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第十一章 働かざる者食うべからず

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無事に文官さん達との挨拶を終えてリオン様と手を
繋ぎ、執務室へと向かいながら私はふうと息を
ついた。

「緊張したの?」

そんな私をリオン様はおかしそうに笑いながら
見てくる。

「しないわけがないですよ!あんな短いスカートで
初対面の人達の前に立たせられて、おまけに猫耳で!
ものすごくみんなに注目されてましたよ⁉︎」

明らかにみんなの視線が私の頭とスカートの間を
行ったり来たりしていた。

何という羞恥プレイ、なんという罰ゲーム。
というか、私は何も悪い事はしていないのに
どうしてこんな恥ずかしい目に?

今更ながらどーしてこうなった?と首を捻っていたら
隣のリオン様が悩ましげなため息をついた。

「うん・・・。まさかその服装で猫耳のユーリが
そんなにもかわいいなんて、正直僕も想定外だった。
予想以上の可愛らしさというか、本当にそんなに
短いスカートで食堂の中をあちこち歩き回って
給仕をしていたの?」

「スカート丈や全体の雰囲気はあの時と何も
変わってないですよ。だから言ったじゃないですか、
奥の院の部屋の中だけにしましょうって。」

レジナスさんに連れられて執務室へ顔を出して、
この姿を初めて見た時のリオン様は珍しく一瞬
ぽかんとしてたんだよね・・・。

その後すぐに顔が赤くなったし。

「ユーリのその姿はやっぱり僕だけが見るように
しておけば良かったかなと思わないでもないけど、
その姿で動き回るユーリは格別にかわいいし・・・。
でも他の文官達が平気かな、落ち着かないかな?」

人を歩くセクハラ扱いだ。

「じゃあ後でちょっと文官さん達に聞いてみて
くれませんか?その結果、やっぱり落ち着かないって
いうなら別の格好にします。リオン様だって、
とりあえず今日一日私がこの姿でいたら満足じゃ
ないですか?」

「うーん、そうだね。残念だけどそれも仕方ない
かなあ・・・。」

やった。せっかくこの服を準備してくれた
シンシアさん達には悪いけど、どうやら着替えられ
そうだ。

・・・そう思っていたのに。

「えっ?明日もこの格好ですか⁉︎」

「なんだか皆に反対されたよ。仔猫の侍女が部屋の
中を駆け回ってるみたいでかわいくて繁忙期の癒しに
なるんだって。」

そう来たか。確かにリオン様の執務室から文官さん達
のいる部屋に書類を持って行くと皆なんだかにこにこ
していたなあ・・・。

「リオン様はそれでいいんですか?」

「僕?ユーリがかわいい格好で日中もずっと僕の側に
いてくれるのは嬉しいから構わないよ。」

てっきり反対すると思ったのに。

「それにその髪型でその格好が似合うのはユーリしか
いないと思うから、一日限りにするのはなんだか
勿体無い気がして来たんだよね。エルにも迷惑を
かけるけどいいかな?」

私達の後ろをレジナスさんと一緒に歩いている
エル君を振り返り、そう聞いたリオン様にエル君は
静かに頷いた。

「ユーリ様が高い所に昇らないように気を付けます。
あとキョロキョロしててたまに転びそうになったり
誰かにぶつかりそうになった時もちゃんと助けて
ますので大丈夫です。」

「うん、明日以降も頼むよ。」

え?高い所に書類を並べる時は確かにエル君に
頼んだけど、その他は・・・いつの間にエル君は
私をフォローしてたんだろう。全然気付かなかった。
やっぱり忍者だ。

「エル君てすごいですね・・・!」

感心して本気で褒めたのに、

「ユーリ様が落ち着きがなさ過ぎるんですよ。」

いつものようにクールに返された。



そんなわけで、その後も猫耳膝上スカート姿のままで
働き三日が過ぎた。

リオン様の執務室から、リオン様が決裁したり
仕分けた書類を文官さん達のいる広い部屋に持って
いったり、逆に文官さん達から書類を預かって
リオン様へ渡したり。

その合間に必要な用紙が無くなりそうだったり
ペンのインクが少なくなってるのに気付いたら
補充したり書類を整理したりと細々とした仕事は
探せば結構ある。

その日もリオン様から書類を手渡されていた。

「じゃあユーリ、これは北部の領地分割協議に
関係するものだから向かいの2つ右隣の部屋に
お願いできる?」

「ダンさんに渡せばいいんですね?ついでに他の
お部屋にも寄って受け取る書類がないかも聞いて
来ます!」

そんなやり取りをしてエル君と一緒に執務室を
出ようとした時だった。

軽いノック音がして、リオン様が返事をする前に
執務室の扉が開いた。

文官さんや侍従さんにしてはそんな事をするのは
珍しい。誰か偉い人でも来たのかな?

邪魔にならないようにぱっと扉の脇に避けたら、

「お忙しいところ申し訳ありません叔父上、
どうしてもお借りしたい本があって・・・」

そう言って礼儀正しく綺麗なお辞儀をした男の子が
一人入ってきた。

頭を下げた時に私の足元が目に入ったんだろう、
不自然に言葉が途切れて顔を上げたその子と
目が合う。

輝くような金髪に同じような金色で太めの眉毛。
リオン様みたいに深く澄んだ青い瞳に気の強そうな
顔立ち。何だか見覚えがある。

あれ、この子は・・・。

その子も私を見るとぽかんとして、次の瞬間には
みるみる顔が赤く染まってきた。

「お、お前、もしかしてあの時の・・・⁉︎」

やっぱり。私がリオン様の目を治す前、癒しの力を
使いこなす練習の時に出会ったあの強気でかわいい
男の子だ。

向こうも私に気付いたみたいだけど、あの時より
私が少し大きくなっていたために気付くのが
一瞬遅れたみたいだ。

顔が赤い・・・てことは怒っているのかな。

ていうか今なんて言ってた?リオン様のことを
叔父上って呼んでたような。

そういえば大声殿下には子供がいて、その子に
リオン様は自分の王子宮を譲ったって話していた。

よく見ればこの子、大声殿下に顔立ちが似てるかも
知れない。今上げた声も大声殿下そっくりの
大きな声だった。

その子は赤くなったまま、私の格好を上から下まで
ジロジロ見ると

「何だその格好!お前、叔父上の侍女だったのか⁉︎
侍女にしては格好がおかしくないか?なんでそんなに
あ、足が見えてるんだ・・・⁉︎それにその髪型も
ふざけてるのか・・・?いや、お前にはよく
似合ってるとは思うけど・・・」

やたらと大きな声で文句を言われたかと思ったら
最後の方は急に声が小さくなってもごもご言ったので
そこだけ聞き取れなかった。

なんだか分からないけどまずい。確かあの時は
脅すみたいに口止めをして逃げてきた気がする。

このままここにいたらややこしい事になりそうだ。

そう判断して、開いたままの扉に体を滑り込ませた。

「ごゆっくりどうぞ。私は失礼致します。
じゃあリオン様、ちょっと行ってきますね!」

「あっ!待てお前、無視するつもりか⁉︎」

その子に引き留められたけどその通り、無視です。
どうせまたこの部屋に戻って来なければいけないので
問題の先送りとも言うけど。

逃げるようにリオン様の執務室を出れば、後ろの
エル君に

「ユーリ様はレニ殿下とお知り合いですか?」

そう聞かれた。知り合いというか何と言うか。

「レニ殿下って言うんですか?大声・・・じゃなくて
イリヤ皇太子殿下の子供ですか?」

「はいそうです。レニ・グウェインガルド・
ヴォルフマリア・ルーシャ親王殿下です。
ちなみにお名前の由来はイリヤ殿下が尊敬する
勇者レン様からいただいたそうです。」

「あの皇太子殿下らしい名付け方ですねぇ・・・」

「イリヤ殿下のお名前もイリューディア神様から
いただいたお名前なので殿下はご自分の名前を
とても気に入っています。」

エル君、色々知ってるなあ。

「ユーリ様はレニ殿下の事を知らないのに、
どうして殿下の方はユーリ様のことを知ってる
みたいだったんですか?まさかユーリ様、殿下と
お会いした事があるのに忘れていたなんて失礼を?」

うん、忘れていたね。綺麗さっぱり。

でもまさか、一国の王子様があんな王宮の片隅で
侍女さん達の子供に混じって遊んでるとか、膝から
血を流して大泣きしてるなんて思わないよね。

「大人には色々あるんですよ・・・」

何だか面倒なことになったなあと思いながら
返事をすれば、

「またそうやって大人ぶる・・・」

エル君に呆れられてしまったのだった。






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