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 食事も中盤に差し掛かった頃、ギルドがエイリスの活躍ぶりを話してくれ
た。


「出会った頃から強かったなエイリスは。剣の稽古をやらせれば最後まで立っ
てるし、槍をやらせれば誰よりも的確に的に的中させる」


 その時のエイリスの姿を想像してティアナはぽっと顔を赤くする。


「お二人は騎士になってから出会ったんですか?」


「ああ。最初に声を掛けてきたのがギルドだった」


「お前はいつも一人でいたからな。哀れに思って声を掛けたんだよ。この通り
の仏頂面だろ? それに加えて一番強い男だ。誰も近寄りがたかったんだろう
な」


 エイリスは元々誰かと馴れ合うつもりはなかったらしい。


「はじめは適当に付き合っていたけどな。いつの間にかこうなった」


 ワインを口に含みながらエイリスは苦笑を零す。


「本当はお前と仲良くなりたい連中が多かったんだぞ。皆直々に剣を習いたい
と言っていた」


 何せこの国で一番強い男だからな、とギルドは自分のことのようにエイリス
を自慢する。


「もういいだろう」


「照れるな。まだまだあるぞ、こいつの武勇伝」


「なんですか?」


 ティアナが興味津々に聞いてきて、ギルドはニヤニヤと笑みを見せながら語
った。


「こいつのすごいところは戦闘の場で先陣を切っていくことだ。どんなに強い
相手だろうと、大人数だろうと怯むことなく一人で立ち向かう」


 騎士団長に奮い立たされて後ろにいた騎士達も後に続く。


「昨今の戦もエイリスがいなければ危なかっただろうな」


「俺だけでは勝てなかった。お前の助けがなければー」


 そこまでエイリスが言いかけてはっとして口を噤む。


 不安そうに二人の話を聞き入るティアナに気を遣ったのか、エイリスはそこ
で話を断ち切った。


「こんな話をしていてもつまらないだろう」


「そうだな。もっと楽しい話をしよう」


 どんな戦だったか、エイリスが今までどんな活躍をしてきたのか知りたい気
持ちもあるけれど、これ以上聞いたらきっと怖くなってしまう。


 次に戦が勃発したとき行かないでーと縋ってしまうかもしれない。


 ティアナは不安を隠すようにワインを一気に口に含んだ。


「でも本当に安心したよ。エイリスが幸せそうでさ」


 ギルドが嬉しそうに二人を眺めながら笑みをみせる。


「ああ。幸せだ」


 はっきりと口にするエイリスにティアナはむせた。


「ごほっ……、エ、エイリス、様」


「大丈夫か?」


 咳き込んだティアナの背中を優しく撫でる。


「ははっ。これはいいな」


 ギルドは声を出して笑い、二人を満足げに眺め真面目な顔つきになってティ
アナに言った。


「エイリスのこと頼むな」


「は、はい……」


 恥ずかしく思いながらもひたむきに返事をしたティアナに、エイリスも瞳を
細めた。  
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