【Destination】

夕凪志織

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【Destination】プロローグ

第9話 因縁

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ベルゴルドがジャポルを攻撃した経緯、そこには愚排社会化の実現と理想郷創設(愚か者がいない世界)を目論む、皇帝カイザーの思惑と因縁が渦巻いていた。


「世界の中心に位置するジャポルを我がものとする」。それは、世界制覇に向けて一番の障壁となる宿敵アルメニカだけではなく、ありとあらゆる非同盟国を射程圏内にとらえることを意味する。


ジャポルをとることは、世界制覇にむけた第一歩、確実に勝利を手中におさめるための最善策。是が非でも最初に押さえておきたい国。

ジャポルにとっては、世界の中心に位置していたことが、不幸を呼んだ形となる。

だが、ことの発端はそれがすべてではない。2016年5月26日、エミ県サミットでのジャポル首相シンイチの言葉。


「いかなる紛争も武力の行使や威嚇ではなく、国際法にもとづいて、平和的かつ外交的に解決すべきで、この原則を私たちG7はしっかりと共有している」

「世界のどの国のだれであろうとも、一方的な行動は許されず、司法手続きを含む平和的な手段を追求すべきである。そして、その完全な履行を求めていくことで私たちは一致」


「世界中で起こる紛争もまた、国際法にもとづく平和的・外交的手段によってのみ解決されると確信している。G7としてすべての愚排主義者に対し、情勢を平和的に解決するため、具体的な行動をとるよう求める」

「ベルゴルドには国際社会のあらゆる課題に対し、建設的な役割を果たしてもらいたいと考えており、シアリ情勢などにおける、平和と安定達成のためにも、皇帝カイザーとの対話を維持していくことが重要と考える」


「ベルゴルドによる1月の核実験、複数回にわたる弾道ミサイルの発射を、私達G7はもっとも強い表現で非難する。ベルゴルドには国連安保理決議の即時かつ完全な遵守、国際的な懸念に迅速に対処するよう強く求める」

「核兵器のない世界を目指す。核不拡散と軍縮に向けたG7の強い決意を、私たちは改めて確認した。『核兵器のない世界』の実現は容易ではないが、それでも私たちは手を携え前に進んでいく強い意志を共有している」

以上の言葉、すべてがカイザーの癇に障った。


「核のない世界は綺麗事で、平和ボケした者の戯言。敵が武器をもつなかで、自分が丸腰という状況は愚の骨頂」

「また戦争に平和的解決はあり得ない。身内を殺されても、そう言い続けられるのか。話し合いでの解決で本当に気が済むのか、謝って済むなら警察はいらないとはこのこと。犯罪者、道徳をもたない人間に生きる資格はない。それは不変の真実」

「私の殺人には正当な理由があり、殺されたほうこそが悪。戦争はどちらかが死ぬまで続くものであり、怨恨の念が残らぬよう、相手の子孫まで根絶やしにすべき」


「私は世界の王となる男。一方的行動は至極当然。それは人類で私にのみ許された特権、弱者が、とくにアルメニカの糞に意見する権利はない」

「強者の傘下にいれば安全、そう考えての強気な発言に意味はなく、脅しにもならない。理想を語る権利を有するのは、世界最高権力者である私のみ。世界のあり方を決めるのは私自身。愚者のくだらない価値観を押しつけるべきではない」とシンイチの言葉に激怒し、サミットを途中退席した過去がある。

だが、きわめつけはそれ以前、2002年ジャポルとコレア共同開催となった、サッカーワールドカップ。


ベギルー戦で引き分けたジャポル代表は、続くグループステージで、ベルゴルド代表との対戦を迎える。初戦で史上初めてW杯での勝ち点を手にしたジャポルブルーにとって、ノックアウトステージ進出に向けたこの試合は、勝利が絶対条件の戦い。

スコアの均衡を打ち破ったのは、ベギルー戦で逆転弾を決めた、この大会のラッキーボーイ、ジュンイチだった。

後半51分、コウジのクロスボールをくさびで受けたアツシがフリーのジュンイチに絶妙なボールを落とす。


これを冷静にトラップした背番号5が、ワンタッチの後に右足を振り抜くと、ボールはネットに突き刺さり、ジャポルに待望の先制点をもたらした。


ゴールが決まった瞬間、スタンドから割れんばかりの大歓声が沸き起こり、ピッチ上には喜びを爆発させる選手たちがいた。

ベギルー戦で手応えを掴んだチームが、初戦の結果はまぐれではないと証明し、自分たちの実力が世界にも通用することを確信した瞬間。

ジャポルはその後、ベギルー戦を再現させまいと必死にその1点のリードを守る展開が続く。


同点を狙うベルゴルドも、幾度かチャンスを作りだし、ジャポルが肝を冷やす場面も見られたが、チャンスがあったのはジャポルも然りで、ヒデトシのシュートがバーを叩く、惜しいシーンも見られた。


ジャポルは最終盤に数人のメンバーを交代、守備の強化を図る。どちらも譲らない白熱の終盤を制し、最終的に勝利の女神が微笑んだのは先制点を手にしたジャポルブルー。


 試合終了のホイッスルが鳴り響いた瞬間、その場にいた選手やサポーターのみならず、ジャポル中のファンが喜びを爆発させた。

4年前、1勝もできなかったチームが、強豪国相手に互角以上に戦い、そして、だれもが待ちこがれていた勝ち点3という結果を手にした。ジャポルというサッカー発展途上国だったチームが、世界と肩を並べた歴史的な日となる。

ラフプレーもせず、正々堂々戦った選手たちに対し、無類のサッカー好きで知られるカイザーは


「ジャポルごとき弱小国に屈辱的な勝ち点3を与えたゴミ共っ!!」と吐き捨て、この敗戦に激怒。

その後、帰国したベルゴルド代表の選手、監督、コーチを含むスタッフ全員が行方知れずになったのは言うまでもない。

以上がジャポル敵視のきっかけ、標的国となった経緯。

だが、カイザーはこの3つの理由を公表せず胸の内にしまい、自国の同盟国に「ある機関から入手した情報によると、ジャポルは秘密裏に核兵器を開発、ベルゴルドへの侵略を企てている。今回の攻撃は自国防衛のため、やむを得なかった」とジャポル先制攻撃の正当性を主張した。




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