異世界転移の……説明なし!

サイカ

文字の大きさ
上 下
171 / 251

171

しおりを挟む


 ドサッ、とソファーに下ろされる。


もぞもぞと布から出ると目の前にカイル様……
ジッと見つめ合い……無言……いや、説明してほしい。

キョロキョロと見回す……良かった三毛猫さんもちゃんといる。
それにしてもこの部屋って……

「ここは私の部屋だよ」

キョロキョロしすぎたかな……でもようやくしゃべった……

「乱暴に連れてきてしまってすまなかったね」

ニッコリしているけれど……本当にそう思ってますか……

「来てくれて嬉しいよ、しばらくの間よろしくね」

機嫌が良さそう、思い通りになったからかな。
まぁいい、機嫌を損ねないように当たり障りなく過ごそう。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

そう言うと、それじゃぁ早速これに着替えて、と渡された制服。

「うちの使用人の制服だよ。着替えたらノアの部屋に案内するから」

着替えるって……どこで? 私の部屋に案内してもらってからじゃ駄目なの? 戸惑っているとあぁ、うっかりしていた、とカイル様が奥のドアを開ける。

「ここで着替えて」

「……はい」

って……ここ、カイル様の寝室っ、慌てて出ようとしたけれど目の前でドアを閉められた。
……まぁ本人がいいって言うならいいか、三毛猫さんもいるし。

渡された制服を広げると……まぁ、可愛い!
メイド服っ……どういうつもり!? 間違えたとも思えない感じだったし……まさか女だとバレた……とか?

と……とりあえず着替えよう……早くこの部屋からも出たいし。
着替えてからドアを開けて一応顔だけ出して確認する。

「あのぅ……カイル様、制服がメイドのものなのですが……」

間違っていませんか? と……

「あぁ、メイドの制服を渡したからね。サイズは大丈夫かな?」

サイズは大丈夫なんだけれどもどうして……

「恥ずかしがらずに出ておいで」

さぁ、と……恥ずかしくはないのだけれど思惑がわからない……とりあえず言われた通りにしようか……

寝室から出てカイル様の前に立つと全身を見られる……
ニコニコと満足そう……私はどこを見ていいのかわからずうつむく。

「恥ずかしいかい? 男なのにこんな格好。ここにいる間はその制服を着てもらうからね。よく似合っているよ」

バ、バレていなかったーー! 脅かさないでっ!
単なるドSかっ! ……? ……ドS?

よくわからないけれどそう思ってしまった……直感的なものが働いたというか……
とにかく、残念ながらこの格好には何の抵抗もない……なぜなら私は女だから。

これがしたくて人目に付かないように来させたのか……ここで女性として働かせるために……

はい、とカツラと女性用の下着と胸の詰め物とネグリジェを渡された。
あ……はい。と受け取ったけれどここまでする……? ヘンタ……変わった趣味だ……

「バレないように過ごすのだよ。もしバレたら……」

バ、バレたら……? ゴクリ……

「君の身体は私がもらうからね」

だっ……代償が大き過ぎるーーっっ!!
何て理不尽な……でもバレない自信しかない! 何故なら私は女だからねっ!

でもはっきりと返事をするのは何か怖いから笑って誤魔化そう……アハハ……
すると顎を持ち上げられ至近距離で

「返事は?」

と……顔怖いよ……誤魔化されてはくれなかった……

「……はい」

うん、いいコだね、と微笑み頭を撫でられる。
何か早速躾られているような……

女だとバレないように女の振りをしなければならなくなった……なんてややこしいことをさせるんだ……

渡された下着を持ってきた荷物と一緒にまとめてカツラをかぶる。それからカイル様がメイドさんを呼んだ。

お城でのパーティーもあるしあまり女性の姿はさらしたくないので目元が曖昧になる程度に前髪は長めになるようにカツラをかぶった。

カイル様はお部屋に残りメイドさんが私の部屋へ案内してくれたので歩きながら自己紹介をした。

侯爵家も使用人の寮があるみたいだけれど私はお屋敷の中にある使用人用の部屋を与えられた。
一人部屋は有難いけれどどうして? と思っていると案内をしてくれているメイドのミアが教えてくれた。

「ノアはカイル様付きのメイドだから呼ばれたらすぐにカイル様の元へ向かえるようにお屋敷のお部屋になったのよ」

呼ばれたらすぐ行かなきゃいけないのか……

「それにしてもノアは優秀なのね、カイル様がご自分にメイドを付けるのは初めてよ。しかもご自分で連れて来られるなんて……」

へぇ……残念ながら優秀とかではないのだけれど……

「羨ましいわぁ、あんなに素敵でお優しいカイル様のメイドになれるなんてっ」

……確かに容姿は整っているけれど……お優しい……?
うん……きっとこれからお優しいところが見られるのかな……

エヘヘ、と曖昧に笑っておこう。
部屋に荷物を置いてからメイド長にご挨拶をしに行く。

「メイド長のマリアナです」

よろしくお願いします、とご挨拶をすると仕事のお話が始まる。

「ノアはカイル様付きのメイドなのでカイル様に呼ばれたらそちらを優先してください。まずはこのお屋敷に馴れていただくためにミアと一緒に仕事をしていただきます」

頼むわね、とマリアナメイド長がミアに微笑む。
ミアもマリアナメイド長にはいっ、と元気よく返事をして笑っている。

「それでは、よろしくお願いします」

そう言ってマリアナメイド長は行ってしまった。
ミアが振り向き私を見てフフフッと笑う。

「マリアナメイド長はね、ちょっと堅い話し方をするけれどとっても優しいのよ」

と教えてくれた。

「それじゃぁ仕事をしながらお屋敷を案内するわね」

「よろしくお願いします」

とお屋敷の中を歩いていると、

「あ、ローガン様だわ」

えっ!?

ミアがローガン様に向かってスタスタと歩きだす。
歩くの速いな……

「お帰りなさいませ、ローガン様。こちら本日からカイル様付きのメイドとなりますノアです」

ノア? とローガン様が反応する……そうです、あなたをひっぱたいたノアです。
バレないようにご挨拶をしなければ……なるべく顔を見られないように……

「本日よりお世話になります、ノアと申します」

そう言って頭を下げる。

「………………」

む、無言…………つむじに視線を感じる。
ローガン様? とミアが首を傾げる。

「……あぁ、すまない。兄上付きのメイドか、よろしく。困った事があったらいつでも言ってくれ」

あれ? 何だかお茶会で会った時と印象が違うような……
ローガン様が行ってしまうとミアが教えてくれた。

「クレメン侯爵家の皆様は使用人にもお優しくて働きやすいように私達の意見もよく聞いてくださるのよ」

自慢気に話すミアが可愛い……けれどここの兄弟の印象が私とはずいぶんと違うみたい……不思議だ……

それから一通りお屋敷の案内をしてもらいながらミアと一緒に仕事をこなしていった。
三毛猫さんは自由に歩き回り探検をしているみたい。

使用人の食堂とお屋敷にある使用人用のお風呂も案内してもらってから私はお屋敷の使用人部屋に、ミアは寮の部屋へと戻っていった。

ふぅ……カツラをとり同じくらいの色と長さに髪を変える。ここではサラシも巻かなくていいか……意外と快適に過ごせそう。

早速部屋にゲートを作る。お屋敷の女湯に入った事がカイル様にバレたら大変なことになりそうだし……
とりあえず今は三毛猫さんが戻って来たら温泉にでも行こうかな。

そんなことを考えているとドアの外からニャーと聞こえてきた。
三毛猫さんが帰ってきた。

「三毛猫さん、お帰りー」

トコトコと部屋に入りベッドにゴロン。
どこに行ってきたのかなぁ……触らせてくださいっ……ナデナデ。
三毛猫さんを堪能してから私は温泉へ向かった。
慣れないお屋敷での疲れを癒してから私もベッドにゴロン。


ちなみにカイル様に渡されたネグリジェは綺麗に畳んでしまっておいた……

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

堅物監察官は、転生聖女に振り回される。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,379pt お気に入り:150

殿下、それは私の妹です~間違えたと言われても困ります~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,996pt お気に入り:5,281

ヘタレな師団長様は麗しの花をひっそり愛でる

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:262

婚約破棄署名したらどうでも良くなった僕の話

BL / 完結 24h.ポイント:2,651pt お気に入り:2,145

運命の番を見つけることがわかっている婚約者に尽くした結果

恋愛 / 完結 24h.ポイント:18,605pt お気に入り:266

勘違いしちゃってお付き合いはじめることになりました

BL / 完結 24h.ポイント:2,960pt お気に入り:550

処理中です...