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第二章 誰が為に花は降る

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早いもので、私がこの世界に来てから
あっという間に1か月が経とうとしていた。

その間にリオン様には何度もお呼ばれして、
お菓子をご馳走になりながら
この世界のことや100年ほど前の勇者様のこと、
私のいた世界と違うところや同じところなど
様々な話をした。
たまにレジナスさんがまだ護衛騎士になる前の、
騎士団に所属していた頃の魔物退治の話なんかも
リオン様は教えてくれてそれがまた
おとぎ話の冒険譚みたいで面白かった。

レジナスさんはそういう時、恥ずかしいのか
いつもはあまり変わらない顔色が
決まってうっすらと赤くなり
若干挙動不審になるので、
リオン様はそれがとても愉快なようだ。

で、リオン様のところを訪れたりしながら
私は私で時間を見つけては王宮の図書館で
調べ物をしたりリオン様に紹介された
魔導士さんや神官様に加護の力について
色々教えてもらったりしていた。


・・・ほんとうは魔導士団長のシグウェルさんが
この手の話の第一人者らしいんだけど、
いまだにルルーさんのお怒りが解けていないので
団長さんと副団長さんは王宮に
出入り禁止状態で2人に話は聞けなかった。

私の方から魔導士団を訪ねようかな?と
一度提案したら、ルルーさんに大反対された。
また何かされたらどうするのですか‼︎って
心配してたけど、あの時シグウェルさんは
自分の気になることを
確かめたら満足したみたいだし
もう大丈夫なんじゃないかなあと思っている。

何より、副団長のユリウスさんが
今度はちゃんと監視するんじゃないかしら。

ちなみに私の部屋でのあの出来事以来、
ユリウスさん名義でいまだに毎日
お花やお菓子、ドレス用の
高そうな生地が届けられている。
デキる人みたいだし、物量作戦で
私の心を絆そうとしていると
にらんでいるけどどうなのかな?

というわけで、魔法や加護の第一人者に
話を聞けないので自力で地道に調べた結果、
物凄い発見をした。

ヒントはリオン様との会話にあった。

『100年前の勇者様は、それはそれは
すごい方だったんだよ。
偉大なる戦神・グノーデルの加護を受けた彼は
素手で竜を殴り倒し、かかげた両手に集めた
大きな光の玉で魔物達を攻撃したんだ。
小さい頃の僕と兄はそれを良く真似て遊んだなあ』

ゲーキ・ダマー!ってね。と、
攻撃魔法っぽい呪文を言って両手を頭上に掲げ、
それを前に振り下ろす動作をやって見せてくれた時
私は思わず固まってしまった。

えっ・・・ウソでしょ?

それはどう見ても元の世界の
TVアニメで見たことのある仕草だった。
いやいや、なんで⁉︎

ゲーキ・ダマー・・・・元気・・だ、ま・・・?

え?7つの玉を集めて願いを叶えるとかいう、
少年漫画が原作の超有名な・・・アレ?


100年ほど前にこの世界に召喚された
勇者は、名前をレンと言ったそうだ。

その時も日本人の赤ちゃんの名付けランキングで
何年か続けて一位を取っている人気の名前と
同じだなと思ってはいた。
私の友人の子どもにもレン君という子はいたし。

それに、勇者レンの残したとされる習慣や
偉業だとされているものの痕跡からも、
勇者様は私と同じ日本人であるような気はしてた。

だけどその人は今から100年以上前に
この世界に召喚されていた人だ。
てっきり昔の人だと思っていたんだけど、
某アニメの技らしきものを使っていたあたり
もしかして意外と私と歳の近い人が
召喚されていたってことだろうか。

どうもこちらの世界と元の世界には
タイムラグがあるようだ。

それにしても、グノーデルさんの加護を受けた
勇者様の攻撃方法が
まさかのテレビアニメの必殺技・・・?

衝撃を受けた私はその後、
他の人達にも手伝ってもらって
慌てて古文書から
市井に伝わる勇者の冒険譚、
民間伝承まで調べまくった。

特に、勇者様の受けた加護の力が
一番発揮されてそうな魔物への攻撃方法を。

そうしたら、出るわ出るわ。

ある時は両手と口に咥えた3本の剣を
器用に使い。
またある時は素手に炎をまとった拳を奮い。
そしてまたある時は、空高く飛び上がって
赤く燃える脚で強烈な蹴りを放ち。

なんて事だ。
勇者様は某海賊漫画に出てくるキャラクター達の
技まで完コピしていた。

それ以上は言わないが、
本当はもっといっぱいそんな感じの
話や魔物への攻撃方法が出てきた。

えっ?なにそれ、勇者様って厨二病・・・?

思わぬ事実を知ってしまい、
あまりの衝撃に頭がついていかなかった。

そのあと、落ち着いてから
情報を整理して私なりに仮説を立てた。

祈りは力、願えばそれは
目に見える形で表れるのだと
この世界の神官様や魔導士さん達は
私に教えてくれた。

もちろん個人の能力によりその差はあるが、
偉大なる神や精霊の加護を受けてこの世界に現れる
私や勇者様のような人達は
特にその力が強く表れるのだという。

それを聞いて考えた。
召喚された勇者様がこの世界の人達を
助けたいと思い
魔物の倒し方をイメージした時に
頭に浮かんだのが、
アニメや漫画の必殺技だったのでは?

で、試しにやってみたら思いの外
成功してしまったとか・・・?

だったら私も同じことができるのでは、
と思ったけど残念ながら
元の世界で毎日馬車馬のように働いて
忙殺されていた私は
治癒や回復魔法が出てきてそうな異世界アニメ、
ファンタジー小説に縁がなかった。

一体何からイメージを引っ張ってきて
リオン様始め困っている人達の助けに
なれそうな力を使えばいいんだろう。

必死に考えて思い出したのは
ある1つのロールプレイングゲームだった。

大人気で、続編が何本も作られている
世界的にも有名なドラゴンをクエストするあれだ。

社会人になってからは忙しくなって
やらなくなったけど、
学生の頃は割とやっていた。

で、うっすらと覚えていた
そのゲームに出てくる回復呪文を
ある時こっそり試してみた。

場所は私の部屋。
ルルーさんにお願いして、
あかぎれのひどい人や腰痛、
関節痛に苦しんでいる人、
最近体調が優れない人など王宮で働いていて
時間の取れる侍女さん達を数人集めてもらった。

彼女達を前に、これから何をするのか
念のため説明もしたよ。
ある意味人体実験だからね。

もちろん、初めて試すから失敗して
なんにも効果がない可能性もあるので
その辺も先に謝っておいた。

イメージする呪文はあれだ。
味方全員のHPを全回復させるやつ。

それならこの部屋に集めてもらった
体調の優れない人達を全員一気に
回復されられると思う。

うまくいって欲しい気持ちと
失敗したらどうしようという不安で
どきどきしながら目を閉じて、
全員の体調回復と健康を願う。

いつもあれこれ私の面倒を見てくれて
ありがとう。
どうかみんないつまでも、ケガや病気をしないで
元気に楽しく過ごして欲しい。

そんな願いを込めて、自分なりに
改変した回復呪文を呟いた。

「ベホマージ」

私はその時、目をつぶっていたから
部屋の中で何が起きたのか分からなかった。

でも、その瞬間ほのかに自分の体が
暖かく感じたのと、
瞼の裏で部屋に光が満ちたのは
うっすらと分かった。

わあっ、と小さな歓声が部屋で上がったので
そっと目を開いてみると、ルルーさんに
両手をがしっ!と掴まれた。

「素晴らしいです、
ありがとうございますユーリ様‼︎
私が長年悩んでいた腰痛が
綺麗さっぱりなくなってしまいましたよ‼︎」

他の人達もうんうん、と頷きながら
感謝の気持ちを込めて私をみつめている。
あかぎれが消えたわ、見てこのなめらかな手!
あんなに痛かった膝の痛みが
ウソのように消えているわ!
なんて喜んでいる人達もいる。

良かった、初めてにしては大成功だ。

てことは勇者様は厨二病なんかじゃなく、
ただしく皆を救おうとした結果
アニメや漫画の必殺技を連発する事に
なってしまったというわけだ。
ごめん、勇者様。誤解していたよ・・・。

客観的にみたら、私だってこれが
文献に記されて後世に伝わってしまえば
分かる人がみればすぐ分かる、
テレビゲームの魔法を嬉々として使ってる
癒し子もとい、ただのゲーム好きだと
思われる可能性はあるのだ。恐ろしい。。。

それはごめんこうむる!と急いで
その場にいた人達全員に固く口止めをした。

今日の出来事は絶対に誰にも言わないこと。
たまたま成功しただけかも知れない、
もっと自信を持ってこの力を
使えるようになってから改めて
自分の口から他の人達にも話したいのだと。

そして口止め料代わりに、
毎日ユリウスさんから贈られてきて
段々と余りはじめていたお菓子と
ドレス生地をみんなに分けた。

もし他の人に今日何をするために
この部屋に集められたのかと尋ねられたら、
皆に感謝の気持ちを込めたプレゼントを
渡すために私が呼んだのだと
答えるようにお願いした。

いやぁ、まさかここにきてユリウスさんの
お詫びの品が活きるとは思わなかったよ。
ありがとうユリウスさん!
せっかくの贈り物、
勝手にみんなにあげちゃってごめんね‼︎
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