青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 そして、俺は想像しておかしくて笑いがこみ上げてきた。小さい頃に黒崎とユーリーが一緒に過ごしていたら、どうだったかということだ。黒崎からすると、たまにお義父さんに手紙を送ってくる親戚の一人だと思っていたそうだ。ユリウス・バーテルス。どんな人だろうと思っていたら、自分と年が2歳しか変わらないのに、難しい漢字を書いていると知り、嫉妬に燃えたそうだ。それは7歳の時だったという。ユーリーは9歳の時だ。

「うひゃひゃひゃ。あんたが嫉妬するところ、見たかったなあ~」
「何の話だ?」
「ユーリーがお義父さん宛に書いた手紙のことだよ。難しい漢字を使って書いてあったから、ビックリしたんだよね?同じ小学生でこんなに書けるの?もっとお兄さんなんじゃないの?って……」
「ああ、あの人に聞いた。どうして?と。何て答えてくれたかは覚えていない。親父には何か言ったか……。文香さんにも言ったぞ。漢字を書くのを頑張れと励まされた。ユーリー、覚えているだろう?彼女のことを……」
「もちろん、覚えているよ。僕たちがドイツに帰国する前から来てくれていたお手伝いさんだ。元プロレスラーだ。純白叔母さんの親しい人なんだろう?」
「ああ、そうだ。俺がこの家に来ると知って、純白叔母さんが呼んでくれた人だ……」

 それは黒崎が6歳になる前の日のことだ。文香さんというお手伝いさんが初めて黒崎家に訪れたときのことだ。ユーリーが対面し、優しそうな人だと思ったそうだ。そして、この家に圭一という男の子が引っ越してくるのだと知った。その子はお義父さんの息子であり、別々に暮らしているのだと知り、自分と同じだと思ったそうだ。

 黒崎が引っ込み思案でもあったから、黒崎家のお手伝いさんには、空手の有段者が選ばれた。黒崎を担当する人は全部で5人いた。通いのお手伝いさんだ。曜日ごとに交代して、昼と夜、常に居るようにと、お義父さんがそうした。全員有段者だなんて、なかなか見つからないだろうと、親戚の中には陰口を叩く人がいたらしいが、お義父さんが探し回り、見つけ出した。学校の先生をしている人に探してもらったり、純白叔母さんの知り合いのプロレスラーに頼んで探したりもしたそうだ。

 すると、文香さんという純白叔母さんの友達が、お手伝いさんになってもいいよということで、黒崎の担当になった。料理上手で裁縫もできて、字も上手だったという。そして、力持ちだから、黒崎が外で散歩するのを嫌がった日には、肩に担がれて外に連れて行かれたそうだ。その文香さんは黒崎が高校生になる半年前に結婚し、遠くに引っ越してしまった。とても寂しかったそうだ。

「すごいよね。お手伝いさんをしながら、プロレスの試合もやっていたなんて……。最後になるプロレスの試合を見て、あんた達、文香さんの言うことを聞くようになったんだっけ?」
「その通りだ。俺は6歳だったんだぞ。週1回来てくれる彼女がまさか、あんなことをするなんてと思った。相手に技を掛けている試合の録画を見せられてのことだ……」
「ユーリーは8歳だったんだよね?もうドイツに帰るところで、ホッとしたんだっけ?」
「そうだよ。怖かった。リアルアイムで試合を見させてもらった。でも、かっこいいと思って興奮した。兄貴は驚いていなかった。プロレスを知っていたからだ。目の前でレスラーが動いているんだ。見たのは、ほんの少しの時間だったけど……」
「伊吹お兄ちゃんが聞いたら羨ましがるよ。あの人、プロレスが好きだからさ。俺、小さい頃に技を掛けられて、倒れたんだ~。お母さんがめちゃくちゃ怒ってさ~。俺だって遊んでいたんだけどね……」
「それはそうだろう。お前の身体を考えたら……」

 黒崎がため息をついた。そして、文香さんのことが懐かしいと言い、連絡を取ってみると言った。しかし、今日は誕生日だから、まるでプレゼントをねだるようになってしまうから、明日にしようかとも言い出した。
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