青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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20-13

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 13時。

 俺達は隣の部屋に移動して、広いテーブルに置いてあるお弁当を手に取った。あらかじめ席に配られており、どこに座っても構わない。しかし、日頃の癖が出て、出入り口の方に座った。すると、板東さんが俺と黒崎に奥に座るように勧めてくれた。

「どうしてアシスタントが座る席に座ろうとするんだ。そんなに遠慮しないでくれないか。君は出演者だ」
「家ではこうなんです。俺が動いた方が早いから、いつも動きやすい席にいます」
「そうなのか……」

 俺の隣には黒崎がいて、勧められた席に座った。そして、テーブル中央に置かれた冷たいお茶の容器を見た。こういう時に俺がみんなにお茶を煎れるのが黒崎家流だ。しかし、ここでは出演者ということで、静かにしていることにした。すると、聡太郎が容器に触れた。

「夏樹君。みなさん。俺が煎れます」
「すみません」

 監督のアシスタントの男性が用事をしていたから、容器を手に取った聡太郎にお礼を言った。そこで、俺がすることにした。聡太郎は手首を痛めているから、重い物を持たない方が良い。

「聡太郎君。俺がするよ」
「いいよ。君は座っていて。家じゃ何もかもさせられているんだろう。副社長はえらそうだから」
「そうなんだよ~。今もふんぞり返っているんだよ~」

 こうしてスタッフみんなとお弁当を食べる席に黒崎もいることが不思議だ。今回の番組には黒崎製菓がコマーシャルで協賛しており、接待ということで収録の見学に呼んだということになっている。しかし、本人は休日といった顔をしている。決して広くない部屋の中、迫力のあるスーツ姿で来られるのもどうかと思っていたから、その点では文句はない。

 今日の黒崎はポロシャツ姿だ。一貴さんが選んだ涼しい素材で作られた物で、紺色をしている。襟も紺色だが、もっと濃い紺色の線が襟に入っている。それがまるで学校の制服のようで、きちん感が出ている。きちんとしている感じの黒崎にはとても合う。

 俺はというと、きちんとシャツを着ている。板東さんとは初めましての間柄ではないが、スタッフ全員とはそうではない。最初の第一印象が大事だと思っている。それに、ここは仕事現場だ。そう思って、少し肩が凝るとは思ったが、ズボンもスラックスをはいてきた。これでネクタイをすればスーツ姿になる。俺は、それを聡太郎にイジられている。

「夏樹君。俺なんかTシャツで来たのに」
「いいんだよ。暑くても。黒崎さんが虎の顔のTシャツで行くなってうるさかったんだ~」
「それはそうだよ。君のお馴染みの顔になっているけどね」
「やっぱりそう思う?」

 さて、お茶がみんなの前に配られた。この狭い部屋の中にいるのは板東さんとアシスタントの男性と黒崎と長谷部さんと俺と聡太郎だ。他のスタッフは作業をしている人もいれば、隣の部屋で食事をしている人もいる。だから、向こうの部屋にお菓子を置いてきた。食べてくれると良いのにと思っている。

 どうしてそんなことを考えたかというと、小麦とお砂糖を抜いている人が多いというからだ。健康のためにだ。俺はそれを知らないから、お菓子なんていうものを持ってきてしまった。それならカットフルーツを持ってくれば良かったと思った。

「板東さん。みなさんっていうか、多くのスタッフの方が小麦と砂糖をやめているんですね。いつからなんでしょうか」
「もう半年になる子もいれば、最近始めたばかりの人もいる。藤下さんがその健康法をためしてみて、15キロも体重が減ったんだ。そこからダイエットに良いと火が付いたようになって、今日のスタッフの中に試している人が多い」
「へえーーー。パンを食べないということですね。クッキーも。パウンドケーキも、ショートケーキもですか」
「そうだよ。どうしてもパンを食べたい人がいて、彼は米粉を使ったパンを食べているそうだ。料理が出来なくてね。小麦をやめたら食べる物がなくなったそうだ。今日の弁当にはチキン南蛮が入っているけど、たまに食べる小麦は気晴らしになるそうだ」
「そうですよねえ。ヴィーガン対応とか小麦抜きのお弁当の配達って、なかなかないですね」

 そういうものが流行っていることは知っていた。しかし、我が家では取り入れていない。お菓子メーカーの家だからだ。売っているのに食べないなんていけないだろうと思ってのことだ。
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