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しおりを挟むノバルト達がザイダイバに到着した。
街ではリアザイア王国一行が通る道沿いに人が集まり歓声が上がりまるでパレードのようだったとお城の中の噂話で聞いた。
お城に到着されているらしいけれど、私はまだみなさんとは顔を合わせていない。
お城で今のお仕事を任されてからはお部屋にいる時間が長いので食事の時以外ほとんど誰とも会っていない……不思議なことにこうなるとティナ様が少し恋しくなる。
あの無駄なお喋りを思いだしクスリと笑う。
「……何か良いことでもあったのかしら……」
前王妃のエライラ様がちょうど目を覚まし微笑みながらこちらをみていた。
「お目覚めでしたか、失礼致しました」
エライラ様が起き上がり
「良いのよ。最近調子も良くなっているし、ノアもエイダも付きっきりでなくても大丈夫よ」
そう言うエライラ様のお顔は初めてお会いした頃よりも少しだけふっくらとして瞳も虚ろではなくなっている。
リアザイアの王妃エイベル様と親戚というだけあってどことなく似ていて美しい。
「紹介状も読ませてもらったし……彼女が紹介状を持たせた貴方のことも信用しているのよ。お城を自由に歩き回ってもらってもいいし、むしろそうして欲しいわ」
王妃様の書いた紹介状一回見せて欲しい。読んだ人みんなが信用してくれる。
「エイダさんと交代で休憩をいただいている時にお庭をたくさん歩かせて頂いています」
「お城の中には図書館や植物を研究しているお部屋もあるのよ。リアザイアからのお客様がいらしているから人は少ないかもしれないけれど、興味があればそちらもみてね」
エライラ様は少し休むわと言い再び眠りについた。
少しするとエイダさんが戻って来て私は交代でお部屋を後にした。
……図書館か……行ってみようかな。
……来て良かった……図書館! 物凄い量の本!
どんな本があるんだろう。どんな本でもありそう。
図鑑や辞典、歴史書、医学書、小説、子供向けの童話もある。どんなお話があるのかな?
読みやすそうな童話の本を手に取りパラパラ。
……どこかで読んだことがあるお話。
元の世界ではほとんどの人が知っているくらい有名な真実の愛の物語。
どういうこと?
本に意識がいっていたからかいつの間にか図書館にもう1人誰かいることに全く気がつかなかった。
長髪を緩く束ねてゆったりとした服を着ている背の高い男性……植物と医学の本を持って本棚を眺めている。
ハシゴがなくても高いところの本も取れるんだろうなぁ。
男性は私に気付いているのかいないのかわからないけれど、私はいくつか童話を読んでから邪魔をしないようにそっと図書館を後にした。
次は植物を研究している所に行ってみようかな。
それにしても不思議なこともあるものだ。世界は違えど似たような物語は生まれるものなんだなぁ。
そんなことを考えながら歩いていると……迷った。
そもそも植物を研究しているお部屋がどこにあるかわからないのだった。
誰かに会ったら聞けばいいか、と思いながら歩き続けているといつの間にか図書館で見かけた男性が前を歩いている。
彼に聞いてみようと追いかけたけれど股下の長さの関係からか全然距離が縮まらない……
そうこうしているうちに、彼はドアを開けて室内へ入ってしまった。
ドアには植物研究と書いてあるプレートがぶら下がっている。
目的地に着いてしまった。
という事は彼は研究員なのかな。
コン コン コン
返事はない。あれ? 中にいるはずだよね? さっきの人……
もう一度ノックをしたけれどやっぱり返事がないのでそっとドアを開けてみる。
うわぁ。うちの作業部屋みたいだけれど広くて物も本も実験道具もたくさんある。
ノシュカトもお城の研究室で作業できれば……でも最近はうちの作業部屋にいろいろ持ち込んでいるみたいだし……
だから手狭になっているかも。
庭に新たに作業できる小屋でも建てようか?
その時の参考にさせてもらうために室内をみて回ろうと中へ入る。
少し中へ入るとあの男性がいた。机に高く積まれた本の陰に隠れて見えなかった……
メガネをかけてインテリっぽいイケメンの男性。
私はメガネをかけてもインテリっぽくならないのに……
「あの、勝手に入ってしまってすみません。ノックはしたのですが」
「…………」
あ、あれ? 聞こえなかったかな?
「あの、少し見て回ってもいいですか?」
彼は本を読んだままコクリと頷いた。
聞こえてはいるみたい。
研究室に入ると机がいくつかあり本棚や書類をまとめたものを入れておく棚があったけれど、それぞれの机の上にもたくさん本や書類が積まれていた。
そこから奥へ進むと作業台があり様々な研究が出来るようになっているみたい。
特に仕切りはないから入ってすぐに全体を見渡せる。
作業をしながらすぐに調べ物も出来るし逆に気になったらすぐに作業ができる。
ガラスの容器にラベルが貼ってありバリバナで作った軟膏もある。
私が作ったものを取り出して見比べて見る。
私の方はムカの葉の液を入れているからここにあるものよりもう少し水っぽい。
ハンドクリームのように塗ったあとベタつかないようにしたいし、香り付けもしてみたい。
まだまだ改良の余地がある。
「君、何か珍しい植物を持っているの?」
ビクゥッ! 突然耳元で声がして驚いた。
「い、いいえ、持っておりません」
ふぅ……この人も気配を消す感じか。気を付けよう。
「…………そう……か?」
? 何なんだろう……?
「それは君が作ったのか」
「は……はい」
「軟膏に何を入れた?」
「ムカの葉の液です」
「なぜ」
「荒れた手に塗ると痛みが引くので」
「なるほど……君が考えたのか?」
「? はい」
こういうのってもうあるんじゃないの?
「もう少し塗った後にさらっとさせたいのですが……あとお花や紅茶や果物みたいな香りも付けられたらと考えておりました」
彼は顎に手を当てフム、と少し考えて瓶の中からバリバナの軟膏を計量スプーンですくい、他の瓶から琥珀色の液体もすくい混ぜ始めた。それから別の瓶から透明な液体をすくいまた混ぜる。
すると…………クリームになった……すごいっ!
「バリバナを煮詰めるときに紅茶や大量の花、果物の皮などと一緒に煮詰めると香りが移るはずだ」
「……すごい……すごいっ! 天才っ!」
わぁ――わぁ――と喜んでいるとその天才と初めて目があった。
「すごいですね! あっという間に考えていたことを実現してしまうなんて! 魔法みたい!」
彼は驚いているのか少し目を見開き私を見ている。
「君は誰だ」
今ですか――
「失礼しました。私はノアと申します。お城で働かせて頂いています」
そろそろ戻らないと……
「そうか。僕はリュカだ」
なんとなくそうだと思った。ノシュカトが言っていた優秀な植物研究者。
また来てもいいですか? と言うと頷いてくれたので、後でクリームの材料を教えてもらおう。
仕事に戻らなければならないのでまた来ます、と言い部屋を後にした。
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