青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 ユーリーが武道の達人だと知った伊吹が反応し、近々、朝の稽古を見学に来るという。伊吹は剣道が強い。合気道だって習っている。今まで深い話をしていなかった2人の距離が一気に縮まりそうだ。

 そして、二葉が顔を真っ赤にして、ユーリーの稽古を見ていた。上半身裸だから恥ずかしかったのか、女性としての気持ちに目覚めたのかと、ユーリーと黒崎が喜んでいた。しかし、そうではなかった。尊敬するから、自分にも教えてくれということで、俺も黒崎もずっこける気持ちだった。これではますます男性になってしまうと、黒崎が二葉の前で嘆く発言をした。しかし、二葉は嫌がることはなく、笑っていた。

「”二葉、それでいいのか。後悔しないのか。お前は女の身体だ。男のような筋肉は付きづらい。それでも、服の買い直しが必要になるかも知れないぞ”って……。黒崎さんって、服が好きだよねえ。結局、二葉の服も選ぶようになったし……」

 黒崎の趣味が増えてしまった。俺の服を選ぶだけではなく、二葉の全身コーディネートも引き受けてしまった。会社で着るスーツやネクタイも彼が選んでいる状態だ。本人は面倒くさがりだから、兄貴が言うとおりの服を着ることに抵抗はないようだ。しかし、店で選ぶのには時間がかかり、二葉があくびをしていた。そして、うちの家は男しかいないのだと、黒崎ががっかりしていたのを、はっきりと思い出すことができる。

「結局のところ、あの人は”妹”が欲しかったんだろうなあ。万理にだって優しいし。ううん。女の人に優しいんだよ。でもなあ、デート相手には不誠実な感じもあったけど。うひゃひゃひゃ。俺には誠実だよね。ヒョーーーッ、いたたたた……」

 近くにあるテーブルを叩いてしまった。少し痛みが走った。じんじんする。この力で普段から黒崎のことを叩いているのだと知り、次からやめておこうと思った。

 そのテーブルの上には、ステージの進行表を置いてある。俺の手書きと悠人のメモ、久弥のメッセージも書かれている。シャルロットのイラストは、久弥の手によるものだ。黒崎のように絵が上手だから驚いた。

「何でも出来る人だなあ。でも、武道は怖いからやっていないんだって言ってくれて良かった。これで強かったから、俺、負けっぱなしだよ……」

 俺には喧嘩の強さという自信がある。久弥からは、絶対に暴力と酒は厳禁だと言い聞かされた。ホールでのリハーサルの間、メンバーもスタッフも全員、飲みに行くのは禁止されていた。今日のステージが終われば、無事に久弥の送り出しが済まされて、2日目のコンサートを終えることになる。何も起こらず、昨日のように事故が無く進むと良いと願っている。

 この部屋の壁にはポスターが貼られている。久弥単独の分と、3人で映ったものだ。これをバックに取材の時の撮影がされる。そのために貼られている。このコンサートが終わった後、もう次のバンドの楽曲のレコーディングとアルバム作成、ツアーの計画が始まる。大忙しだ。久弥はステージを降りた気分になれるだろうか。

「明後日、久弥はプロデューサーとしての取材があるって言っていたもんね。なかなか後方部隊のみにはさせてもらえないだろなあ。俺達、頑張らないと……」

 俺達がしっかりすれば、久弥は表舞台には姿を見せなくなる。音楽の仕事をしながら、高宮さんのように、ひっそりとしていたいのだという。しかし、IKUがそうさせてくれなくて、テレビやラジオの仕事の依頼が舞い込んでいる状況を迎えている。

 久弥だって、俺達のバンドの宣伝をする手伝いがしたいし、IKUの仕事もしたい。それには、お世話になった人からの仕事もあり、依頼を受けるしかないという選択肢があるそうだ。それにIKUが乗り、そうだろう?引退しないだろう?と、根気強く説得しているのを知っている。久弥が困っていることも。そこで、久弥が弾くヴァイオリンの楽曲を出してみてはどうかという話も出ていた。
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