姉と妹に血が繋がっていないことを知られてはいけない

マーラッシュ

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諦めたらそこで試合終了だ

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「よっしゃーPKだ!」
「さすがの天城も邪魔がいないこの距離からのシュートは止められまい」

 Cクラスが勝利に手をかけた時、Aクラスはまるで通夜のように静み返っていた。

「ここでPKかよ⋯⋯」
「たぶんゴールした瞬間にタイムアップだから、点を取り返す時間もない」
「もうダメだ。この試合負けたな」

 この絶望的な状況に、Aクラスのメンバーから負の感情が放たれている。
 無理もない。確かPKの成功率は75%前後、止める確率も25%あるが、このロスタイムギリギリの状況では敗北の気持ちに苛まれ、勝つことを諦めてもおかしくない数字だ。

「わ、私⋯⋯なんてことを⋯⋯」

 反則を犯してしまった神奈さんはフィールドに膝をつき、絶望な表情をしてワナワナと震えていた。

「みんなでここまで頑張ったのに⋯⋯私が、台無しに⋯⋯天城くんが忠告してくれたのに⋯⋯」

 神奈さんの目から涙が頬をつたい、地面に染みが拡がっていく。
 やはり足に疲労が溜まっていたのか。神奈さんのことだからどんなことでも全身全霊で挑むと思っていたが、まさかほんとうに足が動かなくなるまで走るなんて。

「しょうがねえよ」
「一生懸命やった結果だから⋯⋯」
「神奈さんのお陰で点も入っているし、文句なんて誰も言わないよ」

 女子を中心に、クラスメートの大半はこのエクセプション試験の神奈さんの頑張りがわかっているのか、はたまた日頃の行いが良いためか、断罪する声は上がらない。
 だが、一部の者達は言葉には出してはいないが、恨めしそうな表情をしていた。
 この勝敗に60,000スコアの増減がかかっているので気持ちはわかるが、今はそんなことをしても意味がないことを理解してほしい。

「すまねえ! これも俺が余計な勝負を持ち込んだせいだ」

 都筑が封鎖サッカーの敗北を悟ったのか皆に頭を下げるが、先程の神奈さんの時とは違い、何か声をかけるものはいなかった。
 これこそ日頃の行いの差だな。都筑は普段から横暴な態度を取っていたため、庇う者が

「私が、私が悪いの⋯⋯ごめんなさいごめんなさい」

 神奈さんが皆に謝罪するとクラスメート達は都筑を攻めることもできず、神奈さんを非難することもできず、この場には微妙な空気が流れる。

だから俺はこの空気をぶち壊すため、声を上げた。

「やれやれ、何でもう負けたかのような気持ちになっているんだ? ボールはまだゴールを割っていないぞ」

 俺は沈んだクラスメート達に向かって語りかける。

「リウトPKだぞPK! たぶんキッカーは沢尻か井沢か田中だ。三人とも重りはついていないし止めることはほとんど無理ゲーだろ」

 悟は事細かに今の状況を説明してくれるが、ここは75%の不可能より25%の希望を信じてもらいたいものだ。それに一般的なPKを止める確率は25%でも、知恵と身体能力と運でその確率は上げられるはずだ。

「諦めたらそこで試合終了⋯⋯だろ」

 俺はハーフタイムに悟がみんなに向かって話した言葉をそっくりそのまま返してやった。
 すると意外にも効果がある言葉だったようだ。

「天城くんの言う通りだね」
「まだ俺達は負けたわけじゃないな」
「リウトもたまには良いことを言うわね」

 ちひろの一言は余計だったが、皆から闘志が戻り始める。

「今のリウト、マジでカッコいいな。惚れそうだぜ」
「気持ち悪いから惚れなくていいぞ」

 悟が俺に抱きつこうとしていたので、右手で静止してとめる。

「天城くん⋯⋯後はお願いします」

 俺は両手で祈るようなポーズをしている羽ヶ鷺のヒロインからの願いを受け取り、ゴールへと向かう。

 相手のキッカーがボールをペナルティーマークにセットする。
 どうやらPKを蹴るのは悟の予想通り、沢尻のようだ。
 俺に二回シュート止められたプライドを取り戻すためなのか、反則を獲得した本人だからなのか、勝利を決めてクラスでの地位を確固たるものにするつもりなのかわからないが、この勝負、Aクラスのため、神奈さんのため、そして自分のためにも負ける訳にはいかない。

 俺は両手を大きく広げ、沢尻を威圧する。おそらく沢尻は俺にシュートを止められたイメージを持っているはずだ。これで少しでもプレッシャーがかかれば⋯⋯。
 しかし沢尻は俺には目もくれず、サッカーボールに集中している。
 腐っても野球部のエースか⋯⋯ここを勝負所と捉えて、先程まで見られた不遜な態度が全く感じられない。

 ならばここは小細工などせず、正々堂々とお前のシュートを止めてやる。

 ピー!

 審判のフエがなると、沢尻をゆっくりと助走をつけ、そしてボールをおもいっきり蹴るのであった。
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