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 押し黙ったままどれぐらいの時間が経ったのか、神宮寺が暗い目で安奈を見つめた。

「小南先輩にはわからないと思います。完璧な先輩には、不完全な私たちの求めるものなんてわかりませんよね」
「どういうことかしら?」
「詩世はいつも小南先輩に憧れていました。いつか小南先輩のようになってみたいと、熱心なファンでした。今回の被害者の共通点を上げるとすれば、小南先輩の熱心なファンだということなのではないでしょうか?」
「私の?」
「はい」
「それは喜んでいいことなのかしら?とにかくそれだけでは共通点の一つでしかなくて決定的な物とは言いかねるわね」

 安奈の言葉に、神宮寺は「だから言いたくなかったのに」と呟いてから、再度口を開く。

「私だってできることならラミアから、蕾を貰って詩世のようになりたかったです。でも私の前にラミアは現れなかった。私は選ばれなかったんです」
「選ばれなかった?どういう事かしら」
「ラミアは、生贄を選んでいます。小南先輩の熱心なファンの中から選んでいるんです」
「ということは貴女は私の熱心なファンではないという事かしら」
「私は、……私は小南先輩のことが苦手です。華々しくて眩しくて、見ていると辛くなってしまいます」
「まあ!そうだったの」

 そんなことを言われたことがないので、安奈は大げさに驚いて見せる。
 実際にそのぐらい驚いたのだ。自分を否定する者は確かにいたが、そんな風に褒められているのかけなされているのかわからない嫌われ方は初めてだ。

「兎に角、私の前にラミアは現れませんでした」
「ラミアに遭いたいと願っているということなのかしら?」
「それは……そうですね。会って私にも美しさと若さを与えて欲しいです」
「……そう。神宮寺さん、貴女はちなみに電子レンジの仕組みはご存知かしら?」
「は?」
「ご存知かしら?」
「知りませんけど。物を温めるとかそういうものですよね」
「そうよ、それでも正解だわ」

 安奈はにっこり微笑んで見せてから、用意してあったクッキーに手を伸ばして一口食べた。

「正しくは電磁波によって分子を揺らして内部から熱を発生させるものね」
「はあ」
「経験はないかしら?電子レンジにかけすぎると乾燥してしまってパサパサなものが出来上がってしまうのを」
「……何がおっしゃりたいんですか?」
「いいえ、なんでもなくってよ」

 安奈はにっこりと微笑みを浮かべた。
 神宮寺は訝し気に安奈を見ると、カップを持ち上げて恐る恐る中身を飲み始める。

「毒なんて入っていないから安心して飲んでいただいて結構よ」
「いえ、はい…」

 神宮寺はコクコクと喉を鳴らして紅茶を飲んだ。余程のどが渇いていたのだろう、一気に飲み干してしまった。

「おかわりはいるかしら?」
「お願いします」
「いくらでも言ってね」
「はい」

 安奈は再び神宮寺のカップに紅茶を注ぎ入れると、それを飲む様子をじっと見つめる。
 がぶ飲みするという様子はなく、純粋に喉が渇いていると言った感じなので、中毒症状とは言えないだろう。
 そもそも、その蕾とやらがドラックなのだとしたら、神宮寺はもらえていないので飲んではいないということになる。
 神宮寺は安奈の美貌などを拒否する一方で憧れているからこそ、ラミアに遭いたいと言っているのだろうが本人は気が付いていないのだろう。
 安奈はその矛盾に気が付いているが敢えて指摘はしない。人の思考というのは人それどれなのだから。
 しかし、問題はやはりラミアという人物が渡したという蕾だ。一つで人が変わったかのようにする効果があるのだとすれば、蔓延したら大変なことになってしまう。
 もっとも、それほど効果があるからこそ数が少なくまだ実験段階なのかもしれない。

「ラミアの特徴を絵に描いていただける?貴女、絵心はあるかしら?ないのならば美術部の人に言ってモンタージュを作ってもらうわ」
「絵心はあまり……」
「では今から一緒に美術部に行きましょう」
「え!」

 安奈は思い立ったが吉日と言わんばかりに、立ち上がると、神宮寺の腕を引いてグイグイとサロンの出口に向かった。
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