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女の子からのお礼と言えば一つしかない

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「バイオレンスなことは止めてください!」

 バイオレンス? 暴力ってことか? 

「どうせ1人何だろ?」
「俺達と一緒に遊ぼうぜ」

 少女は英語交じりの言葉を話し、ニット帽を被ったチャラそうな男二人の手を振り払おうとしている。
 やれやれ、どうしてナンパをするならスマートにできないのかね(ナンパをしたことは1度もないが)。

「もう! こんなことならソフィアを連れて来れば良かった」
「えっ? 何? もう1人いるの?」
「それなら2対2でちょうどいいじゃん」

 チャラ男二人は少女の話をまるで聞いておらず、自分勝手な解釈をしている。周囲にいる者達も遠巻きで見ているだけで、誰も少女を助けようとしない。
 日本の助け合いの精神はどこに行ったんだ? 俺は親父の言っていた自分の行動には責任を持てという言葉が頭に思い浮かんだが、さすがにこの状況は見て見ぬ振りはできない。   

「ちょっと、その女の子は嫌がってるんじゃないかな?」
「なんだてめえは!」

 チャラ男達は俺の姿を見ると睨み付け、脅すような口調で威嚇してくる。

「あの! 助けてください! この人達が突然トークしてきて困っているの」

 少女が明確に助けを求め、嫌がっていることを主張する。
 これで少女を助けても問題ないはずだ。これがもしただの痴話喧嘩だったら洒落にならないからな。

「関係ねえ奴は引っ込んでろ!」

 いや、関係ないのはあんた達も同じじゃないのか? 何でこういう奴らは自分中心的な考えしかできないのだろうか。

「とりあえず警察を呼んだからナンパするなら早くした方がいいぞ」
「「け、警察!」」

 日本の国家権力と聞いてチャラ男達はビビったのか、思わず少女の手を離してしまう。

「お、おい! 俺は前に警察沙汰になってて次に問題を犯したらやばいんだ」
「俺だってそうだ。こんなことで捕まってたまるか⋯⋯逃げるぞ!」

 そしてチャラ男達二人はこちらには構わず、一目散にこの場から逃げ出した。


 チャラ男達がいなくなると遠巻きに見ていた見物人達もいなくなり、この場は再び人の波が流れ始める。

「あの⋯⋯ありがとうございました」

 チャラ男に絡まれていた少女が俺に向かって頭を下げてきた。
 そして何故か俺の顔をジーっと見てくる。

「な、何かな?」

 こんな可愛い子に見つめられると照れるな。女性に対して耐性が出来ていない俺には、この瞳を真っ直ぐ受け止めることは難しい。
 ん? この子瞳の色が茶色だな。それに顔の造りもどこか日本人離れしているような⋯⋯もしかしてハーフか何かなのか?

「ポリスオフィサーは呼んでないのよね?」

 確かに俺が警察を呼んだというのは、チャラ男達を追い払うための嘘だ。けど何故この子がそれを⋯⋯。

「よくわかったね」
「だって昔と変わってないんだもん」
「えっ?」

 今この子なんて言った? 昔と変わってない? 俺はこの子と会ったことがあるのか?
 しかしこんな薄い茶色の髪と瞳をしている子なんて俺の記憶にはないぞ。

「これはお礼よ」

 俺がこの子の素性について考えていると、不意に頬に湿ったものを感じた。

「えっ?」

 俺は一瞬のことでよくわからなかったが、今のはキス⋯⋯だよな。
 キスをされた場所をさわってみると僅かに濡れた感触がある。間違いではない、今俺はこの子にキスされたんだ。
 このような美少女にキスをされ、普通なら小躍りでもするところだが、俺にはキスの感触を味わう時間などなかった。なぜなら目の前にはお花を摘みに行ったはずのコト姉の姿が見えたからだ。
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