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本編

第19話:森の奥の気配

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「――

 イーヴィルはどこか嫌悪感を滲ませる表情を浮かべながら、そう言った。

「「!」」
 
 ユリウスたちは「ついに」と、目を見開く。イーヴィルは「あくまで私の予想ですが」と前置きをし、話し出した。

「あのアホどもによると、森の奥で解いた封印について、人間たちがこう言っていたそうです。……“”と」
「「!?」」
「恐らく、かと」

 イーヴィルの話を隠れて聞いていたルイが、一瞬で現れる。そして、声高に言った。

『そうだ、奴か!』
「ルイ! やっと思い出したか!」

 ユリウスはルイの両頬の毛に、勢い良く手を埋めさせる。ルイはそんな事を気にしている所では無いと、無反応で話し続けた。

『通りで思い出せないわけだ! この気配を知っているのは、私が実際に出会ったのではなく、先代の記憶だったのか!』
「!」ユリウスは目を見開いた。

 ルイの言う先代とはどういう事かと言うと、聖獣は基本的に不老不死だが、ある日突然、死ぬのでは無く消えてしまう。そして新たな聖獣が現れるのだが、聖獣の記憶は代々受け継がれているのだ。因みに、記憶を合わせると数千歳だが、ルイ自身は二百歳程で聖獣の中では若い方だった。

『この記憶は……丁度、坊の先祖のエルフが生きていた頃の時代だな』
「そんなに昔の記憶か!」
『ああ……森の奥に解き放たれたのは、イーヴィルの言う通り邪神だな』
「ッ!」ユリウスは息を飲んだ。

 “邪神”

 それには、ユリウスも聞き覚えがあった。三百年程前だろうか、この世界は一度、存続の危機にあっている。この邪神という存在が突然この世界に現れ、片っ端から国を壊して行ったのだ。

 「確かその例のご先祖エルフが、何らかの方法で封印したと記録が残っていたはず」と、ユリウスは目瞑りながら思い出す。このエルフの先祖様については、様々な逸話が残されていた。

 膨大な魔力と記憶力、美しい剣技を持っており、数々の敵を己で倒して、この国まで作った人物である。そう、例の先祖様はこの国アースラッドを作った初代国王だった。

「くっ……どうして封印が解けたんだ」
『年月が経ったことによって封印が脆くなってきた所に、馬鹿な奴らが何かをしたのだろう』
「初代国王が封印することしか出来なかった存在を、一体どうするんだ!」

 ユリウスは焦っていた。邪神の封印が解けているのならば、今何も起こっていない事が不思議なくらいなのだ。早く何とかしなければ、この国が……世界が危ない。
 首からチェーンで下がっている指輪を握りしめながら、ルイへと怒鳴るようにして問いただしていた。

「ガウ」ルイは小さくひと鳴きする。

『落ち着け、坊。お前はこの国の王太子なのだろう。できる出来ないでは無く、お前が必ず民を守らなくてはならないのでは無いか?』ルイは首をわざとらしく傾げながら言った。

 ッ――。

 ユリウスは歯をかみ締めた。

「……ああ、悪い。分かっている。民たちを守るのが私たちの仕事だ」

 ルイの言葉が分からないはずの騎士三人も、ユリウスのその言葉だけを聞いて「そうです」と当たり前のように強く頷いていた。



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