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第四章:万世流転編
第二六話「嫁奪り」 その十五
しおりを挟む「押せぇえええええええッ!!」
《オオオオオオオオオオオオッ!!》
「牽けぇええええええええええええええええッ!!」
《ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!》
ミシ、という音が〈天照〉の艦体から発せられ、内部にいた者たちの顔から血の気が引いた直後、三〇〇〇メイテルの巨体は空を滑り始めた。
「じゅ、重力固定碇……破壊されました!」
その報告は〈天照〉首脳陣の脳裏に皇国への損害請求という文字を浮かび上がらせたが、先ほどまで艦橋があった場所に天上からの光柱が突き立つ光景が投影窓に映し出された途端、その考えは消え去った。
「っ!? 中枢機構の封鎖が解除されています!」
さらに、これまで艦を操っていた繰り糸が切断されたことで、〈天照〉艦内は一気に慌ただしくなる。
「狙いなどどうでも良い! 主砲、副砲、対空砲、最悪酒瓶を投げても構わん!! 狙える砲はすべて直上の敵を狙え!!」
播乃丞の命令一下、上方への射角を持つ総ての砲が弾かれるように天を指向し、次々と光を放つ。
照準装置の過半が破壊されてしまい、ろくな狙いも付けられない状況だったが、源素砲を放ち、防戦に回ったカシマの動きを牽制する役割を果たることができた。
「これで、我らの仕事は終わりだ! もう働けん!!」
どっかりと床面に座り込む播乃丞。
彼の言葉通り、主砲の状況を示す表示板は真っ赤に染まっている。
制御系が復旧した瞬間に使える砲をすべて使ったため、本来ならば砲の安全を確保するための抑制装置が作動せず、許容限度を超えた重粒子を発射してしまったのだ。
それ以前に、〈天照〉の姿勢制御もかなり怪しい。
艦が傾いているのは外から押されたり、牽かれてたりしているせいもあるが、何より艦の姿勢制御機構が損傷しているのがもっとも大きな原因だ。それが正常に作動していれば、外部から無理やり艦の姿勢を変えられたとしても、艦内にまでそれが波及することはない。
「こうも斜めでは酒も飲めん。――おい、修理班を急がせろよ」
「了解しました」
部下の返事にやる気の欠片も感じられなかったのは気のせいだろう。
播乃丞は外部映像に顔を向け、再度の砲撃を行おうとするカシマと、地上を走るレクティファールの姿に目を細めた。
「忙しないことだ。一国の主が徒歩とは」
源素砲を受けきったレクティファールは地上に降り、一直線にとある人物の下へ向かっていた。
神域にある限りカシマの力は衰えない。その理性を融かしながらも、おそらく〈天照〉が沈むまでは戦い続けることができるだろうと思われた。
《陛下、滅してもよろしいのでは?》
初代白龍公のそんな物騒な提案に、レクティファールは頭を振る。
「禍根が残る。魚を下ろすのに大剣はいらん。――〈皇剣〉は使ったが」
《大丈夫です。初代陛下は果物の皮を剥いていました》
「なるほど、今度試してみよう」
通信が切れると、視界の端に楽しげに魔導鎖を引っ張る仮面の女性の姿が見えてくる。岩窟小人たちが驚嘆するほどの力で鎖を引いていた。
「そこな女性! 剣を拝借したい!」
レクティファールの声に、〈虎〉が振り向く。
少し驚いたような表情を見せたが、すぐに蕩けるような笑みを浮かべ、背中に挿してあった大剣を手に取った。
「壊さぬようにな!」
「壊れたら直して返しましょう」
放られた大剣を掴み、レクティファールは地面を抉り取りながら方向転換を行う。そしてそのまま空中へと飛び上がり、大剣――神殺しの一振りに意識を繋げた。
《認証――最上級命令者と確認。機能制限を解除します》
剣身から幾本もの金属の管が伸び、レクティファールの腕に接続される。〈皇剣〉の莫大な熱量を受け取った〈神殺しの神剣〉は、その偽装を解除し、白銀の輝きを取り戻す。
「撃ち抜くぞ」
《了解。砲撃形態へ移行します》
レクティファールの言葉に従い、剣身を形成していた極微細金属群が蠢動し、ゆっくりと剣から砲へと姿を変える。
六角柱の機関部と八枚の発射制御板を持つ〈神殺しの神剣〉の砲撃形態は、おそらく現状でもっとも安定して〈皇剣〉の力を放射できる装置であるはずだった。
《第五形態、神穿つ神槍》
レクティファールは盛大に地表を捲り上げながら着地し、そのまま砲口をカシマへと向ける。
視界に照準円が浮かび上がり、その中でカシマはさらなる源素砲の発射を目論んでいた。
「いつまでも好き勝手に撃てると思うな。駄々っ子め」
熱量集束。一瞬でカシマの源素砲並みの純粋熱量が〈神殺しの神剣〉に集まる。
重戦艦の主機関でも半時間は掛かるであろう熱量集束であっても、〈皇剣〉であればほんの一瞬だ。それこそが〈皇剣〉の汎用性の一端であり、諸外国に〈皇剣〉が恐れられる理由のひとつでもある。
「気付いたか。だが、遅い」
カシマはレクティファールの存在に気付き、源素の集合を中止し、不完全なままで源素砲を放つことにしたようだ。
それでも十分に勝てると踏んだのだろう。
「あなたは地上の者を舐めすぎだ」
結局のところ、今回の騒動の根底にあったのはカシマのそのような価値観だ。
どれほど強大な力を持っていても、他者を侮るようになっては意味がない。その侮りが亀裂を作り、総てを崩壊させてしまう。
「そして何より、私を侮りすぎだ」
多くを捨てた。故に、捨てずに済むものは何があっても捨てたりしない。
「返してもらう。我が妻、ふたりをな……!!」
《波動砲――投射》
天から降り注ぐ虹色の光に、地上から放たれた金色の光が衝突する。
ふたつの光は衝突の一瞬だけ均衡を維持したが、すぐに金色の光が虹色の光芒を浸食していく。
源素の波動を書き換え、相手のそれをすべて自分の火力へと変換する。それは本来神族と呼ばれる源素管理者たちが得意とするものであった。
結局のところカシマは、〈皇剣〉に敗れたのではなく、自分たちが持っている力によって敗れたことになる。
しかし、金色の光に視界を奪われ、やがてその身体に内包する源素さえ書き換えられ、奪われたカシマが気付けるはずもなく、彼がそれを知るのはほとんど初めて顔を合わせる長姉のありがたい――生まれてきたことを総てに感謝したくなるほどありがたい――説教の中でのことだった。
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