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34 ノシュカト
しおりを挟む朝になり山を登る支度をする。
昨日探索した辺まで馬でいき、近くの木に馬を繋ぎ必要な荷物を背負い出発する。
2人は馬と荷物の見張りのために残ってもらい、他の5人と僕とで歩き始める
緩やかな傾斜が続く道をしばらく行くと、小型の魔獣が現れ始めた。
どういう事だ?
魔獣が山に移動しているのか?
帰ったら兄上達に報告しなければ。
さらに進むと黄色いバリバナという花を見つけた。
軟膏になる花で需要はあるので今のうちから栽培出来るようにしておいた方がいいと思われる植物の1つだ。
根元から土ごと採取して、植物を保管する容器に入れる。
この中でなら植物は4~5日は元気でいられる。
途中で休憩をしながら奥へ進んで行くと、小型の魔獣が現れる。
やはり森にいなかった分出現頻度が高い気がする。
それとも元々山には魔獣が多かったのだろうか。
兄上達に報告すれば調査する事になるかもしれない。
なるべく殺したくはないが、魔獣は人間を見ると襲って来る。今は剣を振るう事でしか解決出来ない。
探索を続けて行くと空模様が怪しくなってきた。
今日は早めに引き上げた方が良さそうだと皆に伝え山を下り始めたとき、視界の端に動くものがあった。
皆と少し離れてしまうが様子を見てすぐに戻るつもりだったのでなにも言わずに離れてしまった。
そこにはロープが足に絡まり逆さ吊りにされたキツネの子供がぶら下がっていて、その下で親のキツネ2匹と吊るされているキツネの兄弟であろう小さなキツネが1匹心配そうにウロウロと歩き回っていた。
これは密猟者が仕掛けた罠だ。
近くに密猟者はいないようだがこんなところにまで来ていたとは。
しかし罠は新しくはないようだから、仕掛けた事を忘れて放置されたものかもしれない。
ロープを切って下ろしてやろうと思い近づくと親キツネに威嚇されてしまった。
どうやら密猟者だと思われているのかもしれない。
仕方がないので木に巻き付けてあるロープを切ってゆっくり下ろしてやる。
キツネ達が近づき匂いを嗅いだりなめたりして無事を確認している。
足に絡まっているロープを外してやりたいのだが、そろそろ近づいても大丈夫だろうか。
ゆっくりと近づくと親キツネ達は少しずつ離れていく。
近くで様子をみることにしたらしい。
吊るされていた子キツネの元に怖がらせないようにゆっくりと近づく。
子キツネの元にたどり着いた。
「もう大丈夫だよ」
と言おうとした瞬間、地面が抜け、僕は子キツネを抱いたまま落ちていった。
少しの間気を失っていたらしい。
一緒に落ちた子キツネが心配そうに私の顔に鼻先を近づけている。
「大丈夫だ」……そう言おうとした瞬間、鋭い痛みが右足に走った。
「ぐっぅ……!」
何だ!? ケガをしたのか!?
右足の太ももには槍が刺さっていて、足首は折れているかもしれない。
辺りを見回すと意図的に作られた落とし穴のようだ。
深さもあるしおそらくこれは大型の動物を狙って作られたものだろう。
子供はロープで吊るされ、親は重みで落ちる仕掛けだ。
下には槍や尖らせた木を立てておき、親が追ってこられないように傷つける。
そんな親の目の前で子供を拐っていくのだ。
怒りもわいてくるがまずはこの状況をどうにかしなければ。
間の悪いことに雨が降りだした。
近衛兵がまだ近くにいるはずだと大声も出してみたが深い穴と雨音にかき消されてしまったようだ。
探しているであろう向こうの声もこちらには届かない。
植物の調査に出るときは何かあっても採取した植物を優先して行動するように言ってあるので、近衛兵達は一旦馬のいるところまで戻り、僕が見つからなかったらそのまま馬を走らせ城へ戻り捜索隊を連れて戻って来るだろう。
だが、ここを見付けられるだろうか。
焦るな。落ち着こう。
今できることをやっておかなければ。
子キツネの足のロープを切ってやる。
上から心配そうに覗きこむキツネの親子の顔が見える。
「お前なら登れるよ。行きなさい」
頭を撫でてやると、子キツネはジッと僕を見つめてからようやく穴を登り始めた。
親キツネが子キツネの首を咥え最後に引っ張りあげるのを見て安心すると僕はまた意識を手離した。
遠くで雷が轟いている。
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