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第四章:万世流転編
第五話「交わる戦意」 その二
しおりを挟む重々しい足音と共に地面が揺れ、兵の退避した塹壕を跨ぎ、自動人形が戦場へと向かう。
自動人形たちはゆっくりと自軍陣地を抜けると、まず腕部に八九式対甲螺旋掘削砲爪を装備した特八八式重装型が屈み、背部と腰部の加速器に光を集め始める。
同じように複数の機体がそれぞれの加速器に光を灯し、加速準備の体勢を取った。
皇国軍陣地からは待機中の魔素が収束していくその光景がよく見え、兵士たちは自分たちの職務を果たしつつも、初めて見る自動人形の大規模戦闘の様を熱心に見詰めた。
また、友軍機の加速準備に呼応するかのように、西方総軍でよく見られる九〇式重近接型が加速器から光を吹き出しながらその歩行速度を上げ、やがて走り出す。九〇式は両腕に術式回路を埋め込んだ護拳を展開し、残像を引き摺りながら敵陣の前衛である巨人型に向かって突っ込んだ。
「――ッ!!」
頭部内蔵の魔導演算機からの廃熱と廃素のために九〇式の顎門が展開され、そこから巨大な空気の唸りが発生する。
空気と魔素を振動させることによって発生するその音は、さながら自動人形の咆哮にも聞こえ、思わぬ状況に驚いたのか敵の巨人型が僅かにその動きを鈍らせた。
九〇式は僚機と共にその隙を逃さず、加速した勢いを乗せた拳を巨人型の頭部や頸部に叩き込む。
接触点に爆発的な力場の拡散と収束を生み、敵に対する攻撃とするそれは、少なくとも何の対抗手段も持たない敵巨人型にとって必殺の一撃となった。
「~~~~!?」
意味を成さない呻り声を上げて吹き飛び、小型の個体を潰しながら幾度も地面を跳ねるものもあれば、一撃で頭部を消し飛ばされてその場に崩れ落ちる個体も居る。
九〇式は全機が最初の一撃で目標とした個体を沈黙させ、その場から急速に離脱する。
〈重砲艦からの砲撃、着弾――今〉
猛烈な光と音が、皇国軍の陣を飛び越えて敵の集団の頭上に降り注ぐ。
防御障壁が強い光を発して轟音を立て、耳を塞いで塹壕に伏せていた皇国軍の兵士は、身体中に感じる振動でその巨大な衝撃を感じた。
〈砲撃の効果を認めず〉
兵士たちの耳に取り付けられた通信機は、重砲艦の攻撃がさほどの意味を成さなかったことを彼らに教えてくれた。
ただそれは、彼らにとって落胆するべきことではない。
たとえ新兵であろうとも、海軍の艦船からの砲撃が、初弾から成果を上げることはごくごく稀であることは知っている。
砲撃地点と入射角を変更しつつ、これから幾度も砲撃が繰り返され、そして本命である試作弾道砲の投入となるのだ。
彼らの役目はそれまでこの戦線を維持し、この国土を守ることにある。
〈次弾到達まであと三分〉
通信はそのまま秒読みを開始するが、敵と接触した自動人形部隊はさらなる効果拡大を図る。
すでに直視できないほどの光を溜め込んだ加速器が、その力を解放する。
防御障壁を幾重にも重ねた積層突入外殻を纏い、対甲螺旋掘削砲爪の掘削爪を高速回転させつつ、特八八式が分厚い装甲を持つ個体へと突進する。
陸亀のような個体や八脚の蟲型個体、或いは四足の獣型と様々な形状を持つ敵に対し、特八八式の戦い方は統一されたものだった。
「――!!」
九〇式と同じように顎門を開いた特八八式の絶叫は、九〇式のそれよりも高く耳を突き刺すようだった。
皇国軍兵士たちの中で聴力の高い種族は耳栓を支給されていたが、それでも顔を顰めるほどに不快な音だった。
だが、敵にとっては不快では済まない。
皇国軍の水平砲撃を弾き、味方を守る移動城塞であった装甲個体。
特八八式は加速中にその腕を引き、接触と同時に甲高い回転音を奏で、金色の魔力光を帯びた対甲螺旋掘削砲爪を突き出した。
「ゴ……ッ!?」
特八八式よりも巨大な陸亀型個体が、背中の超硬部位をあっさりと貫かれて悲鳴を上げる。
対甲螺旋掘削砲爪は、六本の掘削刃付きの爪を六本束ねた形状をしている。
そしてその爪の中心には、六連魔装弾式収束粒子砲の射出口を有していた。
「――!」
特八八式は六本の掘削爪を開くことで無理やり突入部をこじ開け、敵の防御のしようのない内部を曝露。そこに躊躇いなく六発の内二発を消費し、魔導収束砲を二度発射した。
「……!?」
陸亀型はその身を痙攣させると、身体の下に隠していた小型個体を巻き込んで爆発。特八八式は爆発の兆候が確認された時点で、炸薬式の加速器を使ってその場から退いていた。
その姿に各地の塹壕や特火点から歓声が上がり、その歓声を背にもう一機種の自動人形が上空から舞い降りる。
〇九式甲空挺型自動人形〈雰影〉。
縁あって皇王レクティファールからその名を与えられた、新機軸『魔導筋繊維駆動式』の自動人形だ。
背部に背負った機動飛翔翼を切り離し、人とほとんど変わらぬ動きで上空から飛来した一二機の〈雰影〉は、狙い違わず敵陣中央部にいた大型の砲塔型個体の上に降り立った。
砲塔型個体は自分たちの背に何かが乗っていることに気付き、身動いだが、〈雰影〉は腰から引き抜いた短刀型高周波振動刀を砲塔の基部に突き刺してそれに耐える。
さらに手甲から直刀型魔導刀を展開すると、踵部から固定杭を打ち出して身体を固定、魔導刀を深々と敵個体の背に突き刺し、魔力刀を地面に到達するほど伸長させた。
地面に刃が突き刺さり、砲塔型個体が昆虫標本にされると、〈雰影〉は魔導刀を個体の前後に向かって切り開いた。
その際に何体かの中型小型の個体を巻き込んだが、最新型の高集束魔力刃の前では何の抵抗にもならない。
砲塔型個体はそのまま「開き」にされ、腰部加速器の噴射によって急速離脱する〈雰影〉の脱出を追うかのように巨大な爆発を起こした。
これまでの個体とは比較にならないほど巨大な爆発は、皇国陣地からもよく見えた。
空軍の制空飛龍隊に護衛されていた機動飛翔翼と再接続し、敵陣上空から離れる〈雰影〉部隊。
そして、再び、百雷が敵軍に降り注ぐ。
〈重砲艦計測砲撃第二射、弾着――今〉
第二射は先ほどよりも着弾範囲が狭められ、面辺りの砲撃密度が増していた。
そのため、敵の防御障壁の一部が破壊され、砲撃の一部が敵軍勢の中に飛び込み、破壊を撒き散らす。
対要塞用徹甲焼夷弾だった。
〈次弾到達まで、三分〉
敵軍の中で小型の個体が松明のように燃え上がっていても、兵士たちの耳に届く声は冷静そのものだ。
それは兵士たちにも冷静さを伝染させ、彼らを一個の護国細胞とする。
まだ、戦いは終わらないのだ。
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