白の皇国物語

白沢戌亥

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第四章:万世流転編

章末話「神話顛末」 その四

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「きみにはおおいにめいわくを掛けたね」
「いえ、そのようなことはございませぬ」
 遠くから聞こえてくる神々の喧騒――爆音や悲鳴、怒号や地鳴りも含まれているが、喧騒は喧騒である。
 正周は祖神と呼ばれる自分の祖先を前に、些かなりとも緊張していた。
「地上はどうだろうか?」
「剣呑な空気は失せません。わたくしが掌握できているのは、畿内とその周辺程度でありますゆえ」
 それでも八洲が八洲としての形を維持していられるのは、〈天照〉が諸侯の軍事的行動を完全に抑え込んでいるからだ。
 しかし、政治的な動きは〈天照〉では抑えきることができない。
 軍事的な恫喝でどうにかできるほど、政治とは単純ではなかった。
「やっぱり、いつの時代もひとびとは他人を欺きたがる」
「それ故に信頼できる者が貴重だと分かります」
「うん、そのとおりだ」
 オノゴロは身体を点滅させながら、比較的若い〈帝〉にじっと視線を向けた。もっとも、正周にはオノゴロの目がどこにあるのかわからず、視線を向けられているのかそうでないのかも分からなかった。
「でも、ぼくたちもいちどは信頼を裏切ったんだ。君たちが龍国とよぶあのばしょから、そのせいでおいだされてしまった」
「――それは、国づくり神話の……」
「あれはぼくたちがおいだされた理由を、はずかしくないようにつくりなおしたものだよ」
 オノゴロは愉快そうに笑う。
 そう、心底愉快そうに笑う。
「ぼくたちはね。八つのなかまのひとつを、失策のせいでほろぼしてしまったんだ」
「!!」
「播種八氏族というものがある。ぼくらはそのうちのひとつに連なっている」
「はい」
 この世界を現在の形に安定させるために投入された八つの超越種。そのうち現在も残存しているのは七種だった。
「ぼくたちは、源素のせいぎょを請け負っていた。かれらは、りゅうみゃくのせいぎょを担っていた。いまの龍国にあるあのりゅうみゃくはね、本当ならいまごろ、せかいじゅうに分散しているはずだったんだよ」
 しかし現在、龍脈は皇国の地下深くに未だに存在している。
 世界中に通じる龍脈が、皇国にある。
「四つのほじょせかいから源素をうけとって、りゅうみゃくや世界中に流すのがぼくたちの仕事だった。でも、四つのせかいがつくる源素はよそうよりもはるかに多くて、ぼくたたちはそのせいぎょをうしなってしまった」
 それは彼らにも予想し得なかった世界の身動ぎだった。
 当時はまだ手探りだった源素制御。潮の干満と同じように、世界同士の様々な相関関係によって源素の動きは変化し、ときに巨大な嵐となって世界を呑み込もうとする。
 辛うじて生き残った人々が今度こそ絶滅する、という瀬戸際だった。
「では、そのときに……」
「うん、彼らは自分たちをりゅうみゃくに同化させた。いしきはおそらく残っていないと思う」
 しかしその結果、龍脈を大きく移動させる方法はなくなってしまった。世界環境の大規模な再構成も不可能になり、純粋な意味での『人間』が生きることはできなくなってしまった。
 最後の環境再構成予定地であったひとつの大陸は、結局不安定な環境のまま現在も残っている。世界の人々から『暗黒大陸』と呼ばれる大陸がそれである。
「ついでに、ぼくたちもあの源素の嵐には耐えられなかった。緩衝地帯であるあくうかんにそれぞれ神域を作って、どうにか生存領域をかくほしたんだ」
 神域の皇国部分が源素の巨大嵐なのは、それ以来のことだった。
 戦闘型である始祖龍と極地行動を前提としていた巨神のみが、現在の皇国の位置で活動できた。
「――――」
 正周はオノゴロが告げた事実に、僅かな動揺を見せた。
 その動揺の理由を、オノゴロは理解する。
「いまはずいぶんと安定してるから、アサマも君のいもうとも心配はないよ」
「――はい、ありがとうございます」
「四つのせかいのたんまつが、ちょくせつ制御しているからね。ついでに、概念兵器のてきかくしゃのせんべつもしているはずだ」
 概念兵器は源素を用いる兵器である。四界の主たちがその使用者を選ぶのは、万が一の暴走を防ぐためにも不可欠なことだったのだ。
「まあ、いろいろはなしたけど、きみがきにしなくちゃいけないことはないんだ」
「は……?」
「せいかくには、こんごの世界を安定させてくれればいいかな」
「なにか懸念でも?」
「うん、どうにも、概念兵器を作ろうとしているひとびとがいるみたいでね。失敗しては、そのはどうがここまでとどくんだ」
「そ、それは……! あの、ものすごく不味い……ことなのでは?」
 正周は震える声で問う。それに対するオノゴロは、常と変わらぬ軽い声音である。
「しんぱいないとはいわないけど、新しくつくられるよりも、今そんざいするものを心配しないとね」
「義弟とは、今後も連携してことにあたるつもりですが……」
「それはしんぱいしていないよ。唯一のしんぱいごとは、龍国の北にある、予備機のことかなぁ」
 そんなことは聞かされていない。
 正周は悲鳴を上げたくなり、実際引き攣ったような、圧殺される蛙のごとき悲鳴をあげてしまった。
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