異世界転移の……説明なし!

サイカ

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 再び歩き出すと……


廊下には絵が飾ってあってその中の一枚に目が止まる。
風景画……この花って……

「フロラの絵が気に入ったのかな?」

ロイク殿下……桜の木に花が満開の絵……こっちではフロラって言うんだ。

「はい……私の故郷にも咲いていたので……」

そうか、と微笑むロイク殿下だけれどもなんだか……? 

「城の庭にもフロラの大きな木が生えているよ。今は花が咲いていないけれどね」

そんなに親しいわけではないけれどもそれにしても他人行儀と言うか……張り付いたような笑顔……

「失礼、初めまして。私はロイクだ」

…………知っています…………

「迷ったのかな?」

迷っているのか探検しているのか……そんなことより

「あの……ロイク殿下……?」

何かな? ニコリと微笑むロイク殿下……素敵だけれど作ってるなぁー

「ロイク殿下?」

「ん?」 

ニコリとこちらを見ているけれど……気がつかないかな。

「ん!?」

あ、気がついた……

「トーカか!?」

驚いているけれど何とか声は押さえてくれた。

「はい、私です」

なんかすみません、と眉を下げて微笑むとため息をつくロイク殿下……

「いや……私の方こそすまない。最近……」



「何です?」

言いかけてやめられると余計気になる。
ため息をつきながらロイク殿下が

「最近特に積極的でね……ご令嬢方が」

図書室の本を借りにとか、綺麗なお庭を拝見したくてとか、何かと理由を付けてお城へやって来るのだとか。
そしてロイク殿下を探して勝手に歩き回ると……

「今回は特に他国の王族……それも独身の王子ばかりが滞在しているからね……」

王子も大変だな……メイドさん達が心配していたのもこのことかな。

それにしても、

「気が付かれなかったということは私の変装は成功ですね」

フフフッと笑うとロイク殿下の肩の力も抜けたみたい。

「ところでトーカは何をしていたのかな?」

ちょうど良かった、

「図書室はどちらになりますか?」

あぁ、図書室なら……と場所を教えてもらいロイク殿下と別れる。
教えてもらった通りに進むと着いた。広いからわからないけれど図書室には誰もいなさそう。

本は何となく分野別になっているのかな。歩きながらみているとそんな感じ。

所々にテーブルと椅子が置いてあるから何時間でも図書室にいられそう。

子供向けの本棚で一冊手に取ってみる。
パラパラとめくると可愛い動物の絵も描いてある。

本を戻しさらに奥へ進んでいくと……話し声?
声のする方へ行くと、ノシュカトとリュカ様だ。

ということは……周りを見回すと植物関連の本がたくさん。

テーブルに本が何冊か開かれて置いてありそれを見ながら二人が時々小さな声で話をしている。

不意にリュカ様がこちらを見る。目があって……いるよね?
ご挨拶……と思って歩きだそうとすると目をそらされた。

これは……邪魔をしない方がいいかな。
この辺りは後で見ることにして、と移動しようとすると今度はノシュカトがこちらに気が付く。

あれ? 一瞬表情が曇った様に見えたけれどすぐにニコリと微笑む。ノシュカト目が悪いとか……?

リュカ様とは違い微笑みながらこちらに歩いてくるノシュカト。張り付いたような笑顔……

「……! トーカ」

嬉しそうな笑顔……いつもの可愛いノシュカト。
さては目があった時私だと気が付いていなかったな……
ご令嬢に囲まれたときの表情だったもの。

「ノシュカト、邪魔しちゃったかな」

こちらにはまったく関心を示さず本を読み続けているリュカ様をチラリとみる。

「リュカのことは気にしないで。ドレス、とても似合っているよ」

フワリと微笑むノシュカト。可愛い。

「ありがとう、ノシュカト。ここではクロエ・ラングと名乗ることになったの。留学生という設定だよ」

ノシュカトがそうだった、と呟き

「他の人がいるときは気を付けるよ。後で一緒にお茶を飲もう」

ニコリと微笑みうん、と返事をするとまた後でね、とノシュカトと別れる。

図書室を後にして今度は庭に出てみよう。ロイク殿下が桜の木……こちらで言うフロラの大きな木があると言っていた。

お城の外に出ると確かに大きな木が見える。その手前、お城を出て少し歩いたところに柵があり馬達がいる。
もちろん寄っていく。

柵に近づくと私に気がついた馬達がパカパカと寄ってくる。可愛い。

ポケットに手を入れてニンジンを探そうと思ったけれど……ローズ様からお借りしているドレスだからポケットがないんだった。

残念。ごめんね、と手を伸ばし撫でようとすると

「こんにちは、お嬢さん」

声をかけられて振り返ると馬に乗ったセオドア。

「一人でこんなところに来ては危ないですよ」

そう言ってヒラリと馬からおりて近づいてくる。

「私はセオドアと申します。お名前を教えていただけますか?」

ニコリと微笑むセオドア。このパターンは……

「こんにちは、お気遣いありがとうございます。私はクロエと申します」

こう名乗るとクロエか、素敵な名前だね、と微笑む……

セオドアは王子様の中で一番コミュニケーション能力が高いのかも……いろいろなところを旅してたくさんの人達と関わってきたからかな。
何より本人が人と関わるのが好きそう……

「ところでここで何を?」

皆さん気がつかないものだなぁ……これならパーティーで知っている人に会っても大丈夫かも。

「お庭を散歩していたら迷ってしまって……」

口元に手をそえて困り顔をしてみると

「それは大変でしたね」

セオドアも困り顔をしてくれる。

「セオドアは何をしていたの?」

ニコリと微笑み聞いてみる。

「私は少し馬を走らせて……いたんだよ、トーカ」

気がついた、と笑うとセオドアも笑う。

「ずいぶんと印象が変わるね、その髪と瞳の色も素敵だよ」

「ありがとう、セオドア。結局他国からの留学生という設定になったよ」

顔を見合わせ笑う。

「今回は何も起こらないだろう。ノヴァルト殿がエスコートをしてくれるのだし」

……それが心配でもある……
ノバルトに限らずこのお城にいる王子様は皆さん独身だ……
今目の前にいるセオドアも。
パーティーの間は少し離れていたい気もする。

きっとあの王子様への挨拶ラッシュがあるからほとんど側にはいられないと思うし、とりあえず私は料理を楽しむくらいの気持ちで参加するつもり。

心の中でそんなことを思いながらもそうだね、と微笑む。
もう少し馬を走らせるから一緒に来るか? とセオドアに誘われたけれども後で一緒にお茶をのもうと約束をして別れた。

馬に乗って駆けていくセオドアを本当に外が好きな人なんだなぁ、と思いながら見送る。

さて、今度こそフロラの木へ向かおう。

芝生のように草が生えているから靴を脱いで裸足で歩く。
本当は楽な服に着替えもしたいけれどお城ではそっちの方が目立ってしまいそう。

草の感触が気持ちよくて最初は楽しく歩いていた。
歩いて歩いて歩いて…………って遠いな!?
お城の庭の広さをなめていた……馬で移動するレベルよこれは……

まぁ……私には魔法があるから使いましょう。
一応周りをキョロキョロと確認して結界を張る。
フワリとひとっ飛びでフロラの木の元へ……

大きい……私の知っている桜の木の大きさじゃない……
木の幹も見たことがないくらい太い。

立派な木だなぁ……フヨフヨと木の周りを飛んでみる。
あ、卵はないけれど鳥の巣がいくつかある。小鳥達が可愛い。

とりあえず地面に着地して結界を解く。
木の幹に近づき……抱きつくっ!
何となくそうしてみたくなったからそうしたけれど全然手が回らない太さになんだか嬉しくなる。

ここまで立派に育って偉いね、と思ったけれど私よりも遥かに生まれてからの年数が経っている大木に生意気にもそんなことを思ってしまった事がおかしくてクスクスと笑ってしまう。

周りを確認してからフワリと浮かびいい感じに幅のある枝に着地する。高い……こんなところに人がいるとは思わないだろう。

座り心地の良さそうなところを見つけて座って周りを見渡す。
遠くまで見渡せるしサワサワと風が吹いて気持ちいい。
歩き回った疲れもあってウトウトとしてくる。


いい場所を教えてもらった。
後で三毛猫さんとも一緒に来ようと考えながら瞼を閉じた…………

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