姉と妹に血が繋がっていないことを知られてはいけない

マーラッシュ

文字の大きさ
138 / 147

スコアは貯めておいて損はない

しおりを挟む
 ゴールデンウィークが終わると周囲が慌ただしくなってる。
 なぜならこれから待ち構えているのは中間テストだからだ。
 勉強が苦手な者に取っては地獄の時間になるだろう。 
 地獄なんて大袈裟? と首を捻る者もいるとは思うが、羽ヶ鷺学園にはその言葉が相応しい。なぜなら30点以下の赤点を取ったら退学が決定してしまうからだ。
 だからテスト前の時期になると一部の生徒は異様な雰囲気を醸し出しており、それは2ーAクラスも例外ではなく、教室内では普段と違う空気を出している者達がいた。

「何でテストなんてあるんだ! 1年の時から赤点ギリギリな俺に取っては苦痛でしかない。昨日も結局部屋の掃除と古い漫画を一巻から最終巻まで読むだけで終わってしまった。誰か俺を助けてくれえ!」

 悟が1人でブツブツとテスト前あるあるを口にしていたので、自業自得だと心の中で思い放っておくことにする。

「おはよう~」

 ちひろが明るい声で挨拶しながら教室に入ってきても返事が返ってくるのはまばらで、クラスの半数は教科書とにらめっこしている。

「いや~みんなやってるねえ」
「テスト前だからな」

 中間テストは4日後の月曜日からで殺伐とした雰囲気が教室内に流れており、おしゃべりしている者はほとんどいない。

「ちひろさんはいつも通りあまり代わらないですね」

 神奈さんは英単語帳を見ながら余裕な表情を浮かべているちひろに問いかける。

「まあね。自慢じゃないけど私には秘策があるから」
「秘策ですか? それは気になりますね」
「ふっふっふ⋯⋯私にはテストを乗り切るための最終兵器⋯⋯リウトが要点をまとめたノートがあるんだぁぁぁ」

 人のノートに頼るとか本当に自慢じゃないな。どうしてそんな自慢気に話せるのか不思議でしょうがない。
 神奈さんもちひろの行動に呆れて固まっているじゃないか。

「ち、ちひろさん。そのノート⋯⋯私めに貸して頂けないでしょうか!」

 だがそのノートに食いついた男がいた。それは悟だ!
 悟がプライドを捨てて土下座をする勢いでちひろに頭を下げている。

「要点がまとまったノート⋯⋯今の俺が中間テストを乗り切るためにそれは最も必要な物です。どうか、どうかお願いします!」
「木田くん⋯⋯テストって言うのは日々の勉強の積み重ねを確認する場でその時だけ乗り越えても意味がないよ。将来のことを考えるならこのノートに頼らない方がいいと思う」

 正直どの口が言うんだと抗議したい。しかもそのノートは俺のだし。

「俺は⋯⋯俺達は今この時を生きている! 未来を、過去を生きているんじゃない! 今を乗り切らなければ過去は無駄なものになるし、未来が来ることはないんだ! だから頼む!」

 ちひろと悟の間で安っぽいドラマが始まっているがもう一度言おう。そのノートは俺のだ。

「木田くんの心意気はわかったよ。でもこのノートはリウトのだからリウトに聞いて」
「ちひろさんに頭を下げて損した! だがまあいい。俺とリウトは心の友だから必ずノートを貸してくれるはずだ!」

 悟はノートを借りるために本当に必死だな。まあ確かに本人もさっき言っていたが、俺の調べた情報でも悟は1年の3学期の期末試験で5教科30点台の点数を取っておりすれすれで2年に進級していた。
 仕方ない。せっかくできたクラスメートが落ちるのも見たくないのでノートを貸してやるか。

「いいぞ。けど明日持ってこいよ」
「マジで! ありがとうリウト! さすが俺の親友だ!」

 俺はちひろから左手でノートを受け取り、そして

「えっ? 何この手? 俺が欲しいのはリウトの左手にあるノートだぞ」
「まさかただで見れるとも?」
「くっ! 金を取るのか!」
「まあそれなりに苦労したからな。1教科1,000スコアで」
「1,000スコアか⋯⋯まあそれくらいなら」
「毎度あり~。後このノートを他の人に見せたり貸したりしたら違約金で20,000スコアもらうから」
「わかってる。せっかく俺がスコアを出して買ったノートだ。他のやつらに見せたりしねえよ」

 こうして俺は悟に5教科分のノートを貸し、昼休みに氷室先生の立ち会いの元、5,000スコアをもらうことに成功するのであった。

 そしてその日の放課後。
 俺はちひろと共に学園を出て、自宅までの帰路についていた。

「それにしてもリウトは本当に悪いことを考えるわね」
「まあ別に良いじゃないか。俺はスコアが潤い、テストの点数がヤバい者達は赤点を取らずに済む。お互いWin-Winの関係じゃないか」
「まあノートをタダで借りている私も人のことは言えないけどね」

 そう。俺はちひろにはタダで要点をまとめたノートを貸している。なぜなら今日の朝、ノートを借りている件を声高に言ってもらったのはちひろの演技だからだ。結局悟にノートを貸した後、8人のクラスメートがノートを借りにきたため、予め用意していたノートのコピーを渡し、俺のスコアはウハウハ状態になった。

「新入生歓迎会の時みたいにいつスコアが必要になるかわからないからな」
「ほんとリウトはこういう悪知恵が働くよね」
「まあこれも学園を生き抜くための知恵だ」

 少なくともスコアはあって損するものじゃないからな。

「とにかくあんな茶番に付き合ってあげたんだから期末テストの時もノートを貸してよね」
「わかってるよ」

 おそらくこの1年、何人もが俺のノートを借りにくるだろう。ただ全く勉強しないのも本人のためにならないからいつもギリギリでしかノートを渡す気はないけど。

 そして俺はちひろと別れ、自宅まで1人で歩いていると突然後方から俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

「先輩先輩大変です~!」

 どうやら後ろから声をかけてきたのは瑠璃のようだ。そしてそのさらに後方にはユズの姿も見える。

「なんだ。騒々しいな」

 今週は中間テストもあるし、瑠璃との配信は行わないはずだ。それなのに瑠璃が焦って声をかけてきたのは⋯⋯何だか嫌な予感がするぞ。

 そして瑠璃は俺の前に来ると息を整え、真っ直ぐと見据えてくると血相な顔をして言葉を言い放つ。

「先輩大変です! 私を助けて下さい!」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話

頼瑠 ユウ
青春
高校一年生の上条悠斗は、同級生にして幼馴染の一ノ瀬綾乃が別のクラスのイケメンに告白された事を知り、自身も彼女に想いを伝える為に告白をする。 綾乃とは家が隣同士で、彼女の家庭の事情もあり家族ぐるみで幼い頃から仲が良かった。 だが、悠斗は小学校卒業を前に友人達に綾乃との仲を揶揄われ、「もっと女の子らしい子が好きだ」と言ってしまい、それが切っ掛けで彼女とは疎遠になってしまっていた。 中学の三年間は拒絶されるのが怖くて、悠斗は綾乃から逃げ続けた。 とうとう高校生となり、綾乃は誰にでも分け隔てなく優しく、身体つきも女性らしくなり『学年一の美少女』と謳われる程となっている。 高嶺の花。 そんな彼女に悠斗は不釣り合いだと振られる事を覚悟していた。 だがその結果は思わぬ方向へ。実は彼女もずっと悠斗が好きで、両想いだった。 しかも、綾乃は悠斗の気を惹く為に、品行方正で才色兼備である事に努め、胸の大きさも複数のパッドで盛りに盛っていた事が発覚する。 それでも構わず、恋人となった二人は今まで出来なかった事を少しずつ取り戻していく。 他愛の無い会話や一緒にお弁当を食べたり、宿題をしたり、ゲームで遊び、デートをして互いが好きだという事を改めて自覚していく。 存分にイチャイチャし、時には異性と意識して葛藤する事もあった。 両家の家族にも交際を認められ、幸せな日々を過ごしていた。 拙いながらも愛を育んでいく中で、いつしか学校では綾乃の良からぬ噂が広まっていく。 そして綾乃に振られたイケメンは彼女の弱みを握り、自分と付き合う様に脅してきた。 それでも悠斗と綾乃は屈せずに、将来を誓う。 イケメンの企てに、友人達や家族の助けを得て立ち向かう。 付き合う前から好感度が限界突破な二人には、いかなる障害も些細な事だった。

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

処理中です...