もう恋なんてしない

前世が蛍の人

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序章

それぞれの思い。ー複数side

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ーハーディーside
ルージュに散々しごかれていたのか、立つことさえやっとな男が目に入った。
たわいもない。

『そこまでじゃ、その手を離してやれ…ルージュ。』
渋々といった表情で手を離したルージュは、彼女の後ろに並び手頃な岩に座る。
少し落ち着きを取り戻したルージュにハーディーは尋ねた。

『…して、あれはどの程度やれたのじゃ?』

『後ろで寝っ転がってる奴らとたいして変わらねぇ。王家の加護があるだけマシなくらいだし、苛つく。』

『ご機嫌斜めのようじゃのう。
見込みがないのならばそれま…クフフッ。』

「私…は、まだっ…戦える……!」
シュヴァルツはボロボロの体でハーディーに剣を向ける。

『そんな体で何が出来るというのじゃ。』
「悪魔に、言われなくとも…!ミカエラだけは!私が…っ守ると、誓ったんだ!!」
ルージュに何か言われたのじゃな?
だが癪に触るな、一度捨てた奴が世迷い事を抜かしておるという事実に。

『お主ではミカエラを守れぬ。
それに、妾達の愛し子を裏切ったお主に最早何も期待などせぬ。』
ハーディーは淡々とその言葉を切って捨てた。
愛し子には妾達がいれば良い。

「私は…誓ったんだ……。」
シュヴァルツの様子にルージュは何かに気づき、後ろからハーディーに囁いた。

『あいつ、よく見れば意識がねぇぞ。』

『無意識…か、これでは何も出来ぬではないか。』

『いやー…すまん。』
仕方がない、あれは元とはいえ愛し子の婚約者。意識が混濁している中、あやつは逃げず言い切ったのに免じ、少しばかり助けてやろう。
ハーディーは精鋭部隊を回収し、開門ゲートに放り込む。

さて、愛し子の元へ帰るとするかの。


ーシュヴァルツside
ここは何処だ。
見渡す限り暗闇の中、気づけば私は1人で立っていた。

(ん…今、僅かに光が見えた気が。)
見えた方へ走る。走って走って…ようやくその光が見えてきた。
逃げてしまう前に早くー。

(私は何故光が逃げると思った?)
そして気づいた。あの光の正体に、今。
ミカエラだ。
彼女は、うずくまって小さくなっていた。
会って彼女に謝りたい。例え…許されなかったとしても、私の思いを伝えなければ。
伸ばした腕は彼女に触れられず、動かない。何故だ、あと少しではないかっ。
彼女は振り返る。目が赤い…やはり泣いていたのか。

(ミカエラっ!)
私に気づいた彼女は、悲しそうな笑顔で何かを口にすると背を向け歩き出した。
あの時と、同じ…光景。

「行くなミカエラっ!!」
勢いに任せて飛び起きたシュヴァルツは鋭い痛みに顔をしかめる。

「殿下っお目覚めになられたのですね!!
貴女、王妃様に今すぐお伝えしてっ早くっっ。」
「はいっ!!」
痛みで目が眩む。
シュヴァルツは再び暗闇に引き戻されるように眠りについたのだった。


ーハルバード国王side
「先程、シュヴァルツ殿下がお目覚めになられたのですがまだ回復されていないのか、再び眠りについたとの事です。」

「そうか…分かった、下がって良い。」
臣下を下がらせベッドに身を預けた。まだいばらの刺が刺さった場所が痛む。
わしの息子シュヴァルツもあの魔女に断罪され、満身創痍の状態だったと聞いている。
しかし、あの魔女はシュヴァルツが率いる精鋭部隊をわざわざ城門まで連れ帰ったとも聞いていた。

「彼女を再び手に入れるのは、至難の業であり…いばらの道であるぞ……シュヴァルツよ。」
魔女は言った。次はない、と。
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