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序章
自由の意味
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セラフィの風に包まれながら、遠く離れた精霊樹の森で私は眠っていた。
あの学園を出てから一週間が経った今、幾分か気持ちが落ち着いてきた…と思う。
その間精霊達は昼夜とわず付きっきりで私の看病をしてくれたお陰である。
現在、セラフィの膝の上に頭を置いて横になっていた。腕…いや翼で私の頭を優しく撫で、
『我が主、お加減はもう良いのか?』
セラフィの気遣う声が上から聞こえた。
6人のうちの一人、風を司る大精霊の彼は鳥のような大きな翼を持ち、盲目の代わりに耳がとても優れている。
この森に来てからその翼で私を温めてくれていたのだった。
「はい…ありがとうございます。心配かけてごめんなさい。」
目が見えない彼に、頬を撫でて感謝を述べた。
『あるじ悪くないっ!
だから謝るの違う!!』
『泣かないで、いつもみたいに笑ってほしいよ…。』
『ずっと一緒!だから泣かないで。』
森の妖精や動物達はここに来てからずっと私を励ましてくれた。その優しさが元気にしてくれるおまじないのような言葉で心が温かくなる。
「そうね、ずっと一緒ですよ。」
笑って見せる。
(何だか、久しぶりに笑えたな…。)
『無理は禁物でございます、今は休息もして下さいまし。』
そこへ水の精霊―ウンディーネと花の妖精ネネが戻ってきた。
『主様、なんとお痛わしい…。このお水でどうか冷やして下さいませ。』
『ネネ、果物採った!食べて食べてっ。』
二人がそれぞれ私に手渡す。ウンディーネにもらった水でのどを癒し、目を清めてもらった。果物はネネと一緒に食べる。
「二人とも、ありがとうございます。」
しばらくして、彼女は身を清めようと思い身体を起こすと、ようやく自身の格好に気づいた。
「…!?な、ななんで私、裸なのですか!?」
…そう、何故か裸だった。正確には、薄布を一枚羽織っただけの姿であるが。
『それは、ハーディー殿がき『ああっ、妾の愛し子よ!気分はどうなのじゃっ!?』噂をすれば…。』
私から少し離れた場所に魔法陣が浮かび上がると、そこから妖艶な美女が急ぎ足で、
しかし優美さを欠けさせない足取りで近づいてくる。
「ハーディー!もう平気です。その…何で私こんな姿なのですか?」
『窮屈そうじゃったから妾が勝手にやった。…まさか、いい嫌じゃったのかっ!?』
ハーディーが珍しくオロオロしてミカエラの様子を伺っていた。
―悪魔ハーディー。
<色欲>を司る悪魔アザゼーが、私と契約を交わし名を与えられ、現在はハーディーを名乗っている。本来は精霊と敵対している関係なのだが、ハーディーが無頓着で気にしない性格だったため精霊と共存出来ている。
「怒ってないですよ?でもこの格好は…はっ、はしたないから戸惑っていたのです…。」
ミカエラの返答に、ハーディーはわざとらしく溜め息を吐いた。
『はしたないじゃと?何故そう思うのじゃ?
あの窮屈そうな箱庭から開放され、王妃の振舞いなど最早必要ないではないか。
今のそなたは自由、ならばどのような格好をしようと誰も文句を言わぬ!!
それと、言葉遣いもその他人行儀みたいな仕草…妾は好かん。』
「確かに私はもうあの国の者ではありませんから…。
しかし、だからと言ってはしたなくするのは戸惑ってしまいます。」
『ふぅー…。
何を戸惑うのだ?
愛情の欠片もない家族も国の存続しか願わぬ王族も今のそなたには関係の無いこと。』
ミカエラの前で止まり、屈んで目線を合わせる。
『今のお主は王妃でもセルディーア家の長女でもない。
ミカエラという名の普通の女子じゃ。
何故わざわざ鎖に繋がれようとするのだ?
もうその手足が自由だと気づいていながら何故動こうとしない?』
私はハーディーの言葉で何かが崩れるのを知る。
「―普通の…女の子??私は自由…?」
その言葉は今の私に重く突き刺さった。
気づけばハーディーにしがみついて叫んでいたのだった。
「だったら…っ私はもう我慢しなくていい!?
王妃の振舞いもっ無理して笑顔でいる事もやめていいの!?
もう一人で耐えなくていいっ?
…もう、頑張らなくていい??
――私は自由になっていいの…っ?」
私の中にあった何かは爆発し涙を流しながら、そう問いかけた。
『そうじゃ、そなたは自由の身。
我慢も虚勢も令嬢も王妃も全て捨ててしまえ。今までの生き方を否定するような人生になったとしても妾達は、永遠にそなたと共に生きようぞ。』
ハーディーは慈愛の表情を浮かべ、私の本音を肯定し抱きしめてくれた。
他の精霊達も同意とばかりに頷き、遠慮なしに彼女を抱きしめる。
『そなたはよく頑張った。
例え誰もが理解せずとも、妾達は知っておる。
あの男の為に見えぬ努力をしてきた事も
王妃に相応しき者になる為に勉学も矜持も進んで励んでいた事も…。
だから、もう楽になって欲しいのじゃ。
今度はそなたの為にやりたい事をやっておくれ。』
精霊達の腕の中で彼女は子供のように泣きじゃくった。
(私は…自由を手にいれたんだ。)
あの学園を出てから一週間が経った今、幾分か気持ちが落ち着いてきた…と思う。
その間精霊達は昼夜とわず付きっきりで私の看病をしてくれたお陰である。
現在、セラフィの膝の上に頭を置いて横になっていた。腕…いや翼で私の頭を優しく撫で、
『我が主、お加減はもう良いのか?』
セラフィの気遣う声が上から聞こえた。
6人のうちの一人、風を司る大精霊の彼は鳥のような大きな翼を持ち、盲目の代わりに耳がとても優れている。
この森に来てからその翼で私を温めてくれていたのだった。
「はい…ありがとうございます。心配かけてごめんなさい。」
目が見えない彼に、頬を撫でて感謝を述べた。
『あるじ悪くないっ!
だから謝るの違う!!』
『泣かないで、いつもみたいに笑ってほしいよ…。』
『ずっと一緒!だから泣かないで。』
森の妖精や動物達はここに来てからずっと私を励ましてくれた。その優しさが元気にしてくれるおまじないのような言葉で心が温かくなる。
「そうね、ずっと一緒ですよ。」
笑って見せる。
(何だか、久しぶりに笑えたな…。)
『無理は禁物でございます、今は休息もして下さいまし。』
そこへ水の精霊―ウンディーネと花の妖精ネネが戻ってきた。
『主様、なんとお痛わしい…。このお水でどうか冷やして下さいませ。』
『ネネ、果物採った!食べて食べてっ。』
二人がそれぞれ私に手渡す。ウンディーネにもらった水でのどを癒し、目を清めてもらった。果物はネネと一緒に食べる。
「二人とも、ありがとうございます。」
しばらくして、彼女は身を清めようと思い身体を起こすと、ようやく自身の格好に気づいた。
「…!?な、ななんで私、裸なのですか!?」
…そう、何故か裸だった。正確には、薄布を一枚羽織っただけの姿であるが。
『それは、ハーディー殿がき『ああっ、妾の愛し子よ!気分はどうなのじゃっ!?』噂をすれば…。』
私から少し離れた場所に魔法陣が浮かび上がると、そこから妖艶な美女が急ぎ足で、
しかし優美さを欠けさせない足取りで近づいてくる。
「ハーディー!もう平気です。その…何で私こんな姿なのですか?」
『窮屈そうじゃったから妾が勝手にやった。…まさか、いい嫌じゃったのかっ!?』
ハーディーが珍しくオロオロしてミカエラの様子を伺っていた。
―悪魔ハーディー。
<色欲>を司る悪魔アザゼーが、私と契約を交わし名を与えられ、現在はハーディーを名乗っている。本来は精霊と敵対している関係なのだが、ハーディーが無頓着で気にしない性格だったため精霊と共存出来ている。
「怒ってないですよ?でもこの格好は…はっ、はしたないから戸惑っていたのです…。」
ミカエラの返答に、ハーディーはわざとらしく溜め息を吐いた。
『はしたないじゃと?何故そう思うのじゃ?
あの窮屈そうな箱庭から開放され、王妃の振舞いなど最早必要ないではないか。
今のそなたは自由、ならばどのような格好をしようと誰も文句を言わぬ!!
それと、言葉遣いもその他人行儀みたいな仕草…妾は好かん。』
「確かに私はもうあの国の者ではありませんから…。
しかし、だからと言ってはしたなくするのは戸惑ってしまいます。」
『ふぅー…。
何を戸惑うのだ?
愛情の欠片もない家族も国の存続しか願わぬ王族も今のそなたには関係の無いこと。』
ミカエラの前で止まり、屈んで目線を合わせる。
『今のお主は王妃でもセルディーア家の長女でもない。
ミカエラという名の普通の女子じゃ。
何故わざわざ鎖に繋がれようとするのだ?
もうその手足が自由だと気づいていながら何故動こうとしない?』
私はハーディーの言葉で何かが崩れるのを知る。
「―普通の…女の子??私は自由…?」
その言葉は今の私に重く突き刺さった。
気づけばハーディーにしがみついて叫んでいたのだった。
「だったら…っ私はもう我慢しなくていい!?
王妃の振舞いもっ無理して笑顔でいる事もやめていいの!?
もう一人で耐えなくていいっ?
…もう、頑張らなくていい??
――私は自由になっていいの…っ?」
私の中にあった何かは爆発し涙を流しながら、そう問いかけた。
『そうじゃ、そなたは自由の身。
我慢も虚勢も令嬢も王妃も全て捨ててしまえ。今までの生き方を否定するような人生になったとしても妾達は、永遠にそなたと共に生きようぞ。』
ハーディーは慈愛の表情を浮かべ、私の本音を肯定し抱きしめてくれた。
他の精霊達も同意とばかりに頷き、遠慮なしに彼女を抱きしめる。
『そなたはよく頑張った。
例え誰もが理解せずとも、妾達は知っておる。
あの男の為に見えぬ努力をしてきた事も
王妃に相応しき者になる為に勉学も矜持も進んで励んでいた事も…。
だから、もう楽になって欲しいのじゃ。
今度はそなたの為にやりたい事をやっておくれ。』
精霊達の腕の中で彼女は子供のように泣きじゃくった。
(私は…自由を手にいれたんだ。)
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