侯爵令息から婚約破棄されたけど、王太子殿下から婚約の申し出がありました!

安奈

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4話 貴族街での出来事 その1

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「シエル、今夜は貴族街に泊まるんだろう?」

「そうですね、この時間になりますし……」


 私は夕刻過ぎになっている時間を確認し、ハルト王太子殿下にそのように告げた。貴族街は王都の中にあるために安全だし。授けられた領地に建てられている邸宅へ帰っている時間もないし。

「ならば両親への連絡は私の方から済ませておこう。19歳の愛娘が連絡もなしに帰って来ないでは、心配するだろうからな」

「ご迷惑をおかけします、王太子殿下……」

「気にすることはない。お前たちアクアマイト家には、昔から世話になっていたからな」


 そうだったかしら……どちらかというと、ハルト様の家系であるランパード家に私のアクアマイト家がお世話になっていた気がするんだけど……ま、いっか、嬉しいことだし。


 いきなりシグマから婚約破棄を言い渡されたショックは消えないけれど、それ以上に大きな衝撃……優しさが私を包み込んでくれた感じなのかしら……なんだか、今は冷静に物事を考えられていないわ。


「覚えているか? この噴水のある庭園を、昔は何度も一緒に歩いたものだな」

「そういえば……そうでしたね」


 なんだかドキっとしてしまった。ハルト様はきっと大した意味では言ってないんだろうけど……。まるで、カップル同士が歩いているみたいに言われるから。ハルト王太子殿下が話しているのは、本当に昔の話……10年くらい前の話になるわね。当然、恋人関係とかカップルなんていう間柄なわけもなく。

 ただ、私はあのころはとても楽しかったかな……一介の伯爵令嬢である私が、王家出身であるハルト様と気兼ねなく会うことができたんだから。でも、それから何年もしない内にお互い忙しくなってしまい……正確にはハルト様が王太子殿下としての責務を学ぶ為に忙しくなったんだけれど。

「ハルト様とこうして過ごすのは、本当に久しぶりですね」

「ああ、そうだな」


 私は貴族街にあるアクアマイト家の別宅への道を、ハルト様と歩いているのを非常に満喫していた。ハルト様も心なしか、穏やかなお顔になられているような……。


「……シエル、少し聞いてもらいたいんだが……」

「はい……いかがされましたでしょうか?」


 突然、ハルト様は立ち止まり真剣な表情を私に見せた。一体なんだろう……? 私の心臓は高速で高鳴っていく。


「先ほど、あんなことがあったばかりなのは、重々承知しているのだが……やはり、雰囲気には勝てなくてな」

「は、はい……」


 私の心臓はさらに高鳴っていく……。ハルト様が言おうとしていることを私は期待を込めて見守っていた。


「シエルと過ごせていた時間は私にとって、とても貴重なものだった……出来れば、この先もそれを堪能できればと思っている」


「は、ハルト様……? そ、それは……」


 止められない感情というのは、このようなことを言うのかしら? 私は思わずハルト様に抱き着いていた。それを優しい彼の両腕が包み込む。私たち二人はこの時、10年前以上の楽しい時間を共有していたと思う。それほどに幸せを感じていたから……。

 
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