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頭に血が昇ると負けることが多い
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「ここで暴力を振るって何になるんですか!」
「だがよ神奈。こいつは⋯⋯」
「この試合に負けて謝罪することになってもいいの?」
「くっ!」
負けたら土下座して謝罪。
今の都筑に取って沢尻に頭を下げるなど、死んでもやりたくないことだろう。
神奈さんの言葉を聞いて都筑の力がスッと抜ける。
どうやら神奈さんは都筑の性格を把握して、暴走を止めることに成功したようだ。
「女に言い負かされて情けない奴だな」
「このやろう!」
都筑は神奈さんのお陰で落ち着き始めた感情が、沢尻の手によってまた掘り起こされ、再び掴みかかろうと手を伸ばす。
「都筑くんダメ!」
神奈さんの悲痛の叫び声が木霊し、今度は悟、三浦、柳の三人で都筑の身体を押さえつける。
「いや~⋯⋯荒れてますね」
「そうだな」
「何だか私、クラス対抗のエクセプション試験が怖くなって来ました」
エクセプション試験は大抵の物と交換できるスコアがかかっているため、感情が露になる奴がいる。だがこれが敵なら未だしも味方から怒号が飛んでくる場合があり、特に瑠璃は運動が苦手なため、ミスして怒られることを想像しているのだろう。
「まあ何かあったら助けてやるから安心しろ」
「頼りにしてます。だけど⋯⋯こ、こんなことで私が惚れるだなんて思わないでよね!」
瑠璃は何故かツンデレで言葉を返してきた。おそらく照れているのを隠すためだろう。可愛いやつめ。
「むう~、リウトちゃん今はエクセプション試験中だよ。デレデレしちゃダメなんだから」
「デレデレなんてしてないぞ」
どうやら瑠璃にかまっていたらコト姉が頬を膨らませて嫉妬してしまったようだ。
やれやれ、ブラコンなのも大概にしてほしいものだ。
「それよりほら、試合が始まったぞ」
「あっ! ほんとだ」
俺はコト姉に向けられた嫉妬を誤魔化すため、試合に視線を向けさせることにする。
そして試合はCクラスのスローインから始まり、直ぐに沢尻へとボールが渡された。
「先輩にお聞きしたいのですが、この試合Aクラスは勝てるのでしょうか?」
瑠璃が漠然と試合の結果を聞いてくる。
「とりあえず前半は3対0くらいで負ける状況になるかな」
「えっ? 前半は後10分くらいしかありませんけど3点も入るんですか?」
「たぶんこの後Aクラスの守備は崩壊するよ」
そう⋯⋯何故俺はこんなことを口にするかと言うと、封鎖サッカーを行うことが決まってから、Cクラスの練習内容を毎日偵察していたからだ。
その中で沢尻の練習は、近くの的に向かってシュートを放つものだった。
恵まれた体格プラス、野球部のエースとして走り込みで鍛えられた脚から放たれるシュートは強力で、傷つけ、恐怖に陥れるには十分だった。
「もしかしてその方法って⋯⋯」
瑠璃がAクラスの守備の崩壊理由を言葉にしようとした時、フィールドから再度悲鳴のようなものが聞こえてくる。
「ぎゃあ!」
「織田くん!」
俺達は声がする方に目を向けると、そこには地面に倒れ、蹲っている織田の姿があった。
そして先程と同じように、織田にボールを当てた沢尻に詰め寄ろうとする都筑をクラスメート達が止めている。
「あっ! でもボールを当てられた人は立ち上がりましたよ。これなら別に守備が壊れることはないのでは?」
「瑠璃、よく織田の顔を見てみろ」
ボールが当たる瞬間は見ていなかったが、織田の様子を見る限り、シュートを食らった場所は左の頬で間違いないだろう。
「あの先輩、顔が真っ赤に腫れています」
「瑠璃はボールがぶつけられるとわかっていて、試合に参加することは出来るか?」
「そ、それは⋯⋯ちょっときびしいかもしれません」
特に今回、織田が沢尻のシュートを食らった場所が頬なので、痛々しい姿が皆の目に写っているから効果は絶大だろう。
そしてその効果は早くも試合に現れ始める。
沢尻がボールを持ち、シュートを放とうとすると、Aクラスの半数以上が恐れをなし、ディフェンスに行くことができない。
「くそ! なら俺が止めてやるよ!」
痺れを切らした都筑が、沢尻からボールを奪うため距離を詰める。
「単細胞は扱い易くて助かるぜ」
そして沢尻は不気味な笑み浮かべながら、これまでと同じようにシュートの体勢に入る。
二人とも粗暴な所があるが、都筑と違って沢尻は冷静だ。
沢尻は突っ込んできた都筑に対してキックフェイントを行い、あっさりとかわす。
「何!」
都筑はシュートが来るものだと考えていたため、予想が外れ驚きの声を上げてしまう。
「それなら俺達が止める!」
今度は悟と三浦が、かわされた都筑の代わりにボール奪おうと沢尻に距離を詰めるが⋯⋯。
沢尻はここで前線に向かって大きなパスを選択する。
そのボールはサッカー部の田中に渡り、井沢とのパスの連携でAクラスの守備を翻弄していく。
サッカー部の三人が前に釣られ、沢尻のシュートに恐怖を覚えてしまった守備陣ではこの二人を止めることは出来きない。
そして遂に田中のシュートがAクラスのゴールを無惨にも割ってしまうのだった。
「だがよ神奈。こいつは⋯⋯」
「この試合に負けて謝罪することになってもいいの?」
「くっ!」
負けたら土下座して謝罪。
今の都筑に取って沢尻に頭を下げるなど、死んでもやりたくないことだろう。
神奈さんの言葉を聞いて都筑の力がスッと抜ける。
どうやら神奈さんは都筑の性格を把握して、暴走を止めることに成功したようだ。
「女に言い負かされて情けない奴だな」
「このやろう!」
都筑は神奈さんのお陰で落ち着き始めた感情が、沢尻の手によってまた掘り起こされ、再び掴みかかろうと手を伸ばす。
「都筑くんダメ!」
神奈さんの悲痛の叫び声が木霊し、今度は悟、三浦、柳の三人で都筑の身体を押さえつける。
「いや~⋯⋯荒れてますね」
「そうだな」
「何だか私、クラス対抗のエクセプション試験が怖くなって来ました」
エクセプション試験は大抵の物と交換できるスコアがかかっているため、感情が露になる奴がいる。だがこれが敵なら未だしも味方から怒号が飛んでくる場合があり、特に瑠璃は運動が苦手なため、ミスして怒られることを想像しているのだろう。
「まあ何かあったら助けてやるから安心しろ」
「頼りにしてます。だけど⋯⋯こ、こんなことで私が惚れるだなんて思わないでよね!」
瑠璃は何故かツンデレで言葉を返してきた。おそらく照れているのを隠すためだろう。可愛いやつめ。
「むう~、リウトちゃん今はエクセプション試験中だよ。デレデレしちゃダメなんだから」
「デレデレなんてしてないぞ」
どうやら瑠璃にかまっていたらコト姉が頬を膨らませて嫉妬してしまったようだ。
やれやれ、ブラコンなのも大概にしてほしいものだ。
「それよりほら、試合が始まったぞ」
「あっ! ほんとだ」
俺はコト姉に向けられた嫉妬を誤魔化すため、試合に視線を向けさせることにする。
そして試合はCクラスのスローインから始まり、直ぐに沢尻へとボールが渡された。
「先輩にお聞きしたいのですが、この試合Aクラスは勝てるのでしょうか?」
瑠璃が漠然と試合の結果を聞いてくる。
「とりあえず前半は3対0くらいで負ける状況になるかな」
「えっ? 前半は後10分くらいしかありませんけど3点も入るんですか?」
「たぶんこの後Aクラスの守備は崩壊するよ」
そう⋯⋯何故俺はこんなことを口にするかと言うと、封鎖サッカーを行うことが決まってから、Cクラスの練習内容を毎日偵察していたからだ。
その中で沢尻の練習は、近くの的に向かってシュートを放つものだった。
恵まれた体格プラス、野球部のエースとして走り込みで鍛えられた脚から放たれるシュートは強力で、傷つけ、恐怖に陥れるには十分だった。
「もしかしてその方法って⋯⋯」
瑠璃がAクラスの守備の崩壊理由を言葉にしようとした時、フィールドから再度悲鳴のようなものが聞こえてくる。
「ぎゃあ!」
「織田くん!」
俺達は声がする方に目を向けると、そこには地面に倒れ、蹲っている織田の姿があった。
そして先程と同じように、織田にボールを当てた沢尻に詰め寄ろうとする都筑をクラスメート達が止めている。
「あっ! でもボールを当てられた人は立ち上がりましたよ。これなら別に守備が壊れることはないのでは?」
「瑠璃、よく織田の顔を見てみろ」
ボールが当たる瞬間は見ていなかったが、織田の様子を見る限り、シュートを食らった場所は左の頬で間違いないだろう。
「あの先輩、顔が真っ赤に腫れています」
「瑠璃はボールがぶつけられるとわかっていて、試合に参加することは出来るか?」
「そ、それは⋯⋯ちょっときびしいかもしれません」
特に今回、織田が沢尻のシュートを食らった場所が頬なので、痛々しい姿が皆の目に写っているから効果は絶大だろう。
そしてその効果は早くも試合に現れ始める。
沢尻がボールを持ち、シュートを放とうとすると、Aクラスの半数以上が恐れをなし、ディフェンスに行くことができない。
「くそ! なら俺が止めてやるよ!」
痺れを切らした都筑が、沢尻からボールを奪うため距離を詰める。
「単細胞は扱い易くて助かるぜ」
そして沢尻は不気味な笑み浮かべながら、これまでと同じようにシュートの体勢に入る。
二人とも粗暴な所があるが、都筑と違って沢尻は冷静だ。
沢尻は突っ込んできた都筑に対してキックフェイントを行い、あっさりとかわす。
「何!」
都筑はシュートが来るものだと考えていたため、予想が外れ驚きの声を上げてしまう。
「それなら俺達が止める!」
今度は悟と三浦が、かわされた都筑の代わりにボール奪おうと沢尻に距離を詰めるが⋯⋯。
沢尻はここで前線に向かって大きなパスを選択する。
そのボールはサッカー部の田中に渡り、井沢とのパスの連携でAクラスの守備を翻弄していく。
サッカー部の三人が前に釣られ、沢尻のシュートに恐怖を覚えてしまった守備陣ではこの二人を止めることは出来きない。
そして遂に田中のシュートがAクラスのゴールを無惨にも割ってしまうのだった。
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