青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 父が医師からの説明を聞き終えて、部屋から出てきた。はあっとため息をついている。思ったよりも悪い結果だったのか。頭のCTを撮ったと聞いてある。血液検査と心電図も調べた。

「親父。悪い結果だったのか……」
「いや、そうはないよ。頭のCTの結果は異常なしだった。ただし、心臓の方は雑音と不整脈があるそうだ。この間の検診の時には何もなかった。血液検査の結果も異常が無い」
「じゃあ、頭痛ということなのか」
「右側頭部の痛みは片頭痛と緊張性頭痛と副鼻腔炎、脳血管障害が考えられるそうだ。夏樹の場合は緊張性頭痛ではないだろうかと言われた。おじいさんのことを話したよ。それから、大きな仕事の節目にかかっていること、大学の卒業のこともだ。主治医の南里先生は外来中で来られないが、ここにはカルテがある。夏樹のことをよく知ってくれている病院だ。信頼している。彼は今、点滴中だ。まだ中には入れない」
「今日は帰れるのか?」
「明日になる。まだ顔色が悪いそうだ。今日一日様子を見ようということになった。病室は7階になる。体重が減っていることが気になるそうだ。痩せすぎだそうだ」
「ああ……。それは俺も思っている。ダイエットだと言って、甘い物を食わなくなった。それがいけなかったのか……」

 夏樹が肉体改造だと言って、鶏胸肉を多く食事に取り入れ始めたのには喜びを感じた。甘い物を控えるようになったこともだ。食事が入ると思ってのことだ。しかし、食事量はさほど変わらず、痩せていった。腹筋が割れたと言って喜んでいたが、体力を奪われてしまったのか。

「夏樹には甘い物を食わせることにする。活動量を考えれば、大した量じゃない。俺が口うるさく言い過ぎた」
「そうしてやってくれ。病気になるほどの量じゃない。3日に1回のフルーツタルトだ。学食で食べていたのはアイスクリームだ。それも大量じゃない。一人分だ」
「そうだな。ん?夏樹の声だ……」

 部屋の中から夏樹の声がした。帰ると言っている。そんなわけにはいかない。明日退院なら収録に間に合う。その収録には出させていいのかと迷いがある。夏樹は俺の言うことを聞いて予定を延ばすだろうが、夏樹の心が持たなくなる。なんとしてでも予定通りの収録に参加させてやりたい。

 俺は椅子から立ち上がった。まずは長谷部さんに声を掛けて貰うことにした。彼女が部屋の位置口に立つと、夏樹が気がついて、泣きそうな声を上げた。

「長谷部さん!ごめん!俺……」
「夏樹君。いいのよ。聡太郎君と大和君と琉芯君が来ているわよ。久弥さんは仕事で来られなかったの。後で電話すると言っていたわ。悠人君が大学にいるわ。彼も後で電話するって。今日は一日入院だそうよ。月曜日と火曜日の収録には出られると、お父さんから聞いたところなの。お医者さんがそうしてもいいって。でも、何も起きなければよ。安静にして、しっかりと休んでね」
「長谷部さん……」

 夏樹が部屋から出てきた。点滴の針が刺さった腕が痛々しい。父が言うには、痛み止めだと言うことだ。心なしか朝よりも痩せた気がする。そして、顔色が悪い。しかし、ここに搬送されたときよりも頰に赤みが差している。

「夏樹。大人しくしろ。泣かなくていい。収録に出られるようにちゃんと寝て、しっかり食っておけ。親父が今夜のここの洋食メニューを聞いてある。パンプキンのパンナコッタが出るそうだ。メインは鶏胸肉の煮込みで、トマトソースだ。美味そうだ。何もなければ食べられる」
「黒崎さん。みんな……。ひっく……」

 夏樹が大粒の涙を流し始めた。卒業式に最後まで出られなくて無念だろう。本当なら夕方まで大学にいて、教授達や同級生との懇談が楽しめた。4年間という時間を過ごした大学への感謝と喜びに溢れていたはずだ。大学はなくならない。いつでも行くことが出来る。しかし、今日という卒業式は今日だけだ。

「夏樹。大学にはまだ出かけるだろう。同級生達とは連絡先を交換してあるんだし、集まりもあるだろう。八代君と葉月君にも会える。真羽君は立派に卒業生代表の答辞を行ったそうだ。学長からの話もよかったそうだ。後で録画配信がされるから、話だけでも聞くことが出来る。俺が頼んで、夕方までには貰ってやる」
「ああ、私からも頼んでみる。夏樹。ゆっくり休みなさい」
「うん……」

 夏樹が頷いた。俺も父もなすすべがない。今夜は病院だということで、いくつか用事があると思ったが、着替えぐらいしか用意するものがないことに感謝した。数ヶ月間の入院であれば細かなものが必要だからだ。俺達は夏樹のことを励まして、ベッドに寝かせた。
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