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042 いざ都へ
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この世界に来て一年が過ぎ、中庭の紅葉が紅く色付いてきて、私は黒龍と初めて会った日の事を思い出すことが多くなって来た。
始めは不審者かと思っていたが、まさか黒龍だったとは思わず、あの時は我ながら随分と冒険に出たものだと思う。
本当に、穂積に局の外に出たことがバレなくてよかった。
女房姿をとらせている式神は、用事がない時は局の隅の方で座っている事がほとんどで、特に私と会話することもないし、会話だったら黒龍としているので寂しいと感じることもない。
そういえば、あの宴以降、朱里が何かと理由を付けて私の局に来ては穂積との仲がどれほど進展しているのか自慢しに来ているので、そろそろ穂積に苦情を入れようかと真剣に考えている。
どうやら、他の巫女は穢れの浄化で忙しく話を聞いてくれないそうなのだが、どう考えても朱里の事を厄介払いしているようにしか感じられない。
朱里も悪い子ではないと思うのだが、なんと言うか空気を読まない所が欠点なのではないだろうか?
「あのさ、朱里ちゃん」
「何? 私と穂積様の関係が羨ましくなっちゃった?」
「いや別に。っていうかさ、何回も言ってるけど、こうして私の局に来てるってこと穂積様に報告するって言ってるよね? それなのになんでわざわざここに来るわけ? 穂積様に怒られたいの?」
「そんなわけないでしょ! 譲羽ちゃんが寂しがってると思ってるからわざわざ忙しい時間を割いて来てあげてるんじゃない」
「うわー。超上から目線。まあ、いいけど。明日穂積様が来た時に朱里ちゃんがこの局にしょっちゅう来るから困るって報告するし」
「ちょっと、余計なことしないでくれる?」
「だって、私だって迷惑。他人の恋愛事とかどうでもいいし、相思相愛の惚気話もうざいけど、片思いの惚気話とかもっとうざい」
「ひどい! 私は譲羽ちゃんの事を思って言ってるんだよ?」
「はいはい。だったらもうこの局には来ないでよね。どうせ、他の子の所に行っても相手にされないから私の所に来てるんでしょ」
「そ、それは、皆は穢れの浄化に忙しいからで……。譲羽ちゃんは暇でしょ」
「全然暇じゃないし。むしろ朱里ちゃんに邪魔されてるし」
「なによ、役にも立たない霊力の訓練しかしてないじゃない」
何もわかっていない朱里の言葉に、私は深い溜息を吐き出す。
穂積からは黒龍の穢れが外に漏れだした時に対処するためだと聞かされているはずなので、役に立たないという事は無いし、緑龍に聞けば、本来黒龍は穢れを撒き散らす存在ではないという事が分かるはずなので、どちらにせよ私のしている事が無駄ではないとわかるはずなのだが、朱里はどうも思い込みが激しいところがある。
元の世界にもクラスに一人ぐらいはいたけれども、それにしても朱里の思い込みの激しさにはうんざりしてしまう。
「あのさ、緑龍に黒龍の存在についてちゃんと聞いたことある?」
「ないけど? 穂積様が黒龍が悪い龍神だって言ってるんだし、聞く必要なんかないでしょ」
「あっそ。まあいいけど、とにかく、私は訓練で忙しいの。朱里ちゃんも穢れの浄化をサボらないで早く都に行って来たら?」
「なによ、人の好意が分からないとか、流石黒龍の巫女になるだけの事はあるわね。性格悪すぎ」
朱里には言われたくないと思うのだが、反論すればさらに長い時間この局に居座られることは学んでいるので肩を竦めるだけで何も言わないことにしている。
それにしても、穂積からも何回かこの局に来ないように警告されているはずなのだが、どうして来るのだろうか?
二日に一回この局に穂積が通っていることに対する牽制? だとしたら本当に馬鹿らしい。
恋愛をするのは自由だが、それに私を巻き込まないで欲しいものだ。
私の態度がお気に召さなかったのか、朱里は憤慨した表情を浮かべながら、御簾を乱暴に捲り上げると局から出ていった。
ドスドスという足音が遠ざかるのを聞きながら、いったい毎回何しに来ているのだと思いつつ、明日は本気で金輪際、朱里がこの局に来ないように穂積に嘆願しようと心に決めた。
そもそも、他の龍神の巫女はこの時間も都に出て穢れの浄化作業をしているはずなので、朱里はその仕事をサボっているという事になり、その点に関しても穂積から叱ってもらうほうが良いだろう。
少し前までは率先して穢れの浄化作業に赴いていたはずなのだが、朱里の中でいったいどんな心境の変化があったのだろうか。
まあ、ともあれ私が都に出る為にも朱里にはこの局に近づいてもらうのは都合が悪いため、穂積に苦言を呈するのは決まっている。
「やれやれ、あの娘にも困ったものだな」
「ほんと。朱里ちゃんが来るたびに訓練が中断されていい迷惑」
「しかし、あの巫女は陰陽師に気があるのであろう? まっとうに考えるのであればこのようなところで時間をつぶすのではなく穢れの浄化に出たほうが印象は良くなると思うのだがな」
「そこが朱里ちゃんの謎思考なんだよね。まあ、あの穂積様に惚れちゃうぐらいだし、頭のネジがぶっ飛んじゃってるんじゃないの?」
始めは不審者かと思っていたが、まさか黒龍だったとは思わず、あの時は我ながら随分と冒険に出たものだと思う。
本当に、穂積に局の外に出たことがバレなくてよかった。
女房姿をとらせている式神は、用事がない時は局の隅の方で座っている事がほとんどで、特に私と会話することもないし、会話だったら黒龍としているので寂しいと感じることもない。
そういえば、あの宴以降、朱里が何かと理由を付けて私の局に来ては穂積との仲がどれほど進展しているのか自慢しに来ているので、そろそろ穂積に苦情を入れようかと真剣に考えている。
どうやら、他の巫女は穢れの浄化で忙しく話を聞いてくれないそうなのだが、どう考えても朱里の事を厄介払いしているようにしか感じられない。
朱里も悪い子ではないと思うのだが、なんと言うか空気を読まない所が欠点なのではないだろうか?
「あのさ、朱里ちゃん」
「何? 私と穂積様の関係が羨ましくなっちゃった?」
「いや別に。っていうかさ、何回も言ってるけど、こうして私の局に来てるってこと穂積様に報告するって言ってるよね? それなのになんでわざわざここに来るわけ? 穂積様に怒られたいの?」
「そんなわけないでしょ! 譲羽ちゃんが寂しがってると思ってるからわざわざ忙しい時間を割いて来てあげてるんじゃない」
「うわー。超上から目線。まあ、いいけど。明日穂積様が来た時に朱里ちゃんがこの局にしょっちゅう来るから困るって報告するし」
「ちょっと、余計なことしないでくれる?」
「だって、私だって迷惑。他人の恋愛事とかどうでもいいし、相思相愛の惚気話もうざいけど、片思いの惚気話とかもっとうざい」
「ひどい! 私は譲羽ちゃんの事を思って言ってるんだよ?」
「はいはい。だったらもうこの局には来ないでよね。どうせ、他の子の所に行っても相手にされないから私の所に来てるんでしょ」
「そ、それは、皆は穢れの浄化に忙しいからで……。譲羽ちゃんは暇でしょ」
「全然暇じゃないし。むしろ朱里ちゃんに邪魔されてるし」
「なによ、役にも立たない霊力の訓練しかしてないじゃない」
何もわかっていない朱里の言葉に、私は深い溜息を吐き出す。
穂積からは黒龍の穢れが外に漏れだした時に対処するためだと聞かされているはずなので、役に立たないという事は無いし、緑龍に聞けば、本来黒龍は穢れを撒き散らす存在ではないという事が分かるはずなので、どちらにせよ私のしている事が無駄ではないとわかるはずなのだが、朱里はどうも思い込みが激しいところがある。
元の世界にもクラスに一人ぐらいはいたけれども、それにしても朱里の思い込みの激しさにはうんざりしてしまう。
「あのさ、緑龍に黒龍の存在についてちゃんと聞いたことある?」
「ないけど? 穂積様が黒龍が悪い龍神だって言ってるんだし、聞く必要なんかないでしょ」
「あっそ。まあいいけど、とにかく、私は訓練で忙しいの。朱里ちゃんも穢れの浄化をサボらないで早く都に行って来たら?」
「なによ、人の好意が分からないとか、流石黒龍の巫女になるだけの事はあるわね。性格悪すぎ」
朱里には言われたくないと思うのだが、反論すればさらに長い時間この局に居座られることは学んでいるので肩を竦めるだけで何も言わないことにしている。
それにしても、穂積からも何回かこの局に来ないように警告されているはずなのだが、どうして来るのだろうか?
二日に一回この局に穂積が通っていることに対する牽制? だとしたら本当に馬鹿らしい。
恋愛をするのは自由だが、それに私を巻き込まないで欲しいものだ。
私の態度がお気に召さなかったのか、朱里は憤慨した表情を浮かべながら、御簾を乱暴に捲り上げると局から出ていった。
ドスドスという足音が遠ざかるのを聞きながら、いったい毎回何しに来ているのだと思いつつ、明日は本気で金輪際、朱里がこの局に来ないように穂積に嘆願しようと心に決めた。
そもそも、他の龍神の巫女はこの時間も都に出て穢れの浄化作業をしているはずなので、朱里はその仕事をサボっているという事になり、その点に関しても穂積から叱ってもらうほうが良いだろう。
少し前までは率先して穢れの浄化作業に赴いていたはずなのだが、朱里の中でいったいどんな心境の変化があったのだろうか。
まあ、ともあれ私が都に出る為にも朱里にはこの局に近づいてもらうのは都合が悪いため、穂積に苦言を呈するのは決まっている。
「やれやれ、あの娘にも困ったものだな」
「ほんと。朱里ちゃんが来るたびに訓練が中断されていい迷惑」
「しかし、あの巫女は陰陽師に気があるのであろう? まっとうに考えるのであればこのようなところで時間をつぶすのではなく穢れの浄化に出たほうが印象は良くなると思うのだがな」
「そこが朱里ちゃんの謎思考なんだよね。まあ、あの穂積様に惚れちゃうぐらいだし、頭のネジがぶっ飛んじゃってるんじゃないの?」
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