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第十六章 君の瞳は一億ボルト

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大きい姿になってグノーデルさんの力を使えれば
溶岩が避難する人達のところへ追いつく前に対処
出来るかも知れないという私の説明に、案の定
レジナスさんは渋った。

「危険過ぎる。酒を飲んで大きくなるということは
酔っているということだろう?そんな状態で力を
コントロールできるのか?」

確かに気分はふわふわするけど、やらなきゃいけない
ことは決まっているからそこに向けて集中すれば
いいだけだ。

それで失敗したことはない。まあ、その後は
酔っ払ってるから迷惑をかけてるかもしれないけど。

ダーヴィゼルドの山に大穴を開けたりリオン様に
管をまいたりなぜかユリウスさんが泣く羽目に
なってたり。

だから念のためレジナスさんに言っておく。

「みんなの避難を助けるまでは私もちゃんとしてると
思うんです。問題はその後なんですけど、もし
私が何か余計なことをしそうだったらガッチリと
縛り上げて下さい!」

グノーデルさんの力があると怪力になるみたいだから
しっかりと縛り上げてもらわないといけないけど。

「ユーリを縛る⁉︎何を言ってるんだ、そんなこと
出来るわけがないだろう⁉︎」

レジナスさんは目を剥いて反対してきた。

でもこの議論をしている時間すら勿体無い。

「エル君、お願いします‼︎」

レジナスさんに縦抱っこされたままエル君にも
お願いする。

シェラさんの部屋に行ってあのお酒を取ってきて、
シンシアさんにも事情を話して大きい姿の私の服を
持って来て欲しい。

そんな私を見つめたエル君はレジナスさんに言葉を
かけた。

「・・・レジナス様、こうなったユーリ様を止める
のは難しいと思います。ユーリ様は自分がどんな
状況におかれていても、いつだって困っている人達に
手を伸ばすのを躊躇しない方じゃないですか。
ここで反対していて時間を無駄にするよりも大きく
なったユーリ様を支えてあげる方が良いと思います」

さすがエル君、分かってる!私も勢い込んで
もう一度レジナスさんを見上げてお願いする。

「お願いします・・・!」

両手でその服の胸元をぎゅっと掴んで目をウルウル
させて見つめる、前に騎士団でレジナスさんへお肉を
ねだった時のようなわざとらしい子どもっぽい
お願いの仕方だ。

「ユーリ、今そんな仕草をするのは卑怯だろう⁉︎」

レジナスさんは頬をさっと赤く染めてそんなことを
言ったけど、いいんです。早くみんなを助けに
行かなきゃいけないんだから。

言うことを聞いてもらうためにはかわいこぶりっこ
でもなんでもする。

そんな私にため息をついてがっくりと肩を落とした
レジナスさんだったけど、すぐに顔を上げた。

今さっきまでの頬の赤さはひいていて、いつもの
真面目な顔に戻っている。

「分かった。現場には俺が馬を飛ばそう。早く
着くために走りは多少荒くなるが、しっかり掴まって
いてくれ。大きくなるのは向こうに着いてから
なんだな?」

良かった、お許しが出た。

「ありがとうございますレジナスさん、大好きです!
エル君⁉︎」

私のわがままな提案に付き合ってくれてありがとう。
感謝の意味を込めてレジナスさんをぎゅっと抱きしめ
エル君を振り返る。

そうすればエル君は分かってますと頷いてすぐに
姿を消した。

ふと気付けば周りの人達が作業の手を止めて私と
レジナスさんを見つめていた。

しまった、こそこそ話していたつもりがいつのまにか
目立ってしまっていた。

「ユーリ、急に抱きついたりしたら危ないから
動かないでくれ。それに皆が見ている。」

大好きと言ってもらえるのは嬉しいが・・・
小さな声でそこだけ呟いたレジナスさんはごほんと
咳払いをした。

気付けばまた赤くなっている。あ。みんなには
私とレジナスさんが場もわきまえずいちゃついて
いたみたいに見えた?

「ご、ごめんなさい!嬉しくてつい」

「分かっている。・・・誰か、ここに残っている中で
一番早い馬を出してくれ。俺とユーリが今から現地に
向かう。」

集まった注目を利用するように、周りをぐるりと
見渡したレジナスさんが言う。

その声にぼうっとこちらを見ていた人達は我に返って

「危険です!」とか「癒し子様自らが⁉︎」と口々に
言ってくれたけど、

「ユーリのたっての願いだ。イリューディア神様の
ご加護を授かっている身であれば他の者達よりも
自分に出来ることは多いだろうと、自らの身をかけて
動きたいとの申し出を受けた。国を憂える癒し子の
望みを叶えるのは王命を受けたのと同じと思え。」

さあ早く。レジナスさんの言葉にハッとした現場が
また慌ただしく動き出した。

レジナスさんの前にもすぐに立派な栗毛の馬が一頭
引かれて来た。

「乗れ、ユーリ」

素早く飛び乗ったレジナスさんに抱き上げられて
前に座らせられると、しっかりと抱えられる。

「シェラとの二人乗りでは崖下りや渓流越えをして
いるんだったな。であれば多少の悪路や手綱捌きの
荒さも我慢できるか?」

「頑張ります。だから、できるだけ早く着くように
お願いしますね!」

分かった、とぽんと頭を撫でるその声が優しい。
そこへユーリ様、とエル君が小さな荷物入れを一つ
持って現れた。

「ユーリの着替えもこの中か?」

受け取りながらそれを馬に結び付けたレジナスさんに
エル君も頷く。

「はい。お酒もシェラザード隊長の部屋から小瓶に
移し替えてその中に入れてあります。」

「では行こう」

よし、と合図をすれば私達のやり取りを見ていた
みんながすぐに道を開けてくれた。

お気を付けて、と言う私を案じる声があっという間に
後方に消える。その人達に手を振るヒマもなく、
レジナスさんの操る馬はすごい早さでオーウェン様の
別宮を後にした。

「舌を噛まないように気を付けろ」

レジナスさんの注意に黙ってこくこく頷く。

馬ってこんなに早く走れるんだ。文字通り、まるで
飛ぶような早さで駆けていく馬上で必死になって
掴まって口を引き結ぶ。

そうして一体どれくらいの間駆けていたんだろう。

やがて前方に昼だというのに真っ暗な雲が広がり
更にその向こうがうっすらと赤くなっているのが
見えてきた。

時折り光る雷も見えている。もしかして着いた?

レジナスさんの操る馬も、そのスピードを徐々に
落とした。

「ここまで来れば合流出来るはずだが・・・」

その場で足踏みするように馬を止めてレジナスさんは
馬をぐるりと一周させると辺りを見回した。

「・・・ああ、いた」

ある方向を見定めて、また馬を走らせる。
私にはまだ何にも見えなかったけどレジナスさんの
言う通り、やがて前の方に移動する馬車や人の集団
が見えて来た。

「ーユリウス‼︎」

その中にユリウスさんの姿を見つけたらしい。

レジナスさんの声に集団の中から一人が慌てて
出て来た。

「なんでアンタがここに来たんすか⁉︎・・・って
ユーリ様まで‼︎」

「話は後だ、シェラはどこだ⁉︎まだ後方か⁉︎」

「連れて来た騎士達と一緒にまだ避難誘導をして
るっす!逃げ遅れの人達がいないかも確認しながら
だから時間がかかって。一応耐火性のある防護魔法
も付けてやったんですけど」

「分かった‼︎」

そこまで聞くとレジナスさんはまた馬を走らせた。

「ちょ、ちょっと⁉︎ユーリ様は置いてって欲しい
んですけど⁉︎治療の手伝いのために来たんじゃない
んすかユーリ様‼︎」

びっくりしているユリウスさんの声があっという間に
遠くなる。

ごめんねユリウスさん。みんなを治すのはまだ
もう少し待って欲しい。

危険な場所にいるシェラさんや騎士さん達を助ける
方が先だから。

「準備はいいかユーリ」

走りながらレジナスさんに聞かれて頷く。

「馬を降りたらすぐにお酒を飲みます。うまく
グノーデルさんの力を引き出せればいいんですけど」

気掛かりはそれだけだ。今まで一度も自分の意思で
その力を引き出したことがない。

夢の中でグノーデルさんが傷付けたヨナスの
チョーカーをそっと触る。

キズが付いて以来、気のせいかチョーカーの色は
その鮮やかさを少し失ったように見えるのだ。

もしかするとグノーデルさんのおかげでヨナスの呪い
も少しは弱まっているかもしれない。

平原を駆け抜け、森の中へ入る。木が燃えているのか
何かが焼け焦げているような匂いが鼻を掠めた。

周りを見ればリスやウサギなどの小動物も逃げて
いる。気のせいか少し暑いような・・・。

さっきよりも溶岩の流れる場所のだいぶ近くへ
来たらしい。

「いいぞユーリ」

いつの間にかレジナスさんが荷物入れから布を出して
四方を囲った着替え用の場所を作ってくれていた。

「ありがとうございます!」

私も荷物入れを探って中身を確かめる。エル君の
言っていたお酒の入った小瓶に服、足元まで隠れる
ローブ。

シンシアさんが用意してくれた今回の服はドレス
じゃなくてパンツスタイルで動きやすそうなのが
助かる。きっと余りにも毎回暴れて服を破くから
最初から動きやすいのにしてくれたんだな。

上着が紺色に金の刺繍が入っていて魔導士団の制服の
あの裾の長い上着っぽくて、パンツスタイルと言い
全体的に魔導士っぽいのも、万が一他の人に見られた
としても魔導士だって誤魔化せるからかも。

さすがシンシアさん、急なお願いにも完璧な準備だ。

髪の毛も動きやすいように向こうを出る前に三つ編み
に纏めておいたしすぐに着替えられる。

「いきますよ」

小瓶の蓋を開けてむせないように息を止めると
一息に中身を煽る。

たった二口でなくなった小瓶の中身が喉の奥を
通り過ぎる時に、微炭酸の液体の熱さを感じる。

それを全て飲み下してからハッとした。

『これはそのままではなく水で割って飲むんです』

シェラさん、そう言ってたよね⁉︎今私、割りも
しないでそのまま全部飲んじゃった。

慌て過ぎだ。せめて一口だけ飲んで様子を見るべき
だった。

そう思っている間にもどんどん体は熱くなってきた。



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