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さて、俺はこれから何をしようか。悠人からの連絡を待とうと思ってソファーに座った。歯茎の痛みを感じない。テンションが高くなり、それどころではない。しかし、そんなことを思っていると、チクチクと痛み始めて、口を閉じた。
「いたたた。あ、伊吹お兄ちゃんに報告しないといけなかった。一番先に言わないとうるさいからさ~」
「俺が伝えてやろうか?……お母さんに連絡しておけ」
「ううん。自分で言うよ。……ん?黒崎さん。もう電話を始めたんだね」
俺が言い終わる前に、黒崎が伊吹に電話をかけ始めた。すると、すぐに電話に出て、テンション高めの声が聞こえてきた。今日は会社のはずだ。テレビ局にはいないだろう。ブームは落ち着いてきて、テレビの仕事を抑えめにしている。“ブロッコリー社の中山です”という伊吹の挨拶文句で流行語大賞を狙っていたが、審査員特別賞に輝き、大賞を逃した。しかし、テレビ局のオファーは続いている。俺としては、伊吹にはもうテレビに出て欲しくなかったが、出ないと寂しいと思うようになった。
「黒崎さん。俺、お母さんに電話を掛けるからね」
「ああ、そうしてくれ。……もしもし、伊吹君。今さっき、長谷部さんから報告が入った。楽曲のダウンロード数が週間ランク1位になったそうだ」
「うんうん。お兄ちゃん、テンションが高いなあ……」
黒崎のスマホから伊吹の声がここまで聞こえている。聡太郎から報告が入っていると思ったが、まだのようだ。俺の方は母に電話を掛けた。今日も事務所に居るはずだ。そして、電話を掛けると、すぐに出てくれた。第一声は、歯を抜いた後はどうだったかという心配の言葉だった。
「もしもし。お母さん。無事に歯を抜けたよ。痛み止めが効いているから痛くないよ。手術中もいたくなかったよ。でも、今、口を開けたらチクチクしてさ~。あのさ~、この間の楽曲のダウンロード数が1位になったんだ!」
母に報告した。すると、とても喜んでくれた。父も事務所に居るという。そこで、電話を替わってもらい、報告した。
「もしもし。お父さん。良い結果だったよ。え、なんでそんなに笑っているんだよ?お母さんの失敗?どうしたの?……え、大丈夫なの?」
「ああ、お母さんには何も起きていないし、事故も起きていない。車の運転はやめさせておく」
「そうだよ。自転車にしてよ。でも、自転車も危ないんだよ。沙羅叔母さんみたいにずっと車の運転をしていたらいいけど、ペーパードライバーじゃん。もうやめておいた方がいいよ」
「ああ、そうすることにする。おじいちゃんの家に行くために車を使おうとしたけど、やめておいた方がいい。お父さんが通うことにする。それか、一緒に行く」
「そうだよ。そうしてよ」
父からの話に呆れて驚いた。母は車の運転免許を持っていて、俺が小さいときには運転していたのだが、途中からしなくなった。そこで、すっかりペーパードライバーの状態になっているのだが、中山家の祖父の家に世話に行くために車を使おうと考えたそうだ。そこで、家の車に乗り込んで、いざ運転席に座り、運転を始めようとしたとき、助手席に座っている父にこんなことを言ったそうだ。アクセルのペダルは右と左のどっちかと。そして、右だと分かり、右足でアクセルを踏み、左足でブレーキを踏もうとしたそうだ。それぞれ、右足で踏むことになっている。
「お母さん、危ないよ~。免許を持っていない俺ですら、知っていることなのに……」
「万理が騒いでいたよ。お母さん、やめておけって。お前もそう言っていると、伝えておく。お父さんもそう思う。伊吹にはまだ話していない」
「お兄ちゃんもそう言うと思うよ。俺も運転しないからさ。お母さんも仲間だよ」
「そうだな。お前もしない方が良い。何かあると大変だ。夜遅くまでレコーディングをして帰る時には危険だと思う。タクシーを使った方が良い」
「うん。俺もそう思うよ。……じゃあ、仕事の邪魔になるから、もう切るよ」
プツ。電話を切った。向こうは普段通りの時間が流れているようで安心した。黒崎の方を振り返ると、彼の方も電話を終えていた。アンが電話中の黒崎の足下でじゃれついているのは、伊吹の声が聞こえたからだと思う。オモチャにして遊んでも良いと思っているようだ。
「うーーーん」
今日は平和だ。そんなことを思いながら伸びをして、テレビを見つめた。お昼の情報番組では都内の水族館の話題が出ていて、行きたいなと思いながら。
「いたたた。あ、伊吹お兄ちゃんに報告しないといけなかった。一番先に言わないとうるさいからさ~」
「俺が伝えてやろうか?……お母さんに連絡しておけ」
「ううん。自分で言うよ。……ん?黒崎さん。もう電話を始めたんだね」
俺が言い終わる前に、黒崎が伊吹に電話をかけ始めた。すると、すぐに電話に出て、テンション高めの声が聞こえてきた。今日は会社のはずだ。テレビ局にはいないだろう。ブームは落ち着いてきて、テレビの仕事を抑えめにしている。“ブロッコリー社の中山です”という伊吹の挨拶文句で流行語大賞を狙っていたが、審査員特別賞に輝き、大賞を逃した。しかし、テレビ局のオファーは続いている。俺としては、伊吹にはもうテレビに出て欲しくなかったが、出ないと寂しいと思うようになった。
「黒崎さん。俺、お母さんに電話を掛けるからね」
「ああ、そうしてくれ。……もしもし、伊吹君。今さっき、長谷部さんから報告が入った。楽曲のダウンロード数が週間ランク1位になったそうだ」
「うんうん。お兄ちゃん、テンションが高いなあ……」
黒崎のスマホから伊吹の声がここまで聞こえている。聡太郎から報告が入っていると思ったが、まだのようだ。俺の方は母に電話を掛けた。今日も事務所に居るはずだ。そして、電話を掛けると、すぐに出てくれた。第一声は、歯を抜いた後はどうだったかという心配の言葉だった。
「もしもし。お母さん。無事に歯を抜けたよ。痛み止めが効いているから痛くないよ。手術中もいたくなかったよ。でも、今、口を開けたらチクチクしてさ~。あのさ~、この間の楽曲のダウンロード数が1位になったんだ!」
母に報告した。すると、とても喜んでくれた。父も事務所に居るという。そこで、電話を替わってもらい、報告した。
「もしもし。お父さん。良い結果だったよ。え、なんでそんなに笑っているんだよ?お母さんの失敗?どうしたの?……え、大丈夫なの?」
「ああ、お母さんには何も起きていないし、事故も起きていない。車の運転はやめさせておく」
「そうだよ。自転車にしてよ。でも、自転車も危ないんだよ。沙羅叔母さんみたいにずっと車の運転をしていたらいいけど、ペーパードライバーじゃん。もうやめておいた方がいいよ」
「ああ、そうすることにする。おじいちゃんの家に行くために車を使おうとしたけど、やめておいた方がいい。お父さんが通うことにする。それか、一緒に行く」
「そうだよ。そうしてよ」
父からの話に呆れて驚いた。母は車の運転免許を持っていて、俺が小さいときには運転していたのだが、途中からしなくなった。そこで、すっかりペーパードライバーの状態になっているのだが、中山家の祖父の家に世話に行くために車を使おうと考えたそうだ。そこで、家の車に乗り込んで、いざ運転席に座り、運転を始めようとしたとき、助手席に座っている父にこんなことを言ったそうだ。アクセルのペダルは右と左のどっちかと。そして、右だと分かり、右足でアクセルを踏み、左足でブレーキを踏もうとしたそうだ。それぞれ、右足で踏むことになっている。
「お母さん、危ないよ~。免許を持っていない俺ですら、知っていることなのに……」
「万理が騒いでいたよ。お母さん、やめておけって。お前もそう言っていると、伝えておく。お父さんもそう思う。伊吹にはまだ話していない」
「お兄ちゃんもそう言うと思うよ。俺も運転しないからさ。お母さんも仲間だよ」
「そうだな。お前もしない方が良い。何かあると大変だ。夜遅くまでレコーディングをして帰る時には危険だと思う。タクシーを使った方が良い」
「うん。俺もそう思うよ。……じゃあ、仕事の邪魔になるから、もう切るよ」
プツ。電話を切った。向こうは普段通りの時間が流れているようで安心した。黒崎の方を振り返ると、彼の方も電話を終えていた。アンが電話中の黒崎の足下でじゃれついているのは、伊吹の声が聞こえたからだと思う。オモチャにして遊んでも良いと思っているようだ。
「うーーーん」
今日は平和だ。そんなことを思いながら伸びをして、テレビを見つめた。お昼の情報番組では都内の水族館の話題が出ていて、行きたいなと思いながら。
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