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第2章 神々の運命
第36話 状況
しおりを挟む「まずは今回の議題についてだ。主に神王会議の報告だが、話すべきことはもう一つある」
「ええ、北欧神話からの奇襲攻撃についてですね?」
「そうだ。ある程度話は聞いたが、ここでもう一度北欧神話からの攻撃について確認しておこう」
神斗と優香は元老院議員たちのいる円卓の席についた。
先程まで騒いでいたキーキやローガン達もこの会議が重要なものであることは重々承知しているようで真剣な表情になっている。
「奴らは転移門のあるカテレア神殿からではなく、突然街中に現れよった。おそらくロキの魔法であろう」
「敵の部隊は主に魔獣と巨人で構成されていた」
「で、でも指揮系統がなかったのか戦略的とは言えないただの突撃でした」
北欧神話から来た敵は数こそ多かったものの統率は取れておらず、ただ街を蹂躙しただけだった。
そのため、しっかりとした準備を整えていたイデトレア側は押されこそしたものの敵を殲滅することができた。
「そうねぇ。もちろん神クラスも居なかったわ」
「北欧の神様方は魔獣どもに突貫させて高みの見物ってわけかい。田舎者らしい考え方だねぇ」
「だが、奴らの目的は分かっておる」
今回の北欧神話からの攻撃はあまりにも無謀なものだった。
しかし、なんの目的もなく他勢力を奇襲するはずもない。
「ああ。奴らの目的は、優香だ」
「ええ!?わ、私!?」
優香はイデトレアが北欧神話から攻撃を受けたことを神王会議から帰ってきてから知らされた。そのため北欧神話が攻撃した理由までは現段階まで知らなかった。
北欧神話の目的が優香自身だったということを。
「あのー、私って北欧神話に狙われてたんですか?」
「ああ、そうだ。お主の持つ力を狙ってな」
「私の持つ……魔導王の力ですか?」
「うむ、おそらくな」
北欧神話は優香を狙っていたが正確には優香の持つ神の力、魔導王の力が目的だった。
彼らにとって魔導王の力はとても重要なものだった。それこそ神殺しの国に直接乗り込んでまで手に入れようするほどに。
「そういえば優香にはまだ話していなかったね。優香を神王会議に連れて行ったのは神界について知ってもらうってのもあったけど、なにより北欧神話の攻撃から守る為だったんだ」
「そうだったんだ。だから重要な会議にも関わらず私を連れて行ったんだね」
神斗は神王会議中に北欧神話側が何かしらの行動を起こすと踏んでいた。
神王会議に王である自分、さらに補佐役として幹部クラスの神殺し一人がいない状況をみすみす逃すとは思えなかった。
「そのうえ神王会議が行われる世界、ルリエーは不可侵領域。敵から絶対に攻撃されない安全な場所だったからな、お主を守るのに適しておった。故に我ら元老院もお主を神王会議に出席させることを許可したのだ」
神王会議の行われる世界であれば他勢力から攻撃されることはない。さらに側には常に神斗がいるという状況でもあった。
それは神王会議に出席した神々ですら予想できなかったことであり、結果的に会議の主導権まで握ることができた。
優香を守りつつ神王会議を支配した。まさに最善の手だったと言える。
「それで?奴らのしようとしたことは優香ちゃんの存在を確認し、あわよくば捕まえちゃおうって感じかしら?」
「いや、“神喰らい”を送り込んできたあたり捕虜にするというよりかは殺害が目的であろう」
「うぅ……フェ、フェンリルですね。まさか本当に来るとは思いませんでした」
“神喰らい”フェンリル。真っ黒な体毛と鋭い牙と爪を持つ巨大な狼だ。
巨体にも関わらず恐ろしい速度で移動し、危険な雰囲気を纏う牙と爪で攻撃してくる。その攻撃はたとえ神だったとしても当たれば致命傷を負うほど。さらに半端な攻撃では傷すらつかないほど頑丈な体毛まで持っていた。
「あのワンちゃん滅茶苦茶に暴れてたわぁ。カレンちゃんが押さえててくれなかったら流石の私も強制転移させることはできなかったでしょうね」
「然り。あの小娘もそれなりに戦えるようになったか」
黒い布を口元に当てている剣士、菊御門タケルはどこか満足そうに頷いていた。
イデトレアへの襲撃で唯一脅威だったのがフェンリルだ。
しかし神斗は優香の持つ魔導王の力が目的である以上、フェンリルを使うだろうと考え対策を打っていた。それが転移門から次元の狭間に飛ばすというものだった。
「まさに化け物だね。神殺しの幹部が何人も束になってようやく倒せるほどとは。王が彼女を神王会議にまで連れて行こうとするわけだ」
「できればあのワンちゃんには現れて欲しくなかったのだけどねー。北欧神話、中でも特にロキは本気で優香ちゃんの力を狙っていたのね」
イデトレアの中でもトップクラスの戦闘力を持つカレンですら、全力で戦って動きを止めることしかできなかった。
そこに元老院議員であるキーキによる強制転移、海乃とヘラクレスによる一撃、カレンの追撃でようやく打ち倒せたのだ。
「結果、我ら神殺し側の被害は最小限にとどめられた。そして北欧神話側は狙いが外れて目的を果たせなかったうえにフェンリルの喪失。今回の奇襲攻撃によって我らはかなり有利な立場になった、そうだろう?神斗よ」
「ああ、かなり良い状況だ。これなら今すぐにでも“計画”を進めることができる。神王会議で主導権を握った甲斐があったよ」
「ほう?ということはそちら側もうまく事が運べたということだな?」
「まぁな」
北欧神話の攻撃から優香を守り、神王会議の主導権を握る。さらにフェンリルを倒し北欧神話の戦力を低下させた。これは全て、神斗の言う“計画”のためだったのだ。
「では北欧神話からの攻撃についての確認はここまでとし、次は神王会議での議決について報告していく」
元老院での会議は次の段階へと進んでいった。
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