青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 午前10時半。

 庭の中にある倉庫にやって来た。そして、中に入った途端、来たことを後悔することが起きた。俺の視界のど真ん中に、首から上だけの女性のマネキンが並んでいる光景が入ってきたからだ。親戚の人が日本髪を結う練習のために揃えていたマネキンだそうだ。

「もうーーー、ビックリしたよーー。生首かと思ったんだーーー」
「位置が悪かったか?俺が置き直した」
「あんたがやったのかよーー。ああ、奥にあったから、寂しいだろうと思ってなんだね……。え?ユーリーも、その場に居たの?」
「ああ、僕も一緒に動かした。最初にあったのは、ブローチの入った箱だったからね。それは奥でも良いだろうと思ったんだよ」
「黒崎さーーん。お炊き上げした方がいいんじゃないの?」
「そうか?綺麗な人形だろう。せっかくだから、親父がここに来たときに見せてやりたいと思った」
「お義父さんだって驚くと思うよ……」

 どっこいしょと、そばに置いてある椅子に座った。小さなテーブルもある。これも保管していた物だろうか。そこで、まさかペンキ塗り立てなんてことはないだろうかと思いつき、立ち上がって、椅子の表面を確かめた。乾いているから大丈夫そうだ。

「よかった。何もなくて……」
「さすがにそういうことはしない」
「いやーー、あんたとユーリーが揃ったら、そういうことが起きそうだよーー」

 椅子の背にもたれて、ふんぞり返ってみた。黒崎のいつもの座り方だ。それは、誰から習ったのだろうと思うような座り方だ。お義父さんはそうではなくて、きちんと座っている印象だ。

「ははは。夏樹。圭一の真似か?」
「分かる?当たり!黒崎さんの真似だよ~。聖河さんから聞いたんだけど、今年の法事の席で、こうやって、ふんぞり返って座っていたんだって。隣には晴海お兄ちゃんがいて、あれこれと、みんなの世話を焼いていたんだ。来年から施主になるしって……」
「ああ、見たかった。来月には僕も見られるかな?」
「お義父さんが出席してくれって頼んでくると思うよ。今年は俺も二葉も出るから、人数が増えるね。一昨年なんか、晴海お兄ちゃんがこんなことを言っていたんだ。法事の後の食事会は精進料理なのに、エビが出ないのか?って……」
「エビが好きなのか。だから、パエリアのエビを多めに入れてあげていたのか」
「そうなんだよ~。俺はどっちかというと苦手な方だからさ。俺の分を食べてもらったんだ。……黒崎さん。どこに行くの?」
「奥の方だ。ブローチを持ってくる」
「うん」

 待っているよと声を掛けると、ユーリーが向かいの椅子に座った。彼も堂々としているが、威圧感はない。外見はいかにも優しそうだし、にこにこと笑っている。目つきが悪いと言われたことがなくて、得をしているとユーリーが言った。俺のことをイジりながら。

「なんだよ~。どうせ俺は目つきが悪いよ~」
「はははは。そんなことはないよ。僕は入国審査の時に得をしているんだ。悪い人に見えないだろう?これには親に感謝している」
「お父さん似だって言っていたね。カズ兄さんなんか、怪しい人だと思われがちでさ……。ほら、イケイケのスーツ姿だろ?パーティーの時なんか、悪目立ちするんだってさ……」
「ああ、一貴さんはそうだろうね。怪しい人に見えるよ。詐欺師みたいだと言われたことがあるんじゃないか?」
「あると思う!あ……」

 ここにはいない人のことを悪く言ってしまった。しかし、一貴さんのことだから良いだろう。すると、奥から黒崎が戻ってきて、好きなだけ言えと言ってきた。聞こえたのだろう。俺はあんたのことじゃないよと言い返すと、分かっていると言って、笑っていた。
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