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入学式パーティー7(ダンバート視点)
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「コホッ……」
人ごみに居たせいか僅かに喉の調子が悪くなったかな。
やっぱり入学式パーティーになんか参加するんじゃなかったかもしれないけど、メレディスが参加するのだから、参加しないわけにはいかないよね。
相変わらずミッシェルと仲がよさそうだったな。
ミッシェル、本当に羨ましい。
あのメレディスの婚約者をしているんだから、本人だって相当な努力をしているんだろうけど、ぼくには絶対に手に入らない存在を手にしているのは、素直に羨ましい。
はあ、僕はあと何年生きることが出来るんだろうか。
二十歳まで生きることが出来ないと言われたけど、今はこうして何とか生きている。
みっともなく魔法薬学や治癒魔法を勉強して、何とか生き延びようと努力している。
兄上のように王座を手に入れようなんて思っちゃいないけど、血筋的には王位を狙ってもおかしくはない位置にいる。
ただし、健康であればと言う条件付きだ。
メレディスは何かに気が付いているようだけれど、今の所、ぼくにそれを教えてくれる気はないようだ。
ぼくの死を願っているわけじゃないだろうけれど、とくにそこまで生きることを願っているわけでもない、と言う所なのかな?
メレディスの興味はいつだってミッシェルにある。
婚約者と言うだけであそこまで興味を持てるものなのだろうか?
いや、そんな事はない。
メレディスとミッシェルの関係が特殊なんだ。
羨ましい。
誰もがぼくが生き延びることを諦め、無駄な努力をしないでいればいいと言う中、メレディスだけは好きなようにすればいいと言ってくれている。
生きることに必死な事を、誰が否定することが出来るだろうかと、そう言ってくれる。
メレディスは一度死にかけている。
彼女の祖母が庇ってメレディス自身は無事だったけれども、相当なショックを受けたようで、一時的に口をほとんど聞かなかったという。
この国に戻ってきた時には以前のようにちゃんと喋っていたけれど、隣国で静養していた時は、血の繋がったはとこと口数少なく話すだけだったとか。
隣国の王子達も曲者だ。
自国に王妃候補が控えているから、メレディスを連れて帰ろうとすることはないけれど、他の生徒より、いや、他の人間よりもメレディスを近くに置いているのがわかる。
メレディスはすごい。
そのさりげない一言が、ぼく達の心の深いところを緩めてくれる。
だから、ぼく達は誰もが無意識にメレディスを求めてしまうんだ。
メレディスはそれに気が付いているのか、それとも気が付いていないのか、どちらにせよ、メレディスがぼく達の手に入る事はない。
彼女はミッシェルのものだ。
ミッシェルを愛しているというメレディスは美しい。
その美しさが、美しくあろうとする努力の全てがミッシェルに繋がっているのだと思うと、羨ましすぎて悔しいけれど、それが現実だ。
講堂から出てまっすぐに寮の自室に戻って、制服のままベッドにうつぶせに寝転がる。
学園に通っているとはいえ、四分の一は授業を休んで自室で静養しなければいけないような状態だ。
よくもまあ、学園に通う事を父上が許してくれたと思う。
母上も、出来るのならぼくの事を王宮に閉じ込めておきたいだろうに、こうして学園に通う事を許してくれている。
まあ、もうすぐ死んでしまうかもしれないから、自由にさせたいと思っているのかもしれない。
その事を考えて唇を噛む。
「メレディス以外、ぼくが死ぬことを疑っていないんだ、よね」
そう考えると、必死に生きようとしているぼく自身が、酷い道化のように思えてしまう。
別にいいんだ、一人でもぼくを認めてくれる人がいるんだから、それで構わない。
ねえ、メレディス、君はぼくがこんな風にぐちゃぐちゃと悩んでいると知ったら呆れる?
……いや、メレディスはそんな子じゃないか。
情けないな、こんな風に考えるのは、精神的に弱っている証拠だ。
人ごみに酔ったせいで、心も弱っているのかもしれない。
大きくため息を吐き出して、ベッドから起き上がると多少着崩れてしまった制服を、鏡の前できちんと直してから自分の姿を確認する。
母親譲りの薄緑の髪、王族らしいと言うには少しだけ濃い琥珀色の瞳、顔だって悪くはない、と思う。
部屋を見渡せば描きかけの絵が散らばっていて、どうしたものかと考える。
最近少しスランプ気味だ。
何を描いても中途半端なまま投げ出してしまう。
メレディスが入寮後に開いたお茶会には参加したことはないけれど、学園探索というか、学園を散策しているメレディスに会った時にその事を愚痴れば、少し驚いたような顔をされた後、そんな事もあると苦笑されてしまった。
僕の唯一の取柄なのに、描けなくなるなんて、なんか、いやだな。
こんな事で落ち込んでいるぼくも嫌だ。
メレディスが入寮してから描き始めた絵を眺める。
モデルを頼んだわけじゃない、こっそりと盗み見た姿をモチーフに絵を描いている。
メレディスはやっぱりミッシェルと一緒に居る時が一番綺麗だ。
悔しいけどそれは認めるしかない。
もし、メレディスの隣にいて、彼女を一番に輝かせることが出来るのがぼくだったら、そう考えたことは何度だってある。
叶わない想いだけど、考える自由だけは許して欲しい。
いつ死んでもおかしくない、ぼくのちょっとした、夢、なんだからさ。
人ごみに居たせいか僅かに喉の調子が悪くなったかな。
やっぱり入学式パーティーになんか参加するんじゃなかったかもしれないけど、メレディスが参加するのだから、参加しないわけにはいかないよね。
相変わらずミッシェルと仲がよさそうだったな。
ミッシェル、本当に羨ましい。
あのメレディスの婚約者をしているんだから、本人だって相当な努力をしているんだろうけど、ぼくには絶対に手に入らない存在を手にしているのは、素直に羨ましい。
はあ、僕はあと何年生きることが出来るんだろうか。
二十歳まで生きることが出来ないと言われたけど、今はこうして何とか生きている。
みっともなく魔法薬学や治癒魔法を勉強して、何とか生き延びようと努力している。
兄上のように王座を手に入れようなんて思っちゃいないけど、血筋的には王位を狙ってもおかしくはない位置にいる。
ただし、健康であればと言う条件付きだ。
メレディスは何かに気が付いているようだけれど、今の所、ぼくにそれを教えてくれる気はないようだ。
ぼくの死を願っているわけじゃないだろうけれど、とくにそこまで生きることを願っているわけでもない、と言う所なのかな?
メレディスの興味はいつだってミッシェルにある。
婚約者と言うだけであそこまで興味を持てるものなのだろうか?
いや、そんな事はない。
メレディスとミッシェルの関係が特殊なんだ。
羨ましい。
誰もがぼくが生き延びることを諦め、無駄な努力をしないでいればいいと言う中、メレディスだけは好きなようにすればいいと言ってくれている。
生きることに必死な事を、誰が否定することが出来るだろうかと、そう言ってくれる。
メレディスは一度死にかけている。
彼女の祖母が庇ってメレディス自身は無事だったけれども、相当なショックを受けたようで、一時的に口をほとんど聞かなかったという。
この国に戻ってきた時には以前のようにちゃんと喋っていたけれど、隣国で静養していた時は、血の繋がったはとこと口数少なく話すだけだったとか。
隣国の王子達も曲者だ。
自国に王妃候補が控えているから、メレディスを連れて帰ろうとすることはないけれど、他の生徒より、いや、他の人間よりもメレディスを近くに置いているのがわかる。
メレディスはすごい。
そのさりげない一言が、ぼく達の心の深いところを緩めてくれる。
だから、ぼく達は誰もが無意識にメレディスを求めてしまうんだ。
メレディスはそれに気が付いているのか、それとも気が付いていないのか、どちらにせよ、メレディスがぼく達の手に入る事はない。
彼女はミッシェルのものだ。
ミッシェルを愛しているというメレディスは美しい。
その美しさが、美しくあろうとする努力の全てがミッシェルに繋がっているのだと思うと、羨ましすぎて悔しいけれど、それが現実だ。
講堂から出てまっすぐに寮の自室に戻って、制服のままベッドにうつぶせに寝転がる。
学園に通っているとはいえ、四分の一は授業を休んで自室で静養しなければいけないような状態だ。
よくもまあ、学園に通う事を父上が許してくれたと思う。
母上も、出来るのならぼくの事を王宮に閉じ込めておきたいだろうに、こうして学園に通う事を許してくれている。
まあ、もうすぐ死んでしまうかもしれないから、自由にさせたいと思っているのかもしれない。
その事を考えて唇を噛む。
「メレディス以外、ぼくが死ぬことを疑っていないんだ、よね」
そう考えると、必死に生きようとしているぼく自身が、酷い道化のように思えてしまう。
別にいいんだ、一人でもぼくを認めてくれる人がいるんだから、それで構わない。
ねえ、メレディス、君はぼくがこんな風にぐちゃぐちゃと悩んでいると知ったら呆れる?
……いや、メレディスはそんな子じゃないか。
情けないな、こんな風に考えるのは、精神的に弱っている証拠だ。
人ごみに酔ったせいで、心も弱っているのかもしれない。
大きくため息を吐き出して、ベッドから起き上がると多少着崩れてしまった制服を、鏡の前できちんと直してから自分の姿を確認する。
母親譲りの薄緑の髪、王族らしいと言うには少しだけ濃い琥珀色の瞳、顔だって悪くはない、と思う。
部屋を見渡せば描きかけの絵が散らばっていて、どうしたものかと考える。
最近少しスランプ気味だ。
何を描いても中途半端なまま投げ出してしまう。
メレディスが入寮後に開いたお茶会には参加したことはないけれど、学園探索というか、学園を散策しているメレディスに会った時にその事を愚痴れば、少し驚いたような顔をされた後、そんな事もあると苦笑されてしまった。
僕の唯一の取柄なのに、描けなくなるなんて、なんか、いやだな。
こんな事で落ち込んでいるぼくも嫌だ。
メレディスが入寮してから描き始めた絵を眺める。
モデルを頼んだわけじゃない、こっそりと盗み見た姿をモチーフに絵を描いている。
メレディスはやっぱりミッシェルと一緒に居る時が一番綺麗だ。
悔しいけどそれは認めるしかない。
もし、メレディスの隣にいて、彼女を一番に輝かせることが出来るのがぼくだったら、そう考えたことは何度だってある。
叶わない想いだけど、考える自由だけは許して欲しい。
いつ死んでもおかしくない、ぼくのちょっとした、夢、なんだからさ。
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