なんて女だ……!」

「クソっ! 聞いていないぞ! 雇い主は池に咲く白い睡蓮のように儚い美女としか……」

「嘘だろ!? とんだじゃじゃ馬じゃねえか!」

傭兵達は生ゴミを被り、痰に塗れ、あちこちがたんこぶと痣だらけだ。とても貴族の女性一人追いかけているだけとは思えない。

そんな傭兵達の数メートル先、マリィは見知らぬ街の路地裏を必死に走って逃げていた。

「毎日ルークを追いかけていて良かった。おかげで逃げられる……けど!」

どこを見ても知らない街だ。どこに行ったら良いかも分からない。これでは彼らに捕まるのも時間の問題だろう。

路地裏はかなり古く今にも倒れそうな建物しかなく人が住んでいないのか明かり一つない。
だが、マリィはふと思いつき、路地裏にある建物を勢いよく蹴った。

その瞬間、路地裏の建物全てに激震が走る。

ぐらっ、と一瞬大きく揺れた瞬間、傭兵達の周りの建物は音を立てて崩れ落ちた。

「わあああああ!!」

男の野太い悲鳴が上がる。

その日、とある町のとある場所は華奢な女性の一蹴りで跡形もなく消えた。





「はぁ、はぁ……」

“崩壊の危険あり。一般人立ち入り禁止”の看板を跨いで、マリィがようやく辿り着いたのは、夜の繁華街だった。

賑やかで華やかな店が並び、路上には露店が並びアクセサリーや食べ物を売って、歩く人々に品を宣伝している。その前を酒に酔った男と女が大勢で笑顔で歩いていた。

マリィは人がいる場所にたどり着いてホッと安堵した。

(あとは、警備隊を探して。保護を求めれば……)

だが、突然、その手を掴まれた。

「きゃっ!」

「わお! 超上物じゃんかよ」

油断していたマリィを捕らえたのは先程の傭兵ではなく、知らない酔っ払った男だった。
かなり酔っているようで、赤ら顔をぐらぐらと揺らしながら、舐めまわすようにマリィを見ていた。

「こんな娼婦、街にいたなんて知らなかったなぁ……銀3枚でどうだい?」

「離して下さい! 私、娼婦じゃありません!」

「ああん? こんな綺麗な召し物して、娼婦じゃねえたぁぜってーちげぇだろ?
ほら、行くぞ」

男は無理やりマリィを連れて行こうとする。それにマリィは焦り、男に向かい蹴りを入れた。

「ぎゃあ!」

不意をつかれた男はマリィの手を離し、マリィは解放される。
だが、男はあのホテルにいた男のようには倒れなかった。

「このアマァ! こっちが下手に出たら調子に乗りやがって!」

その赤ら顔が怒りで更に真っ赤になる。
そして、その拳がマリィに向かって振り下ろされる。
とはいえ、ブレブレな酔っ払いの拳だ。マリィなら避けられるはずだった。

「っ!」

だが、ずっと走りっぱなしの足は咄嗟には動けなかった。マリィは青ざめた。

(当たる……!)

思わずマリィは目をつぶった。
その瞬間だった。


「レディ、失礼」


マリィの身体に誰かの腕が回され後ろに引っ張られる。

マリィがハッとした時には、男の拳は空を切り、自分の背中に温もりと誰かの吐息を感じた。

マリィはそっと自分の隣にいる誰かを見上げる。

「……っ!」

そこにはいつか見たあの人がいた。



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