【Destination】

夕凪志織

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【Destination】プロローグ

第3話 幻の大地

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46億年の歴史をもつティエラは、誕生から永い年月をかけ、徐々に姿を変えながら大きな進化を遂げてきた。地層の調査から、44億年前には海と陸が存在したと考えられている。


当時、ティエラにあった大陸はひとつのみ。それは北半球から南極にかけて広がる陸続きの巨大なもの。これが集合と分裂を繰り返しながら分断されていく。


大陸が動いて別れる秘密は、ティエラの表面を隙間なく覆う十数枚の硬い岩盤板「プレート」にある。

プレートはゲンブ岩という重い岩石から成る「海洋プレート」と、軽い岩石カコウ岩からできた「大陸プレート」に分類される。


プレートはマントルに乗って沈み込んだり、盛り上がったり、すれ違ったりを繰り返しながら、ベルトコンベアーに似た動きで年に数cm「個別に移動」。両者が押し合い、海洋プレートは大陸プレートの下に潜り込んでいく。


「個別に移動」それは、ティエラ内部から新たに陸が作り出されていることを意味する。大陸が分裂したところには海が作られ、衝突したところには山脈ができあがる。


海底の山脈や谷はプレートの境目にあたり、このような場所では地震が起きやすい。原因は海水が岩盤の割れ目を濡らし、滑りやすくしているため。


境目では地震のほかに活火山の噴火も多発。大陸プレートの下に沈み込んだ海洋プレートから、水の働きによって、マントルの一部が融けて上昇。このときマグマが形成される。

その過程で、いったんマグマは地下のマグマだまりに蓄えられ、溶けていた水や二酸化炭素などの火山ガス成分が発泡して、その力で噴火。これが海溝沿いの火山となる。

よく振った炭酸飲料のボトルを開けて減圧させると、一気に発泡して吹き出るのと同じ原理。噴火の多くは、このようなマグマの発泡によって生じる。

火口から飛んで来た軽石を観察すると、たくさんの小さな穴が見られるが、この穴はマグマが発泡した痕跡。


現在の諸大陸は、元々単一のかたまりであったが、地下の岩盤がズレて発生する「巨大地震」、星の中心部「核」のまわりに溜まった熱によって引き起こされる「マントルの対流」、この二つが大きな要因となり分裂と集合を繰り返し、何万年、何億年のときを経て、七つに分断されていった。


「大陸は動いている」その根拠となるのは次の四点。

1つ目は大陸の地層をパズルとしたとき、ピタリとつなぎ合わせられる点。2つ目は大陸間で同種の化石が発見されたこと。3つ目は過去の気候分布の一致。4つ目は大陸を形成する地層は軽いため、重くて流動する地層の上に浮いて移動できるという点。以上の事実が、過去、大陸がひとつだったことを裏付ける。


大陸が7つとなった一万年後、海底火山のマグマ堆積により、8つ目の大陸「エルシド」が誕生。


その大きさは約49平方km。青い海、青い空が魅力で平均気温は約22℃と、年間を通じて南国のように温暖な気候。冬でも10℃以下になることは、ほとんどない。


大陸の北部には、巨大な木が根をはった大平原が広がり、その外側を海面からそびえる高い山々が取り囲み、下には美しい密林がある。


密林地帯では樹木からコパル樹脂香が採れ、大地には希少な「地下鉱物」のほか、ダイヤモンド、アメジスト、ヒスイなどの宝石が採掘でき、富の象徴となる金脈も発見された。

平原には多くの野生動物が生存、その餌となる草木や木材、 ハーブなどの香料植物、穀物、野菜、果実なども豊富で、自然の恩恵を大いにうける大陸。


この大陸を最初に発見したのは、新人サイエレスのなかから千人に一人の割合で生まれる、神の使いと目された「聖人リュクラス」だった。

彼らは一切の煩悩をもたず、差別や争いをしない深い人徳と、極めて高い学識をもつ。脳の容量は現代人をも凌ぐ脅威の1600ml。


リュクラスは造船技術のなかったこの時代に、人類史上初となる木製の船を作り、エルシドに移住、高度な都市文明を形成していく。

農業では、とうもろこしの栽培を中心とする焼畑農法を編み出し用水路も開発。それを利用した潅漑農業(雨水だけに頼るのではなく、人工的な水路やため池などの用水を使って収穫量を増やす農業)も行う。

そのほか、青銅器や鉄器などの金属器、牛や馬などの大型家畜を飼育、車輪や水車も実用化。


建築では石造で独自のアーチを有した神殿と階段式ピラミッドを築く。


学問においては、20を最終として数を表す記数法「二十進法」を使用、そこから0の概念を導きだし、きわめて正確な暦を用いて、天文学を発展させ、火星や金星の軌道を計算、天体観測を行っていた。


その後、リュクラスは生命の危機脱却と文明の発展、食糧の安定生産の鍵となる「時間」を生み出す。季節の概念を確立させ周期性を把握。

時計も暦も存在しなかった時代、彼らは太陽や月、星といった天文学を駆使して季節を知り、時間の概念を作り上げていった。


さらに言葉を伝達・記録する文字も開発し、それを石碑に刻み残す。一見イラストのようであり、複雑難解で読み書きできる者は、リュクラスのなかでも限定されていたという。

石碑に刻まれたものが、歴史や暦、または別のなにかを後世に伝えようとしたのか、目的は定かではない。


このように高度な文明をもつに至ったエルシドは、誕生から約3億年経過した時点で、定住していたリュクラスもろとも、突如として姿を消し、幻の大陸となってしまう。まるで、その場所には最初からなにもなかったかのように。

地殻変動、隕石衝突、大地震によって引き起こされた大津波に飲み込まれたと、いくつか仮説は立てられるが詳細は不明のまま。

その存在は人々の記憶から忘れ去られ消え失せていく。




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