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「意味不明。なんで私が朱里ちゃんの下手に出なくちゃいけないの? というか、今日ここに来たこと穂積様に言うけど?」
「ちょっ! なんでそんなことするのよ! この前だって譲羽ちゃんが穂積様に言いつけたせいで怒られたんだからね!」

 だったらそれに懲りて来なければいいのにと思うのだが、朱里の中ではそうはならないらしい。
 他の子も、朱里の超理論にドン引き状態で、一歩距離を引いている。
 いるんだよね、クラスに一人はこう言う自己中女。
 自分の言っている事が正しい、自分が一番と言うか、自分が悲劇のヒロインだと酔っているタイプの女子。
 いや、男子にも居るかもしれないけど私が知ってるのは女子だから今は女子に限定しておくとして、元の世界でもスクールカーストのトップもしくは最下位付近にいる子にそういう傾向がよく見て取れた。

「あのさ、朱里ちゃんがどう思おうと勝手だと思うんだけど、その考えを私に押し付けるのは止めてくれない? 朱里ちゃんが勝手に勘違いして、勝手にここに来たから、私は正直に穂積様にそれを報告しただけでしょ?」
「だから、黙ってくれればよかったじゃない」
「私の局って、穂積様が施した結界だらけなんだよね。侵入者が来たらすぐにわかるの」

 まあ、黒龍の存在とか、ある意味力の強い妖の侵入には対処出来てないけど。

「それ、は……でも、あの時は譲羽ちゃんのせいじゃないの」
「朱里さん、私は一応反対したわよ? 穂積様に行かないように言われてるからって。でも、行くって言い張ったのは朱里さんじゃないの」
「な、なによ。私が悪いって言うの?」
「まあ、朱里ちゃんが私達のいう事を聞かないでずんずんこっちに歩いて行っちゃうから、私達も追いかけて来たんだけどね」
「そうねー。こんな台風の中、渡り廊下を歩いたからずぶぬれよー」

 口々に責められ、朱里はやっと状況が見えたのか、私以外の子を振り返り、「え?」という感じに首を傾げる。
 その途端、朱里の髪からポタポタと雨の雫が床に落ちたが、朱里は気にするどころか、むしろ何気ない風を装って髪についた水気を手で掬うと、近くにあった几帳で拭った。
 その几帳も穂積の結界の一部だと理解しているのだろうか?
 水気に濡れた几帳を見て思わずため息を吐き出したくなってしまう。

「もうっ! なんで皆して私を責めるような目で見てくるわけ? 私は譲羽ちゃんの為を思って行動してあげてるのよ? 何の役にも立たない穀潰しの癖に、のうのうとこの屋敷で過ごしてる譲羽ちゃんの為に」

 穀潰しで悪かったな、私だって外出できる者なら外出したいのだが、穂積がそれを許してくれないのであって、文句があるのであれば穂積に言って欲しい。

「あのさ、譲羽ちゃんだって好きで黒龍の巫女になったわけじゃないでしょ?」
「なに言ってるの! 穂積様が言ってたわよ、黒龍は譲羽ちゃんの中から出て来たんじゃないかって」
「えー、でもそれって時空を超えて黒龍が存在してたって事でしょ? なくない?」
「そうね。私達みたいに召喚されたのならともかく、穢れを撒き散らすことを良しとしている黒龍がわざわざこの世界から離れる意味が分からないわ」
「な、だって、穂積様が言ってたのよ」
「私達が見たのは、譲羽ちゃんの腕を穂積様が掴んでて、その腕に黒龍の刻印が刻まれてたところだけじゃん? 誰も譲羽ちゃんから黒龍が出て来た所なんてみてないじゃん」
「なによ、穂積様が嘘をついてるって言うの!?」
「私、一年近くたってるけど、穂積様の事完全に信じてるわけじゃないし。むしろ女子高生に強制労働を強いるとか何様って感じだし」
「そうねー。こんな日でもない限り働きづめとか勘弁ねー」
「やっとでき休みはこうして邪魔されてしまったけれどもね」
「そ、それは譲羽ちゃんの為に」

 そこで私がなんで出て来るかな、別に頼んだわけじゃないのに。
 まったく、朱里ちゃんは本当に自分の考えが正しいと考えているか、穂積への恋心で目が曇っているとしか思えない。
 というか、いくら鞍馬天狗が痛みを誤魔化してくれているとはいえ、頭が痛いものは痛いのだし、いい加減出て行って欲しいのだが、素直に伝えてもいいのだろうか?

「あのさ、本気で体調悪いし、こんな天気だし、いつ穂積様が帰って来るかもわかんないし、自分達の局に帰ってくれない?」
「なによその言い草! せっかく来てあげたっていうのに」
「いや、頼んでないし」
「はあ、この台風の中渡り廊下をまた歩いて自分の局に帰るとか、マジないし」
「全部朱里さんのせいよ」
「譲羽ちゃんのせいじゃない。私は譲羽ちゃんを憐れんで来てあげたの」
「あー、ねー」

 迷惑な話だ。
 私は重い体を何とか動かして蔀戸を開けると、御簾を捲って四人に早く出ていくように促す。
 まだ風は強いし、雨も思いっきり渡り廊下に吹き込んでいるけれども知った事ではない。
 私の意図を察してくれた三人は、朱里の腕を掴んで局から出て行ってくれたので、私は今度こそ人が入ってこないようにしっかりと内側から蔀戸を閉めると、その場に座り込んで溜息を一つ吐き出した。
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