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第十四章 手のひらを太陽に

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エル君に呼ばれてやって来たシンシアさんとマリー
さんにも私の格好は驚かれた。

ついでに部屋の中にたくさんある私の服や小物にも。

「シェラザード様はさすが良いセンスをされています
が、たった日数でよくここまで買い揃えられました
ね。まあ、大きな姿のユーリ様のドレスや髪飾りまで
こんなにも?」

室内の物を確認していたシンシアさんが感心して
いる。

マリーさんも、どれを着てもらおうか迷いますね!と
言いながらも楽しそうだ。

ただ、別の服への着替えを手伝われた時に例の黒い
下着を見られ二人も顔を赤くして、なぜこのような
物を身に付けているのですか?と聞いてこられたのが
すごく気まずかったけど。

リオン様に話したように、その時はこれしかなかった
んです!の一点張りで押し通したけどシェラさんの
おかげでひどい目にあった。

そうしてなんとか今着ている薄手のドレスから別の
ドレスに着替えてから、すぐにフィー殿下の宮殿へ
こっそり移動した。

フィー殿下とミリアム殿下に教えてもらった人通りの
少ない道をエル君と二人で移動すると、部屋では
その二人が待っていてくれた。

「お姉様、さっきの格好も素敵でしたけどその姿も
神殿の巫女様みたいで素敵ですね!」

フィー殿下が目を輝かせて褒めてくれた格好は、
シェラさんが用意していたあの背中がお尻の近くまで
ざっくり開いている白いドレスだ。

背中が開きすぎだと話したらシンシアさんがドレスの
裾まであるような長いマントを付けてくれたので
どうにか普通のドレスらしく見えている。

「それじゃあこの噴水に加護を付けますね。」

フィー殿下の庭園に作られた小さな噴水に手を
かざす。

エル君が殿下の部屋の前を確かめて、準備も出来て
いるようですと教えてくれた。

リオン様がミオ宰相さんにも事情を話して、宰相さん
の信頼する部下の人が部屋の前に待機している。

この部屋の中から私の使う力の光が溢れたら、
癒し子が現れたと大袈裟に騒いでくれる予定になって
いた。

「フィー殿下やエーリク様がずっと元気でいられます
ように。それが例えヨナスの力でも、イリューディア
さんの力がそれに打ち勝ってみんなを守ってくれます
ように。」

この噴水の水がいつまでも枯れることなく湧き続けて
みんなを守ってくれますようにと願い、手を組んで
目を閉じた。

瞼の裏に溢れた光の強さから、かなり明るく輝いた
んじゃないかなと手応えを感じる。

何しろダーヴィゼルドのように万が一ヨナスの力に
関係があるものが持ち込まれても影響がないようにと
まで願ったんだから、かなり強い加護がついたんじゃ
ないかと思う。

直後、フィー殿下の部屋の周りがかなり騒がしくなり
たくさんの人達が集まって来たらしい雰囲気がした。

後から聞いたところによると私がいた庭園や殿下の
部屋には城下町から見てもはっきりと分かるほどの
光の柱が立っていたらしい。

癒し子が現れたと騒ぐまでもない明るさと大きさの
光だ。

『おかげで何かとても尊い者が降臨したように見えた
ようだから、癒し子が転移魔法で現れたっていう話に
信憑性が出たよ』

後でその時の話をした際にリオン様はそんな風に
笑っていた。

「・・・すっげえ・・・」

こんな光、見たことがない。そうミリアム殿下は
目を瞬いている。

「ユーリお姉様、噴水の水が金色に光っていて綺麗
ですよ、すごく不思議です!」

フィー殿下は水を手に不思議そうにしながらも喜んで
いた。

その水をのぞいてみれば、透明な水の中に小さな金箔
のような金色できらきら光るものがいくつも輝いて
いる。

「あ、消えていきます・・・!」

いつものように段々とその輝きを失って水の中に
溶け込んでいくような金色に、フィー殿下は慌てて
手を伸ばしている。

「大丈夫ですよ殿下。光は消えてもその加護の力は
ずっと続きますから。ミリアム殿下も、もし良ければ
何か容れ物に取ってこの水をバロイ国のお兄様に
届けてあげて下さい!」

リオン様がお世話になったお礼がわりだ。
それに対立している第二殿下がもし毒のようなもので
危害を加えようとした時にも役立てるかもしれない。

私の言葉に、感謝する。とミリアム殿下は言って私の
瞳を見つめるとふいと顔を逸らした。

ほのかに赤いその顔を見たフィー殿下が、

「ミミ兄様がお姉様と結婚してくれればお姉様は
ずっとここにいられるのに・・・」

と呟いた。ミリアム殿下はその言葉にばかな事を
言うんじゃない!と更に赤くなって怒っている。

「別に殿下と結婚しなくても、フィー殿下がもっと
健康になる頃に私もまた遊びに来れるようにします
からね。そんなに寂しがらないで下さい!」

笑って言えば、

「お姉様、違いますよ。僕が寂しいだけじゃなくて
ミミ兄様のためでもあるんです。・・・あれ?
もしかしてミミ兄様の気持ちが全然伝わってない?」

フィー殿下は小首を傾げて不思議そうにしている。

何の話か意味が分からないでいると、ミリアム殿下が

「フィー、いいから!あのリオン殿下の溺愛ぶりと
恐ろしさを見ただろ⁉︎あんな人と渡り合う勇気は
俺にはない!」

そんな事を言っている。

気持ちは分からないでもない。まさか私が絡んだら
一国の王様を変える話にまで加担するとは思っても
みなかったし。

そんな事を考えていたらエル君に声をかけられた。

「ユーリ様、そろそろよろしいですか。廊下の人達が
かなり人数が多くなって来ています。」

あ、そうだった。

「えーと、廊下に出ればリオン様が待っていてくれる
からそれに話を合わせればいいんですよね?」

「はい。ユーリ様は周りの人達を見渡してにっこり
微笑んで、あとはリオン様の手を取るだけで大丈夫
だと思います。」

エル君のアドバイスに、ついさっきまで赤くなって
いたミリアム殿下も重ねてアドバイスをくれる。

「かなり明るい光が周りに溢れたから相当の人数が
集まってると思う。びびんなよ。」

「頑張ります!」

頷いて、行きますよとエル君が開けてくれた殿下の
部屋の扉の向こうを見る。

目に飛び込んで来たのはひしめきあいながらこちらを
見つめるたくさんの人達の顔だった。

おお、とどよめきにも似た声も上がっている。

フィー殿下の宮殿の護衛騎士さん達が何人も、私を
見ようとしている人達が私の歩く所までなだれ込んで
来ないように必死で壁を作って抑えてくれていた。

たった数分の間にどこからこんなに人が集まって
来たんだろう⁉︎

たくさんの人達の好奇心に満ちた視線に一瞬体が
固まった。

「笑顔ですよ、ユーリ様。」

後ろからエル君がそっと声をかけてきた。

分かっているけど、なんていうかこんなに近くで
たくさんの人達の圧に晒された事がないのでその
雰囲気に気圧されそうになる。

その時だった。

「まさかと思ったけど本当にユーリだ。会いたかった
よ。」

人だかりの回廊の奥の方からリオン様の声がした。

その声に回廊の真ん中が海が割れるようにさっと
左右に開く。

そちらを見ればにっこりと微笑んでいるリオン様が
立っていた。

「もしかして僕に会いたくてこんな遠いところまで
来てくれたの?」

白々しいことを言いながら、私が緊張から動けなく
なっているのを見てとってこちらまで歩み寄って
くれた。

その様子をひしめき合うみんなが見ている。

いつものように微笑みながらこちらに近付いてくる
リオン様を見たら、何となく安心して体の力が
抜けた。

えーと、リオン様に合わせればいいんだっけ?

周りににっこり笑いかけろってエル君は言ってたな。

目の前まで来たリオン様が向かい合わせの私の両手を
握ってくれたのでほっとしてさっきエル君に言われた
ことをやっと思い出した。

はにかむようなぎこちない笑顔を作り、周りの人達に
微笑もうとしたら、

「そんなにも僕を心配して来てくれるなんて嬉しい
ね。ほら、周りじゃなくて僕を見て。僕は元気だよ。
心配させてごめんね。」

そう言って、みんなに見られている中で突然口付け
られた。

周りから更にどよめきと、宮殿勤めの侍女さんだろう
か?若い女の子達の悲鳴のような歓声も聞こえる。

しかもその口付けは、挨拶の軽くすぐ離れるような
ものじゃなくて結婚式の誓いの口付けのようにまるで
周囲に見せつけるかのようなものだった。

数秒程度だと思うけどやけに長く感じたそれに茫然と
した私に顔を離したリオン様は、

「これでもう寂しくない?さあ、こっちに来て。」

そう言ってぎゅっと抱きしめてきた。

・・・いや、これに合わせろってどうしろと?

頭が真っ白になってしまった私は赤くなったまま
衆人環視のその中をリオン様にお姫様抱っこされて
歩く。完全にリオン様のペースに巻き込まれていた。












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