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45話 罪 その1 (リクイド王子視点)
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「リクイド・ランパード……入れ」
「……」
私は王国内に存在する囚人たちの溜まり場……牢獄の一つへと入ることになってしまった。私はハルト王太子殿下……我が兄上を殺そうとした。この底辺の掃き溜めの場所に送られるのは当然と言えるだろう。
「おいおい、なんか高貴なお方が来ましたよ?」
「何をしたんですか~~~!? お坊ちゃま!!」
噂は既に囚人たちの間にも流れているのか……届かない牢獄の間から腕を伸ばし、私にちょっかいを掛けようとしている者達がチラホラと見ることが出来た。
私は強さには自信がある。メルレーンとかいう兄上の護衛に左腕をへし折られたが、それでもその辺の囚人ごときに負けるはずはなかった。王太子である兄上は、凄腕の面子による護衛が常についている。その間をすり抜けて、彼の腹を刺すことが出来たのだ、これは大きな功績と言えるかもしれない。
あの事件より、数日が経過していた。
兄上は恋愛にかまけている恋愛脳だ……次期国王には向いていない性格だと言えるだろう。
では……ロード第二王子が向いているのか? いや、あれはただのクズでしかない。王族という身分がなければ、犯罪に手を染めることでしか生きて行くことはできなかっただろう。
「はは……今となっては、私も罪人か……」
「言葉を慎め」
「……」
私の見張りとして立っていた兵士に注意を受ける。兄上であるハルトをこの手に掛けてしまったのだ……最早、私は王子ではなく大罪人ということになる。
皮肉なものだな……この国のことを誰よりも考えている自覚と自信があった……私が次期国王となり、民衆を厳格に導く。周辺国家に舐められないように図りがら……カニエル公爵の言葉に惑わされたとはいえ、兄上を刺したのはこの私だ。
それについては、いささかの後悔もない……そして、罪は罪として受け入れる覚悟も出来ている。私の行いは王国を良き方向に進めさせることに成功しただろうか? 兄上は死んだのだろうか? 死んでいなくても、政を行える身体ではなくなっていれば、次期国王は変化するはずだ。
ロード第二王子が国王となり、カニエル公爵陣営が裏で実権を握るといったところか。それもいいかもしれない。
私が望むのはただ一つ……この国の発展なのだから。それが強権による圧政だとしても構わないと思っている。それが上位者の務め……国民を家畜のように扱う非情さが何よりも大切なのだ。
だからこそ、私たちは人の上に立つことを許されているのだから……私は幼い頃より、そのように考えていた。
「リクイド……気分はどうだ?」
そんな時、私に話しかける人物が近づいて来た。このタイミングで? 何者だと、思った時には既に正体が分かっていた。その声を聞き間違えるはずはない……怪我のためか、やや低い声質になっていたが。
「兄上……」
ハルト・ランパードが牢屋の前に立っていたのだ。
「……」
私は王国内に存在する囚人たちの溜まり場……牢獄の一つへと入ることになってしまった。私はハルト王太子殿下……我が兄上を殺そうとした。この底辺の掃き溜めの場所に送られるのは当然と言えるだろう。
「おいおい、なんか高貴なお方が来ましたよ?」
「何をしたんですか~~~!? お坊ちゃま!!」
噂は既に囚人たちの間にも流れているのか……届かない牢獄の間から腕を伸ばし、私にちょっかいを掛けようとしている者達がチラホラと見ることが出来た。
私は強さには自信がある。メルレーンとかいう兄上の護衛に左腕をへし折られたが、それでもその辺の囚人ごときに負けるはずはなかった。王太子である兄上は、凄腕の面子による護衛が常についている。その間をすり抜けて、彼の腹を刺すことが出来たのだ、これは大きな功績と言えるかもしれない。
あの事件より、数日が経過していた。
兄上は恋愛にかまけている恋愛脳だ……次期国王には向いていない性格だと言えるだろう。
では……ロード第二王子が向いているのか? いや、あれはただのクズでしかない。王族という身分がなければ、犯罪に手を染めることでしか生きて行くことはできなかっただろう。
「はは……今となっては、私も罪人か……」
「言葉を慎め」
「……」
私の見張りとして立っていた兵士に注意を受ける。兄上であるハルトをこの手に掛けてしまったのだ……最早、私は王子ではなく大罪人ということになる。
皮肉なものだな……この国のことを誰よりも考えている自覚と自信があった……私が次期国王となり、民衆を厳格に導く。周辺国家に舐められないように図りがら……カニエル公爵の言葉に惑わされたとはいえ、兄上を刺したのはこの私だ。
それについては、いささかの後悔もない……そして、罪は罪として受け入れる覚悟も出来ている。私の行いは王国を良き方向に進めさせることに成功しただろうか? 兄上は死んだのだろうか? 死んでいなくても、政を行える身体ではなくなっていれば、次期国王は変化するはずだ。
ロード第二王子が国王となり、カニエル公爵陣営が裏で実権を握るといったところか。それもいいかもしれない。
私が望むのはただ一つ……この国の発展なのだから。それが強権による圧政だとしても構わないと思っている。それが上位者の務め……国民を家畜のように扱う非情さが何よりも大切なのだ。
だからこそ、私たちは人の上に立つことを許されているのだから……私は幼い頃より、そのように考えていた。
「リクイド……気分はどうだ?」
そんな時、私に話しかける人物が近づいて来た。このタイミングで? 何者だと、思った時には既に正体が分かっていた。その声を聞き間違えるはずはない……怪我のためか、やや低い声質になっていたが。
「兄上……」
ハルト・ランパードが牢屋の前に立っていたのだ。
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