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 夜、寮の相部屋で瑞樹は安奈に紙の束を渡した。

「リスト、何とか出来上がったわよ」
「ありがとう、仕事の速さは流石は瑞樹ね」
「褒めても何も出ないわよ」
「そんなこと言わないでよ。それで、瑞樹は2人の話をどう思う?」
「そうねえ、人によって吸血鬼か魔女か名乗りを変えているというのも気になるところだけれども、結構な頻度でこの学院で会っていたというようなところが気になるわね。しかも合図が聖水盆の横に現れた光る蝶でしょう?私たちにはそれを見ることは出来ないし、見えた時に教えていただくのが一番いいのではないかしら?」
「そうよね、それも考えたのだけれども、二人が素直に教えてくれるとは思えなくって」
「あら、なぜ?」
「二人はラミアを信じているのよ、ラミアが口外してはいけないと言っていたのなら、言わないと思うの」
「それに関しては問題ないのではないかしら」
「どうしてそう思うの?」
「そうなのだとしたら、そもそもラミアのことを安奈に話したりはしないと思うわ。溝口さんはラミアのことを神宮寺さんに話したから殺されると怯えていたそうだけれども、二人にはその様子がないのでしょう?」
「そうね、話すことへの抵抗感はあまり感じなかったわ」
「だから、話すことが必ずしも禁止されているわけではないのだと思うのよ」
「なるほど。だったら、溝口さんはなぜ怯えていたのかしら」
「それも神宮寺さんの証言だから何とも言えないわね。貴女気が付いていて?神宮寺さんの暗い目を」
「それは気が付いているわ。私たちを時たま暗い目でじっと見てきているわよね。けれどもそれは恐怖やそういった感情からなのだと思うのだけれども、違うのかしら?」
「違うのではないかと私は思うわ。彼女の暗い瞳には何か隠されていると思うのよ」
「何か、何かねぇ……そればかりで嫌になってしまうわ」
「仕方がなくってよ。探偵ものであっさり解決できるのは名探偵のみなのだもの。普通の女子高生があっさり解決できる事件なんてそうそうないわよ。もしくは警察がさっさと解決しているわ」
「それはそうだけれども」

 安奈はむくれてベッドに転がると、天井を見上げ、手を伸ばした。

「美しさを求める人の気持ちなんてわからないけれども、何かを強く求めるために手段を選ばない人の気持ちならわかる気がするわ」
「まあ、物騒ね」
「私は高梨先生を愛しているわ。お父様に邪魔をされようともこの愛を貫いて見せる覚悟を決めているの」
「そう」
「だからもし、ラミアがこの愛を守ってくれるというのなら、私はドラックにも手を出してしまうかもしれないわ」
「安奈、冗談でもそんなことを言うものではなくってよ」
「もちろん実際には手を出したりしないわ。ドラックになんか手を出したらそれこそ幸せが消えてしまうもの」

 けれどもそのぐらいの覚悟は理解できると安奈は言い、瑞樹は苦笑を浮かべた。

「恋愛にかまけて親友である私を忘れてもらっては困るわよ。貴女のためになら何でもしてあげるけれども、見返りを期待していないわけではないの」
「瑞樹は何が欲しいのかしら」
「安奈が欲しいわ」
「ふふ、瑞樹は私の永遠のパートナーよ」
「ならよくってよ」
「それにしても、ドラックが花の蕾のような物だというのは確かなようね。そしてそれを食した者にのみ光る蝶が見える……。けれどもこれだけではなぜ干からびた死体になるのかは、皆目見当もつかないわね」
「そうね」
「水瀬先輩と北条さん以外の二人にも話を聞くべきかしら?」
「それがいいと思うわ」

 瑞樹の言葉に安奈は頷きその日の夜は過ぎていった。
 翌日、安奈は残りの二人にも話を聞いたが、水瀬や北条と同じようなことを言うだけで、目新しい情報を得ることは出来なかった。

「今日も高梨先生は緊急職員会議ですって」
「会えない日々が続いていて嫌になるのもわかるけれども、今は我慢なさいな」
「わかっているわ」

 安奈は唇を尖らせて、むくれると、瑞樹が焼いてくれたシフォンケーキを頬張った。

「目新しい情報もないとなると、本当に行き詰ってしまうわね」
「……そうね、一応光る蝶が見えたら教えてくれるようには、四人にお願いしたのだけれども、どうなることやら」
「聖堂は朝の礼拝の時のみ立ち入りが許されるようになったわね。掃除もできないのはつらいところだわ」
「そうね、礼拝の前に簡単な掃除だけでもさせてもらえないか刑事の方に聞いてみるわ。だって埃だらけの中で礼拝だなんて嫌だもの」
「そうね。それと、掃除の許可が下りたら要注意人物を掃除の担当に組み込んでもらえるようにしましょう」
「聖水盆の横に現れる光る蝶を見つけさせるためね」
「ええ」
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