上 下
20 / 43

20話 国王陛下 その1

しおりを挟む
「それでは、行って参ります」

「ええ、気を付けて行ってらっしゃい」


 私はマリアンヌ様の私室で彼女と会話をしている。これから、ヨハン様に挨拶に向かうところなんだけれど、マリアンヌ様は意味深な笑みを浮かべて言った。


「どういう意味ですか? 私はヨハン国王陛下のところへ向かうだけですよ?」

「うふふ、あなたは初心でいらしているのね。そういうところは可愛いと思うけれど、男はいつの時も狼なのよ? もちろん、陛下であってもね」

「狼……」


 う~ん、言葉を発した相手が正妃のマリアンヌ様でなければ、それだけで不敬罪になりそうなくらいのパワーワードだわ……。私は苦笑いをしてごまかしていた。


「と、いうのは冗談だから、とりあえず気を付けて行ってらっしゃい」

「は、はい、気を付けます」


 私は再び、マリアンヌ様に頭を下げて、彼女の私室を後にした。男は狼……その言葉がいつまでも離れないままに。



---------------------------------------------------



「おや、マリア・テオドアではないか」

「あ、ラウド大臣……こ、こんにちはです……!」


 ピエトロ宮殿の廊下を歩き、ヨハン様の私室に向かっていると、護衛を連れたラウド大臣に出会った。私はなんだか、緊張してしまう。ラウド大臣っていつも厳格な表情をしているから……。


「今の時間ならば、こんばんわの方が良いか。まあ、やや庶民的ではあるがな」

「は、はい……えっと、こんばんわです」

「うむ、こんばんわ。ところで、今からヨハン陛下のところか?」


 ラウド大臣は私が向かっているところをすぐに予測できたみたい。まあ、夜に向かうところだし、選択肢は限られていると思うけど。私は頷いて答えた。

「はい、ヨハン様のところに、泊まらせていただいていますので、ご挨拶へ……」

「ふむ、なるほど……しかし、それだけで済めば良いがな……」

「えっ……?」


 なんだかよくわからないけれど、マリアンヌ様とラウド大臣が重なった気がした。


「男というものはいつの時代も……獣、だからな」


 獣……どういうことになるのか、普通に想像がついてしまうけど、まあ……それは……ほら、私、側室になるのを承諾した身なんだし……。私は顔を赤くなっているのを感じた。う~ん、やっぱりそうなっちゃうのかな……?


「まあ、半分冗談ではあるが……気を付けて向かうが良い」

「は、はい。ありがとうございます。ラウド大臣」


 私はラウド大臣にも頭を下げて、廊下を進んで行く。半分冗談ってことは、半分は本気ってことよね……? 私はどうしたら良いのか、冷静に考えられなくなってしまった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

〖完結〗二度目は決してあなたとは結婚しません。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:92pt お気に入り:2,366

俺を裏切り大切な人を奪った勇者達に復讐するため、俺は魔王の力を取り戻す

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:5,248pt お気に入り:91

家康の祖母、華(け)陽院(よういん)―お富の方―(1502?-1560)

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

伯爵令嬢は執事に狙われている

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:449

腹黒上司が実は激甘だった件について。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:139

処理中です...