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新しい日常

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柔らかく暖かい温もりを感じさせるその手にいつまでも包まれていたいと思ったが、一応人目のつく場所なので、俺はそっと目を隠していた手を外すことにする。

「ちひろ、イタズラはやめてくれないか? 周囲の視線が痛い」
「周りの視線なんか気にすることはないよ。私がしたいからしているの」

 男が好きな人にしてほしいことベスト10に入る、後ろから目隠しをしてきたのは高校からの知り合いである上野 ちひろ。付き合いは短いが何故か馬が合い、一年の頃はけっこうつるむことが多かった。その理由の1つとしてちひろの見た目は美少女だが下ネタオッケーな所もあり、男友達的な感覚だからかもしれない。

「お、おい! あいつ女の子からだ~れだをやられていたぞ!」
「どこのリア充だ?」
「知らないの? あの2人は一年の頃から仲がいいのよ」

 周囲からヒソヒソと噂されるがもう慣れた。だからと言ってちひろと疎遠になるようなことはもったいないので、周りの声には気にしないようにしている。本人には言わないがちひろといるのは多少のマイナス要素があったとしても、それを上回るくらい楽しい時間だからだ。

「ちひろはクラス表を見たのか?」
「見たよ。A組で私の望んだ通りのクラスだった」
「そうか」

 俺はちひろの言葉を聞き、この混雑した空間から抜けるため踵を返し校舎へと向かう。

「あれ? リウトはクラス表見ないの?」
「見ないよ。俺はA組なんだろ?」
「よくわかったね。さすが千里眼のスキルを使っただけはあるね」
「な、何のことかな?」

 まさかさっき目を閉じてスキルを使った所を見られたのか! 正直バレたら滅茶苦茶恥ずかしい案件だぞ。瑠璃みたいな可愛い娘ならまだしも俺みたいな男子学生がスキルとか言い出したら、ただの厨二病の痛い奴になってしまう。

「瑠璃ちゃん達とのやり取りを見ていたから⋯⋯どうせリウトの脳内でそんなことを考えているなあって思ってた」

 だがそれだけで何故わかる。ちひろ⋯⋯恐ろしい子。

「俺はそんなこと考えていないぞ。それよりこれから一年間共に学ぶ仲間達の元へと行こうじゃないか?」
「ふふ⋯⋯そうだね。一緒に行きますか」

 ちひろは笑顔を浮かべながら俺の横に立ち、校舎へと足を向ける。

「これからの一年、楽しみだね」
「ああ」

 俺は全てを見透かしている付き合いの短い友人の言葉に頷くと、共に羽ヶ鷺学園の校舎の中へと向かうのであった。
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