18 / 27
18話 エルダの髪
しおりを挟むアスランがお風呂に行っている間に、あたしは食洗機に食器をセットしてスタートボタンを押した。
食洗機の音を聞きながら、お世辞にも大きいとは言えない食卓を拭いた後、放置したままの青いフレームを新聞に包んで袋に入れた。
ああ、悪いことしちゃったな。フレームは似たのを探してみよう。
シンプルなデザインのものだから代わりは見つかると思う。
あたしはエルダの写真に視線を落とした。
ストレートな金髪。
青い矢車草のような瞳。
背は、ずいぶん高い感じがした。
あの白のローファー、あれはやはりエルダのだわ。
まるで式の時に履く靴のようだと感じたけれど、あれはウエディングドレスに合わせた特注品。
アスランとの身長差を考えて、あえてローファーにしたのね。
165センチくらいかしら?
あたしが160あるかないかだから5センチくらい身長差があるにもかかわらず靴はぴったりだった。
良い素材を使ってあるみたいで、初めて履いた時からとても歩きやすい靴。
あたしは写真を手にとり違和感を覚えた。
写真の裏になにか…ある。
ひっくり返すとペンベラなビニール袋が貼り付けてあり、中には金色の髪の毛が。
エルダの髪?
これは形見分け?
「それは、大切なものなんだ。触らないでくれないか…」
怒気を含んだ声が聞こえ、あたしは飛び上がりそうになった。
「ごめんなさい」
そう言って髪の毛付きの写真をそっと置いた。
「あの、アスラン」
心なしか険しい顔をしているアスランにおずおずと声をかけた。
「フレーム、あたしに探させてくれない?」
「断る!」
「ごめん…なさい」
「なぜ謝る」
「フレーム、壊してしまった」
「いくら新しいものを買ったとしても」
壊れたものは元には戻らない。
と、アスランに事務的に言われた。
まるで…
爆散した宇宙船は元には戻らない。
砕け散った命も元には戻らない。
そう言われている感じがしてあたしは目を閉じた。
いま、目を開けると泣いてしまいそう…。
「悪かった。言い方がきつかった」
「謝らないで。あたしが悪いのだから」
「泣かせるつもりはなかったんだ。ただエルダには誰にも触れて欲しくなくて…」
「うん……」
エルダの髪が残っているのなら、クローンが作れるかもしれない、とは言えなかった。
実は、アクエリア号の事故後の処理で亡くなった方々のクローンを作る案件が通っていた。
その話が通った頃、あたしは月の病院で静養中だったからクローン希望した人々がいたのかどうかはわからない。
退院と同時に、あたしはエリートコースを外れすっかり【部外者】になったのでその後の事は知る術がなかった。
いま、ここでアクエリア号のクローンの話など持ち出したら、アスランにばれてしまう。
あたしが人殺しだって事!
あたりの空気がとても薄く感じたので、あたしはたくさん酸素を吸った。
アクエリア号の事を考えるといつもこうやって酸素が薄くなったように感じる。
「シルヴィア……?」
「は…あ…」
「過呼吸!」
しま…また吸いすぎ…
あたしが自分で口をふさぐよりも早く、アスランの大きな手があたしの口を塞いだ。
そのまま二人して座り込んだ。
「息をはいて、身体のチカラを抜いてリラックスしよう…な…」
「ご…めんな…さい。また迷惑…かけ…て」
「俺がきつい言い方したから、ゴメン」
「あたしが…悪いの。全てあたしが悪いの」
「シルヴィア?」
「あげられるものなら、あなたのエルダにこの命をあげたい」
「シルヴィア!」
「もう…死んで…しまいた…い」
このままアスランに抱かれたまま心臓が止まればどんなにしあわせだろう、と瞳を閉じた。
穴があれば入りたい
そんな心境だった。
つづく
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
7
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる