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第二章 誰が為に花は降る

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リオン殿下と会うことを決めたら、
レジナスさんは飛んで帰ると
すぐに殿下の日程を調整して、
本当に翌日の午後に会うことになった。早い。

そして、これは会う前に
事前に知っておいた方がいいだろうからと
ルルーさんがリオン殿下と会うための
服を選んでくれながら
色々と殿下の事情を教えてくれた。

リオン殿下は3年前に兄である
あの大声殿下を魔物からかばい
毒を浴びて大ケガをしたこと。

そしてそれが原因で失明寸前になり、
今は表立った政務はせずに
王宮の奥の院で静養をしつつ
少しずつ出来ることを増やしながら
過ごしているということ。

・・・奥の院というのは、
病により早逝したイリヤ殿下達のお母様、
つまり王妃様が亡くなる晩年を
過ごした静かな宮殿で、
病気の人でも歩きやすいように
手すりがあったり
車椅子で移動しやすいように
建物の段差が少ない造りになっているんだって。

だから視力の弱いリオン殿下でも
過ごしやすいらしい。
いわゆるバリアフリー対応ってことかな?

あと、リオン殿下の顔には
魔物の毒を浴びた時についた
大きな傷があるらしいんだけど、
どうかあまり驚いたり嫌ったりしないで
欲しいとルルーさんにお願いされた。

「殿下はとても辛抱強く、心優しいお方です。
普通なら周りに当たり散らして
自暴自棄になってもおかしくないのに、
決してそんなことはなさいません。
ですからイリヤ皇太子殿下始め
皆に慕われておりますし、
そんな殿下は私達ルーシャの誇りですから、
ユーリ様にもお会いいただくのが楽しみです」

だからレジナスさんもリオン殿下の事になると
一生懸命なんだろうか?

そう思って聞いてみれば、王家の三兄弟である
イリヤ殿下、リオン殿下、カティヤ姫と
レジナスさんは小さい頃からの
幼馴染だという。

レジナスさんはリオン殿下の2歳上だけど、
3人の中で一番仲が良く馬の合うのが
リオン殿下で、彼が目に傷を受けた3年前に
自分から護衛騎士に手を上げたんだって。

本当は国一番の戦闘力を誇る騎士団の中でも
更に実力の抜きん出た精鋭部隊の隊長を
勤めるくらい凄腕の人で、護衛騎士になるって
決めた時も周りから相当引き止められたらしい。

知らなかった。レジナスさん、まだあんまり
自分のこと話してくれないもんね。
もっと打ち解けてきたら
色々教えてくれるかしら?

でもそんなに凄いレジナスさんが
リオン殿下の護衛騎士で良かったって
ルルーさんは微笑んでいた。

目の見えない殿下を支えて、
レジナスさんは普通の護衛騎士がやる範囲以上の
仕事を軽々とこなしているらしい。
大活躍だね!

ルルーさんにこっそりレジナスさんの
年齢も教えてもらったんだけど24歳だった。
元の世界の私より4つも年下・・・。

そんなに有能な24歳っているんだ、
私の後輩に欲しかったわレジナスさん。

ていうか、この世界の人達は今のところ
ルルーさん以外はみんな
元の世界の私よりも歳下の気がする。

魔物が出たり、生活が厳しかったりするから
みんなしっかりしているのかなあ・・・。

それからリオン殿下や
レジナスさんの話を聞いたついでに
気になっていたことを
ルルーさんに聞いてみた。

「あの・・・私がリオン殿下にお会いしたとして、
殿下や皆さんのご期待に添えるでしょうか?」

ルルーさんがハッとする。
私の質問の意図に気付いたらしい。

そうなのだ。リオン殿下に会うと言った時から
ルルーさんとレジナスさん、
私に対する2人の
あの期待とプレッシャーを込めた
態度が気になっていた。

そして今、リオン殿下の事情を聞いて
理解してしまう。

つまり2人・・・いや、もしかすると
私が自らの傷を治癒したかもと
シグウェルさんから報告を受けているはずの
リオン殿下のお兄さん、あの大声殿下も
私がリオン殿下の傷を治せると
期待しているんじゃないだろうか?

でも私、イリューディアさんの加護は
受けていても力の使い方は知らないのだ。

顔の傷が治ってるよ、と言われても
知らないうちに治っていたので
どうやったかも分からない。

だからリオン殿下にお会いしたとして
彼の役に立てるかどうかは分からないのだ。

せっかくの期待を裏切ったら申し訳ない。
その時はここを出た方がいいだろうか。

「もし治せなかったら、
ここを出なくちゃいけないですか・・・?」

そうしたらその時はさすらいの助け人として
この世界をさすらいながらあちこち
巡って荒地回復なんかしながら
生きていけばいいのだろうか。

そんなことを考えていたら、
ルルーさんにガバッと抱きつかれた。

「ユーリ様‼︎そんな事はございません!
ルルーが悪うございました、お許し下さい‼︎
そんな風に思わせてしまうなんて、
申し訳ございませんでした!
・・・ユーリ様はリオン様とお会いして、
たくさんお話ししてください。
リオン様は泣き言をおっしゃらない方ですが、
きっと心も体以上に傷付いておいでです。
ユーリ様の愛らしさとご聡明さは、
お話しするだけで必ずリオン様の
お心を癒して下さるはずですから‼︎」

そうか。傷付いているのは体だけじゃない。
きっと心はそれ以上に
傷付いているのかもしれないんだ。

確かに、今まで当たり前に出来ていたことが
ある日突然出来なくなったら苦しいだろうな。

体の傷は治せるか分からないけど、
心の傷ならただ話を聞いて
苦しさを吐き出してもらうことはできるかも。
こういうのって、全然関係ない
第三者に話す方が気が楽だって言うし。

ルルーさんにも心配かけちゃったなあ。
こんなに謝らせてしまうとは思わなかった。

「・・・おしゃべりするのは私も好きです。
明日は頑張っていっぱいお話ししてきますね」

泣かせちゃってごめんなさい、という
思いを込めて私はルルーさんに
微笑んでみせたのだった。
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