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しおりを挟む食後、お酒かお茶か好きな方を選んでそれぞれ飲みながらお喋りをしていたけれど、ノバルトの言葉に皆さんが注目する。
「フロラの木の更に向こう側に魔獣が出ました」
キツネだった魔獣が一体、と。
「稀に城の敷地内に出ることがあるが……そうか、ノヴァルト殿その魔獣はどうされましたか」
もし、逃げてしまったならば兵を出して探さなければ……と国王様が言う。
「私が対処しましたのでもういないですよ、一応ご報告を」
ノシュカトがチラリとこちらを見る。
「定期的に敷地内の見回りをしてもらっているが……そうか……念のため明日もう一度見回りをしてもらおう。ありがとう、ノヴァルト殿」
それにしても見事なフロラの木ですね、とまたノバルトが上手く話題を変えて和やかな雰囲気になる。
それからまだお酒を飲む人と部屋へ戻る人と別れ皆さんとの食事は終わった。
私は来たときと同じようにローズ様と一緒に廊下を歩き、私の部屋の前で別れた。
メイドさんがドレスを脱ぐのを手伝ってくれて楽なワンピースに着替えると部屋に一人……と三毛猫さん。
「三毛猫さーん」
「ニャーン」
トコトコとこちらへくる三毛猫さんを抱き上げてギュッとする。
それからフロラの木のことを話して後で一緒に行こうね、と約束をした。
今日は二回もお昼寝をしてしまったのでまだ眠くない。
とりあえずゲートを作り温泉へ行こう。
三毛猫さん用の小さいドアも作ってあるからね、と伝えておく。
温泉に浸かってリラックスしてもまだ眠くならない。
雨は降り続いているし夜だしお城だし……何となくそういう雰囲気がある。
よし、肝だめ…………探検の続き……いや、図書室で本を何冊か借りて読んでいたら眠くなるかも。
お部屋に用意してあった肌触りのいいワンピースのパジャマの上にこちらも用意してあったガウンを羽織りドアを開けようとした瞬間ノックの音が……
ビクッ、と驚いてしまいドキドキしていると
「トーカ、起きている?」
ローズ様? ドアを開けると私と同じようにパジャマの上にガウン姿のローズ様が一人で立っていた。
「トーカ、遅くにごめんなさい。その……少しいいかしら……」
どうぞ、とお部屋に入ってもらいソファーに掛けてもらう。
少し待っていてもらいゲートで山の家へ行き二人分のお茶をいれて戻ってくる。
ローズ様がありがとう、と言いお茶を飲むとホッとしたように息をつく。
「ローズ様、どうしたの?」
タイミングを見計らって聞いてみる。
「あの……ね、トーカ……」
……ゴクリ……なんだか深刻そう……
「私……生まれたときからお城に住んでいるのだけれど……」
うん、お姫様だものね。
「どきどきお忍びで街に行くでしょう? そこでマーサと知り合ったのだけれど……」
うん。
「マーサがいろいろなお店に連れていってくれて、たくさんの人達と食事をしたりしてとても賑やかで楽しかったの……」
確かに私も連れていってもらったお店はお酒も飲めるから騒がしいくらいのときもあった。
「今まで何とも思っていなかった事が違う風に見えてくる事ってあるわよね……」
……何が言いたいのだろう……
「…………お城って……怖くない?」
え?
「こういう……雨の降る夜とか……」
自分の家が怖いってか……
まぁ確かに広いしどこもかしこも明るいわけではないし……
「さっき魔獣のお話も聞いてしまったし……」
そうだった……不安になって当然かも……だったら
「今夜は一緒に寝る?」
そう聞くと分かりやすく目が輝き
「いいの? よかったっ……あ、でもトーカはどこかへ行くつもりだったのでは……?」
「私も眠れなかったから図書室で本を借りてこようかと思っていたの」
だからちょうどよかった、と笑うとホッとした様子のローズ様。なんだか子供みたいで可愛い。
「確かに雨の降る日の夜のお城は雰囲気があるよね。私もお化け屋敷みたいとか肝だめしが出来そうとか思ったし」
アハハ、と明るい感じで話すと
「お化け屋敷? 肝だめし? とは何かしら?」
あ、失礼だったかも……と思いつつ説明をすると
「面白そうだわ! 明日の夜、他の方々も誘ってやりましょう!」
…………怖いからここへ来たのでは……?
「一人じゃなければ平気よ、使用人ともいろいろと考えて協力してもらってそれから……」
他にも面白いことはないかと聞かれてハロウィンなんかの話もした。ローズ様大喜び……
これは……えーと、やることになったのかな……? ごめんみんな……
「招待状は私が送っておくわ」
招待状……まぁ……いいか、こちらのやり方で……
それからお化け屋敷や肝だめしのことをいろいろと聞かれ、続きはベッドの上で、ということで移動する。
もう結構話したと思うけれど……
三毛猫さんはベッドから降りてソファーへ移動する……すみません。
ベッドに移動してからローズ様の話の内容がガラッと変わる。
「トーカ、これを見てちょうだい」
どこからかポスターのように丸めた紙を取り出す。
広げてみると……
「……列車」
の、設計図っぽいの……
「そうなの! トーカからこの列車の話を聞いてから試行錯誤しているのよ」
ウフフッ、と楽しそうに話すローズ様。
「トーカにも見て欲しくて持ってきたの。とりあえずは形を考えて原動力によって原動機は変わってくるからその辺りはいろいろな人の知恵を借りないといけないかも知れないわ。これだけ大きなものをどうやって動かすのか……」
ローズ様口が止まらない……
「トーカの描いてくれた絵も参考にしてみたのだけれど、車両と車両の連結の部分はどうなっているのかしら? あ、もし知っていてもまだ言わないでね、考えてみたいの。これを走らせるにはどうしたらいいのかしら、繋げたり切り離したりはどうするのかしら。考えるのが楽しいわ」
ワクワクする! と……
「知らないことがたくさんあり過ぎて……原動力になりそうなものの候補は幾つか思い付くけれど他にもあるかもしれないし……お勉強はあまり好きではなかったけれど、目標があればいくらでもできてしまうから不思議だわ。列車を作るために必要なことを学びたくて仕方がないの」
……これは……こっちが本題だな……きっとこの話がしたくてここに来たのか……
私がその事に気が付いたことに気が付いたローズ様がフフフッとはにかむ……
それでもいいのだけれども……一生懸命で可愛いし。
でも私は本当に
「ごめん、私は利用したことはあっても仕組みまではわからないの」
ローズ様はニッコリ微笑み
「いいのよ、私が考えるのが楽しいのだから。私が想像できなかったもののヒントが貰えただけで感謝しているわ。しかも本当に実現できたらどれだけの人々の助けになるか」
その為にも私は知識を身に付けるわ、と。
もし実現できたら長期に渡り大規模な工事もしなくてはならなくなるから国の事業として国民を雇えるだけの蓄えも備えておかなければならない。
「お兄様にも頑張っていただかなければいけないわね」
フフッ、と可愛らしく笑うローズ様も立派な王族だ。
その後もローズ様のお話は続き、私はウトウトしながらも聞いていたけれど……いつの間にか眠ってしまっていた……
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