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第十七章 その鐘を鳴らすのはわたし

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そんなに自分を悪党だなんだと必要以上に卑下する
ことはないんですよとシェラさんを慰め?れば、

「ありがとうございます。他の誰よりもユーリ様に
そのようなお言葉をかけていただけるのはオレに
とってこの上ない幸せです。」

さっきのふわりとした笑顔のまま見つめられて
何となく居心地が悪くなる。

しまった。慰めるつもりがなんかこう、かえって
シェラさんの気持ちをより私に向けてしまったような
気がする。

せっかく本人がこの騒ぎが落ち着くまで伴侶が
どうこうという話は保留にすると言ってくれたのに。

なんとなく反省するような気持ちのまま、休憩後
促されてまた馬に乗り馬上の人になる。

そうして気付けば、いつの間にか遠目に城壁を持つ
小さな都市のような建物のかたまりが見えてきた。

城壁でぐるりと囲まれた街はその中心に、小高い丘
の上にでも立っているかのように周りから頭一つ
飛び抜けて大きな建物がある。そこが神殿だという。

「あそこが目的地の街ファレルです。こちらからは
見えませんがちょうど反対側に広がる森の中に今回の
騒ぎの原因である小さな集落があるそうですよ。」

馬を走らせながらそうシェラさんが教えてくれた。

来る前に教わった説明では、この都市に領主様は
いない。元々神殿とそこに仕える人達の住居くらい
しかなかった所に、年数が経つほど住人や人口が
増えてひとかたまりの都市のようになったらしい。

だからここを取りまとめているのは領主様じゃなくて
真ん中に見えている神殿の主席神官様だという。

「目立たないようにローブを被り直して下さい。
街中を通らずに秘密の通路を使って近道で神殿へ
入れるよう先方とは打ち合わせ済みです」

シェラさんにそう言われて急いでローブを被り直せば
綺麗に澄んだ鐘の音が聞こえてきた。

ここには神殿の建立当時から大鐘楼があると聞いて
いるからきっとその鐘の音だろう。

硬質で澄んだその音はローブ越しでも体に心地良く
響いてくる。

シェラさんは馬を城壁に沿ってぐるりと巡らせ、
街の入り口である城門からはだいぶ離れている街中へ
引き込まれている大きな川の近くの城壁へと進んだ。

どう見てもただの城壁のそこを馬に跨ったままで
トントンとノックをすれば、城壁の一部がゴトンと
音を立ててちょうど人一人が顔を覗かせられる小窓の
ような空間がぽっかりと空いた。

そこに向かって私の後ろのシェラさんが何か話して
いたと思ったら、軋むような大きな音を立てて城壁が
上下に大きく開き、馬車一台が通れるくらいの道が
出来た。

「行きますよ」

トンネルのように薄暗いそこへエル君の馬と一緒に
入れば、私達の後ろでまたゴトゴトと音がして開いた
城壁が閉じた。

薄暗さに目が慣れれば、その通路の両側には等間隔で
ランプ代わりのほのかに発光する魔石が道案内をする
かのように通路に沿って並んでいる。

なんだか映画やドラマで見る秘密の抜け道みたいで
面白い。

興味深くそれらを見ていれば、背後でシェラさんが
くすりと笑った。

「こんなに暗くて狭い息が詰まるような道なのに、
恐れもせず好奇心旺盛なご様子を見せるとは思いも
しませんでした。感心いたしますが、多少は怯んで
オレに身を寄せてくれても良かったのにそうならない
のが少し残念でもありますね」

あれか、お化け屋敷で抱きついてくれるのを期待して
たらその手のものが平気でそうならなかったみたいな
ものなんだろうか。

「秘密基地っぽくて面白いですよ?」

そう返したのを聞いたエル君が

「ユーリ様は見た目のか弱さに反して鈍いところが
ありますよね」

なんて失礼な事を言っている。通路の薄暗さと私の
後方をついて来ているせいでその姿は見えないけど、
きっといつものように呆れたようにかぶりを振って
いるに違いない。

「そこは落ち着いているって褒めるところじゃない
ですか?」

「またそうやってすぐ調子に乗る・・・」

そんなやり取りをしているうちに、前方がうっすらと
明るくなって来た。出口らしい。

「眩しくなりますからお気を付けて」

そうシェラさんに言われて目を細めながら前方を
確かめれば、目の前に突然緑が広がった。

「あれ?」

てっきりどこか建物の中か馬車止めのようなところへ
出るかと思ったのに森の中だ。

小鳥のさえずる声と木々を渡る爽やかな風を感じる。

「どこですかここ」

「神殿の奥にある中庭です。このまま進めば一般の
者達は立ち入れない神官達の住居棟や主席神官らの
執務室などがある場所へ出ますよ。ユリウス達も
そこへいるはずです。」

そう教えてくれたシェラさんの言葉通り、少し
進めばやがて人の声が聞こえて来た。

「あっ、もう着いたんすか⁉︎早っ、またユーリ様に
無理させるような強行軍をして来てないすよね?」

ユリウスさんだ。会うなり騒がしい男ですねと言う
シェラさんの前でローブのフードをすぽんと脱げば、
周りには騎士団や魔導士団の人たちと一緒に白い
神官服に身を包んだ神官さん達もいた。

「お待たせしました!」

馬の上で高いところから失礼しますと頭を下げれば、
皆が一斉に礼を取る。

神官さん達なんかは一層深く頭を下げてくれて
まだ何もしてないうちから大袈裟だ。

「ええ・・・?」

コワモテのおじさん達に大きな声を出されても怖い
とかは感じないけどこうやって恐縮されるのは一番
苦手だ。

馬上なのでどこかに隠れる事もできず、思わず身を
引けば背後のシェラさんにとんとぶつかり背中を
預ける形になる。

それにシェラさんがおや、と声を上げて

「誰も見ていない暗がりで頼られないのは寂しい
ですが、こうして他の者達の目の前で甘えられるのも
悪くないですね」

そんな事を言って笑う。

「そんなつもりはないですよ⁉︎」

こそこそと言ったけど、シェラさんは他の人達には
分からない程度の強さで私を挟む手綱を取る両腕を
まるで抱き締めるかのように僅かにきゅっとせばめた
のだった。



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