姉と妹に血が繋がっていないことを知られてはいけない

マーラッシュ

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勉強会

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「瑠璃、往来の場で騒がしいぞ」
「すみません。でも大変なんです。私の人生がかかっています」

 この慌てよう。何があったのか簡単に想像がつく。こいつは前回の反省がまるで生かされていないな。

「中間テストで赤点取ったら退学なんて聞いてないです。先輩勉強を教えて下さいと言った所か」
「さすが先輩! そのストーカー気質な所正直気持ち悪いですが今回は許して上げます」
「さよなら。1人でテスト勉強がんばってくれ」
「嘘です嘘です! 私は頼れる先輩がいて幸せ者です。どうか先輩の奴隷である私をお助け下さい」

 俺をからかい、そして土下座をする勢いの瑠璃に対して俺は背を向ける。

「そんな~」

 瑠璃はその場に膝をつき、絶望の表情を浮かべ崩れる。

「ほら、早く行くぞ。俺の家でいいか」
「せんぱ~い」

 泣いたカラスがもう笑ったではないが、先程まで悲壮感漂う表情をしていた瑠璃が満面の笑みを浮かべている。

「だから先輩のこと大好きです」

 そう言って瑠璃は俺の右腕に絡みつき、身長からは考えられない豊満なボディを擦り付けてくる。
 リップサービスだとわかっているが俺の心臓のドキドキは止まらない。

「そ、そんなことを言っても優しくしないぞ。厳しく教えていくからな」
「わかってますって。でも頭を使うのに糖分が必要ですから先輩の特製パンケーキがあると私、もっとがんばれますよ」

 そして瑠璃はさらに身体を密着させてくる。
 くっ! こんな色仕掛けで俺が何でも言うことをきくと思っているのか? 舐めるなよ。

「瑠璃の好きなココアもいれてやるからちゃんと勉強するんだぞ」

 ごめんなさい。異性に(コト姉とユズ以外)抱きつかれたことのない俺には瑠璃の魅力に抗う術はありませんでした。

「もう! 兄さんは瑠璃さんには甘いんだから」

 瑠璃の後ろから追いかけて来たユズが、不機嫌な様子で苦言を呈してくる。

「い、いや、そんなことないぞ。瑠璃はユズの大事な友達だし、一緒に動画配信をしているパートナーだから余計なことで煩わせたくないだけだ」
「瑠璃さんに抱きつかれて鼻の下を伸ばしている人に言われても説得力がありません」

 ぐっ! 俺の頭の中が読まれている。このままではユズが怒りモードに入ってしまう。そうなるとこれから暫くの間、ユズから蔑まされて過ごすことになるからここは機嫌を取っておくとしよう。

「もちろん可愛い妹も初めての中間テストの勉強で疲れていると思うから、パンケーキとココアを用意するつもりだったけど⋯⋯余計なことだったか?」

 ユズはパンケーキが大好きだ。おそらくパンケーキの魅力に落ちてくれるだろう。

「し、しかたないですね。せっかく作った物を捨てるのももったいないから私が食べて上げます。そ、それと可愛い妹とか外で言わないで下さい⋯⋯は、恥ずかしいです」

 ユズは言葉通り顔を真っ赤にして視線をこちらに合わせてくれない。
 妹と思い込むようにしているが、そんな仕草をされると純粋に可愛いと思ってしまう。

「先輩は私より絶対にユズユズに甘いです。ユズユズもブラコンまっしぐらって感じですし」
「わ、私はブラコンではありません! 兄さんがエッチな顔をしているから⋯⋯全部兄さんが悪いの!」

 ユズは叫ぶような声を出すと1人で自宅の方角へと走って行ってしまった。

「やれやれ。ユズがへそを曲げると後で俺が大変だからあまりからかうなよ」
「先輩こそユズユズのこと可愛い妹とか言ってからかっていたじゃないですか」
「まあそれは⋯⋯」

 確かにそういう意図がなかったとは言いきれない。

「でもさっきのユズユズは滅茶苦茶可愛かったですね。これだからユズユズをからかうのはやめられないです」
「おいおい。瑠璃は本当にユズの親友か?」
「でもやっぱりユズユズは先輩の前だと1番良い顔をしていると思います。普段のユズユズはあまり感情を出さないですから」
「ユズは外だと基本余所行きモードだからな」
「ですからユズユズの良い所をもっとみんなに知ってもらうために、これからもユズユズをからかいますね」

 それを言われると何も言えなくなるな。
 兄としても瑠璃の意見は賛成だからだ。

 こうして俺と瑠璃はユズを追いかけ、テスト勉強をするために自宅へと帰るのであった。


「勉強会は兄さんの部屋でやりましょう」

 先程俺と瑠璃がからかったせいか少しご立腹の瑠璃がそう提案してきた。

「ユズの部屋でも良いんじゃないか?」
「いえ、また兄さんに下着チェックをされたくないですから」
「ええっ! いつの間に先輩はシスコンから変態にジョブチェンジをしたんですか!」
「ちがうから! しかも元々の職業もシスコンって何か嫌だぞ」
「でもユズユズが下着を頭から被られたって!」
「話を大きくするんじゃない! ユズの部屋に来たときベッドに下着が散乱していただけだ」
「そうでしたか。すみません、私の記憶違いだったようです」

 どうやらユズはまだ機嫌を直していないようだ。こうなったらもう勉強会を初めてしまい気を紛らわした方が良さそうだな。

「瑠璃、学園の授業はどの程度ついて行けてるんだ」
「さっぱりですね。どうやら私にはレベルが上がっても知力にステータスポイントを振れないようになっているみたいです」

 まあ期待はしていなかったがやはり瑠璃は勉強が出来ないようだ。実は羽ヶ鷺の入試の際もかなり勉強を見てやったからな。想定内といえば想定内だ。

「最近の小テストではどのくらいの点数が取れているんだ?」
「ちょうど歴史のテスト用紙があるのでお見せしますね」

 瑠璃はカバンの中から一枚の用紙を取り出し、テーブルの上にどうだと言わんばかりに叩きつける。

「じゅ、16点! さすがにこの点数は⋯⋯」

 ユズは瑠璃の点数を見て驚愕の表情を浮かべている。
 ユズが驚くのも無理はない。何故ならこのテストは⋯⋯。

「全部で25問あって、選択肢5つから選ぶ問題なのに何で確率より低い点数を取ってるんだ!」

 1問4点だから20点は取ってもおかしくないはずだ。

「どうやらその日は不運のテバフを受けていたようです」
「言い訳するんじゃない! 羽ヶ鷺を受かった時も言ったよな。少しずつでもいいから毎日勉強しろと」
「だって勉強が好きじゃないんです!」

 逆に良かった。この点数で勉強が好きだと言ったら絶望的だったぞ。

「とにかく最低限の点数が取れるように教えてやるからさっさと教科書とノートを出せ」
「まずはパンケーキを食べてから始めるというのはどうでしょうか?」
「ある程度やってからな」
「そんな⋯⋯パンケーキを食べるために先輩の家に来たのに。先輩の鬼!」

 こいつは現状がわかっていないのか。これはスパルタでやらないとダメのようだ。

 こうして俺は瑠璃の勉強を見るため、心を鬼すると深く誓うのであった。
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