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第十九章 聖女が街にやって来た

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せっかくシェラさんが綺麗に飾り付けてくれたのに聖女様が来れなくなったのでその必要がなくなってしまった。

「とりあえずリース君達が頑張って準備してくれたお菓子でも食べますかね・・・」

食べながら聖女様のことを考える。

庭園のバルコニーで見かけたあの人がそうなら、そんなに病弱そうでもなかったけど。

午前中は普通に大神殿に出かけていたんだし、ここを訪問する直前に具合が悪くなるなんて疲れでも溜まっていたんだろうか。

でもそれならますます自分で自分を癒せないのは不思議だ。

それとも私と違って自分のことは治せないタイプの人?
そういう人もいるのかなあ。

・・・いや、ユリウスさんも任務で疲れた時は自分の体をポンと叩いてセルフ治癒魔法で体の疲れを回復していた。

ユリウスさん達普通の魔導士でも出来ることを聖女様と呼ばれるほどの人が出来ないはずがない。

「やっぱり何かおかしいです・・・」

直接会えれば何がおかしいのか分かったのかな。

そう思えば今日聖女様に会えなかったのが途端に残念に思えてきた。

そんな風にあれこれ考えていたら、

「ユーリ様、王宮庭園の庭師からユーリ様へ薔薇への加護を付けて欲しいとのお願いが参りましたが・・・どうしましょう?」

シンシアさんがやって来てそう言った。

「え?その庭園なら昨日陛下のところへお呼ばれした帰りに加護を付けてきましたけど?」

「宮殿に近い部分が一部枯れたようになっているそうです。できればそこに加護を、というお願いですが忙しければお断りしても大丈夫ですよ。」

予定も空きましたしユーリ様も明日の謁見に備えて今日はもうゆっくりと過ごされては?と気を使われた。

だけどあの綺麗なバラ園が一部とはいえ枯れているのはかわいそうだし見栄えも悪い。

喜んで行きますよ、と返事をして王宮へと足を運べば花が立ち枯れているそこは私がシグウェルさんと聖女様らしい人を見かけたバルコニーのすぐ側だった。

「なんでまたこの場所が・・・」

茶色く変色してかさかさになった葉っぱを手に取る。

あの二人がここにいた時はどうだったろう?まだその時バラは咲いていただろうか。

よく覚えていない。

とりあえず力を使えば、花はみるみる勢いを取り戻して庭師さんにお礼を言われた。

そうして奥の院に戻ると昼に話していた通りシェラさんも待っていて一緒に夕食を取る。

「殿下は明日の謁見に向けてのこまごまとした仕事を片付けてからこちらへ戻るそうですよ。ユーリ様がまだ起きているうちに戻られれば良いのですが」

王宮に報告へ行きがてら殿下にもお会いしましたがお疲れのようでした、ともシェラさんは言った。

出来れば癒しの力で疲れを取ってあげたいなと思ったけど、結局その日も私達が夕食を取り食後の時間を一緒に過ごしている間にリオン様は現れなかった。

「仕方ありませんね、明日も謁見のために早くから準備がありますしもうお休みしましょうか。
お支度はオレが手伝いますが護衛の騎士は陛下直属の者達がこちらに参ります。
王宮までオレは同行出来ませんがその分出掛けるまではしっかりとお世話をさせていただきますからね。」

そんな事を言って寝室へと見送られた。

陛下の騎士が迎えに来てシェラさんが一緒じゃないということは、リオン様もレジナスさんも一緒じゃないんだろうなあ。

少し残念に思いながら部屋の扉を開ければ、ベッドに誰か腰掛けている。

ぎょっとして、一瞬部屋の外のエル君を呼ぼうかと後退りかけたけどよく見れば暗がりの中で月に照らされ銀色の髪の毛がきらりと輝いた。

「シグウェルさん⁉︎」

「久しぶりだな」

ベッドに腰掛けたまま私を見たのはシグウェルさんその人だった。

久しぶりに見るアメジスト色の瞳は月光にきらりと宝石のように耀いて、薄く笑った気配がする。

「どうしたんですか、こんな時間に!」

慌てて駆け寄れば、シグウェルさんは腰掛けたままじっと私を見つめて頬に手を伸ばされた。

「シェラザード隊長から聞いた。心配をかけたか?」

そのままそっと頬を撫でられれば、いつものあのひんやりとしたシグウェルさんの体温が伝わる。

「・・・変わりなさそうで良かった。俺はどうだ、君から見て変わりなく見えるか?」

不思議な事を聞いてくるなと思いながらその顔を見下ろせば、真剣な目で見つめ返された。

いつも通りの氷の彫像のように整った白皙の美貌が銀色の髪に縁取られて月光に耀いている。

「どこも変わりなく見えますけど?」

相変わらずお美しいことで。

・・・とまでは言わないけど答えた私にシグウェルさんはそうか、とほっと息をついたようだった。

「シグウェルさん?何かありましたか?」

「ああ、いや。詳しいことは明日の謁見後に話そうと思う。本当は会うのもそれからにしようと思っていたんだが、存外君が寂しそうだと聞いたからな。」

「さ、寂しそうって・・・。別にそんなでもないのにシェラさん、余計なこと言って!」

そこで素直に「会いたかったです」と言えない自分にがっかりしながらうろうろと視線を彷徨わせる。

そんな私を見て僅かに微笑みを浮かべたシグウェルさんはすいと立ち上がった。

途端に私が見下ろされる側になる。

そのままゆっくりと口付けられて、顔を離されると

「ああそうだ。王都の結界の件だが大体の原因も判明したから安心するといい」

とついでのように言われた。

「分かったんですか⁉︎」

「それについても詳しくはまた後で話すがとりあえずもう心配はいらない」

良かった。でも原因が分かったならもっと早く教えてくれても良かったのに。

そんな不満が顔に出たのか、

「大きくなっても相変わらず気持ちが分かりやすい表情をするんだな。飽きなくて俺はいいが、明日の謁見では気を付けろ。」

面白そうに目を細めたシグウェルさんにまた一つ
口付けを落とされた。

「それから、来たついでにオレに守りの加護を付けてくれるか?」

抱きしめられたまま思い出したかのように囁かれる。

「守りの加護?」

「そんなに大したものでなくていい。俺の精神や心を歪めようとするような、人の心に手を突っ込んで自分の思い通りにしようとするようなものを弾く、そんな加護だ。」

精神を操作しようとするような影響力のあるものから守ってくれる加護が欲しいということかな?

「前に君のくれたブレスレットのおかげで大分助かってはいるが、まあ念の為だ。」

意味が良く分からないけど魔法に関しては超一流のシグウェルさんがそこまで用心するなら何かあるのだろう。

いいですよ、と頷けば

「では頼む」

ともう一度、改めて抱きしめられると今度はさっきよりもっとしっかり口付けられた。

ちょっと・・・!まさかこのまま加護を付けろって事⁉︎

慌てたけどとにかくシグウェルさんの望む通りの加護を付けよう。集中だ。

顔が熱を持って熱くなって、それが逆に寄せられたシグウェルさんのひんやりと冷たい頬を心地よく感じながら一心に願う。

シグウェルさんが望むように、その心が揺らがない誰にも干渉されることのない結界のような加護を。

瞼の裏に淡く金色の光が溢れた。

「礼を言う」

顔を離したシグウェルさんの指が私の唇を、その感触を確かめるかのように優しくなぞった。

「お礼なんて別にいいですけど・・・」

でも何のために。そう聞こうとした時だ。

リオン様との共有の部屋に繋がる扉が小さくノックされた。それと同時に

「遅くにごめんユーリ。まだ休んだばかりだと聞いたんだけど、ちょっといい?まだ起きてる?」

久しぶりに聞くリオン様の声がした。

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