ある時は狙って追放された元皇族、ある時はFランクのギルドマスター、そしてある時は王都の闇から弱き者を護る異世界転生者

マーラッシュ

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出向は突然に

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 ここはサルスガルド王国の首都、グランツリヒト。
 中央には王国のシンボルである巨大な城が、北側には商業施設が、東側には貴族の屋敷が、南側には一般市民の居住区画があり、街は栄えていた。
 一見華やかな街に見えるが、西区画は低所得者達の住まいがあるため、他の区画と比べて治安は良くない。
 そして西区画の外れには、古い教会と冒険者ギルドがあった。
 この物語は、この冒険者ギルド⋯⋯守護の盾アイギスから始まる。

「ふう⋯⋯真っ昼間から飲む酒は格別だな」

 青年は飲み干したグラスをテーブルに置く。今は冒険者ギルドに依頼者はおらず、この場にいるのは二人だけだった。

「ユクトちゃん。その言葉最低だよ」

 一人の女の子がギルドの受付カウンターから、青年に向かって声をかける。

「何を言ってるんだ。自分で作った酒を飲んで悪いことなんて一つもないはずだ。皆が働いている時に飲む酒は最高に旨い。まさにこれこそ至福の時間だな」
「また屁理屈を言って⋯⋯お姉ちゃん、そんな子に育てた覚えないよ。ギルドマスターなんだからもっとしっかりしないと」
「今は誰もいないんだ。来るべき時のために英気を養っているだけだから。それとルイ姉に育てられた覚えはないんだが」

 ちなみにこの二人には血縁関係はなく、全くの赤の他人である。

「え~⋯⋯そんなこと言うなんてひどいよう。お姉ちゃん、いっぱいお世話をしたのに」

 酒場も兼任しているギルドに、緊張感のない会話が繰り広げられる。
 青年の方はこのギルド、カーディナルのマスターであるユクト。女の子はこのギルドのメンバーであるルイ。
 真っ当な冒険者ギルドなら、例え昼間でもこの場所は依頼人や冒険者で溢れかえっているはずだった。
 しかしここは治安が悪い上、ギルドのランクが最低ランクのホワイトであるため、依頼がほとんどないのだ。
 ちなみにギルドのランクは下から⋯⋯
 ホワイト
 ブロンズ
 シルバー
 ゴールド
 プラチナ
 ダイヤモンド
 となっている。

「依頼が一件もないね」

 ルイ姉がつまらなそうに呟く。そしてなぜか俺の隣に座り、身体をこちらに寄せてくる。
 俺はルイ姉に視線を向けるとキョトンとした表情で何? と言ってるように見えた。
 いやはや、この姉は無自覚で身体をくっつけてくるから、思春期の俺は困惑してしまう。
 ともかく離れよ。
 俺は椅子をずらし、ルイ姉から距離を取る。

「ああん⋯⋯」

 するとルイ姉が色っぽい声を出したが、無視して会話を続ける。

「良いことじゃないか。それだけ困っている人が少ないってことだ」
「確かにそうだけど⋯⋯」
「だからもう一杯酒を飲もうかな」
「ユクトちゃんはただお酒が飲みたいだけでしょ?」
「無駄に依頼を待つより、旨い酒を飲んで待つ方が有意義だ」
「もう⋯⋯身体を壊しても知らないから」

 ルイ姉は俺から離れ、受付へと戻る。
 俺はルイ姉の許可を得た? ため、新たな酒を作りにカウンターの中に入る。
 さっきはラムベースのカクテルを飲んだので、次は何にするかな。

 俺は今ある材料を見て何を飲むか考えていると、突然入口のドアが開いた。

「失礼します」

 この場所には似つかわない、凛とした声が聞こえてきたため、俺達は視線を入口へと向ける。
 するとそこには白銀の鎧を着た一人の女の子がいた。
 あの服装は王国騎士団じゃないか。
 わざわざこんな所に来るなんて珍しいな。だがそんなことよりもっと目を見張るものがあった。

「美人さんだな」
「ユクトちゃん⋯⋯」

 ルイ姉が殺気を込めて睨んできた。
 怖い怖い。息を吸うのも忘れてしまうくらい可愛い子だったため、つい言葉に出してしまった。本能のまま口を開けるとルイ姉の嫉妬を買ってしまいそうだ。

「私は王国騎士団第二部隊副隊長のリーゼロッテと申します」

 このリーゼロッテという女の子は王国騎士団の副隊長なのか。見た目は俺と変わらない年齢なのにすごいな。
 相当優秀な人材であることがわかる。
 王国騎士団はそもそも一般人が簡単に入れるような所ではない。高い武力と知力、人格が求められ、一般の兵士五人を相手取っても勝つことが出来る逸材らしい。
 リーゼロッテは受付のルイ姉の前に向かうと、信じられないことを口にした。

「不本意ですが団長からこちらのギルドに出向するように言われているのですが」

 な、何だと! そんなこと聞いていない!
 あのおっさん勝手なことを言いやがって。それに騎士団からギルドに出向なんて見たことも聞いたこともないぞ。

「え~と⋯⋯そういうことでしたらギルドマスターにお聞き下さい。ギルドマスターなら⋯⋯」

 ルイ姉が俺を指差す。
 面倒くさいな。新しい酒を作ろうとしていたのに。
 リーゼロッテがこちらに視線を向ける。するととても驚いた表情をしていた。

「えっ? えっ? 失礼ですがお幾つでしょうか?」
「年齢? 17歳だけど」
「17歳⋯⋯ですか」

 歳を教えたらリーゼロッテは怪訝な顔をし始めた。
 そして鋭い目つきで俺の方を射抜いてくる。

「まだお酒が飲めるようになって一年しか経っていないじゃないですか。それに昼間からお酒を⋯⋯若くして堕落した生活を送るなど本当にこのギルドのマスターですか?」

 ルイ姉が「ほら注意された」みたいな視線を送ってきた。
 この世界ではアルコールは16歳から飲めることになっている。だから別に俺は法を犯している訳ではない。

「ギルドのマスターになるための条件を知っている?」
「もちろんです」
「二つあって、一つはギルドに所属し、実績を作ること」
「あなたのような若さで実績があるとは思えません⋯⋯まさか⋯⋯」
「もう一つは特別なスキル⋯⋯固有スキルを持っていることだ」

 固有スキルとは一般の魔法やスキルとは違う、オリジナルの技能のことを言う。
 その能力は様々で、動物と話すことが出来たり、一秒先の未来が見える眼を持っていたり、周囲のマナを剣に集めて放つなど多岐に渡る。
 だが固有スキルを持っている者は数千、数万人に一人と呼ばれているため、存在自体がとても珍しいのだ。
 そのため、固有スキル保持者は特例としてギルドを作ることが出来るのだ。

「すごいです!」

 リーゼロッテは先程まで蔑んだ目で俺のことを見ていたが、尊敬する眼差しに変わった。

「固有スキルの所持者に初めてお会いしました。もし差支えがなければ、どのような能力か教えて頂けないでしょうか」

 本来なら軽々しく人に見せることはしないけど、可愛い子がキラキラした目で見ているのだ。期待に応えるのが男ってものだろう。

「今回は特別だぞ」
「ありがとうございます」

 俺はリーゼロッテの願いを叶えるため、掌に力を込めて固有スキルを使うのであった。

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