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第2章 神々の運命
第37話 掌の上
しおりを挟む「ふむ、なるほどな。相も変わらず神々は自勢力優先か」
「やんなっちゃうわ!神王会議は神界のための会議だというのにね?」
神斗は神王会議で話し合った議題についてだけでなく、会議中の雰囲気まで事細かく元老院議員に話した。
「仕方あるまい。自らの欲に忠実、それが神という存在だ」
「にしては無責任すぎないかい?勢力の小さな神話だってあるってのに」
「そこは神々のことです、文句があるならば行動してみろと思っているのでしょう」
神王会議では神殺しの国イデトレアを含めて六つの勢力が参加していた。
そのうち神斗たち以外の神々は自勢力への利益となるよう会議を進めようとしていたのだ。
今の神界では大きな戦いが起こっていないものの、どの勢力も自らの神話体系こそ頂点だと思い神界の覇権を狙っている。故に自勢力への利益を譲ろうとしないのだ。
「しかしよく小癪な神々を相手に会議の主導権を握れたな。さすが神斗だ!ガッハッハッ!!」
「いや、会議の主導権を握れたのは優香の存在のおかげだよ。流石に俺だけじゃここまで上手く話を進めることはできなかった」
「か、神さまたちにとって優香さんの存在は想定外だったのでしょう」
そんな神々の私利私欲にまみれた神王会議であったが、後半はまさに神斗の独壇場だった。
各神話の代表達が気にも留めていなかった補佐官の存在。それがまさか神話の主神クラスの力を持つ神殺しだったのだ。
そして神斗は神々の動揺を利用し神王会議の主導権を握るに至った。
「え!?わ、私何もしてないよ!?」
「いいや、優香ちゃんは大手柄さ。貴方は会議の場に現れただけで神々に影響を及ばしたんだ。北欧神話に対しては特にね」
「そりゃそうよ!何せ別働隊に狙わせていた標的が目の前にいるんだもの~。とんでもない驚きっぷりだったんじゃないの?トールちゃん」
「ああそれはもう、面白いぐらい驚いていたよ。それと同時に焦ってもいた」
優香は会議中ただ神斗の後ろに立っていただけだった。
しかし神々にとって優香の存在は大きな衝撃だった。特にトールは優香の持つ力を狙って既に行動を起こしていた。
神斗が北欧神話のとる行動を読み、あらゆる手を尽くしていたことなど知らずに。
「かの道化の神を解き放ってまで狙ったんだ。優香さんの力、魔導王の力を取り戻せればどうとでもなると考えていたのだろうね」
「それに加え今回の神王会議にて侵略行為に対する報復が可能となった。奴ら今頃大騒ぎだろうな!ガッハッハッハッハッ!!!」
会議の終盤、侵略行為に対する報復について話し合っているときだった。
トールは自分たちが神斗の掌の上で転がされており、既に打つ手がないほど追い詰められていたことにようやく気がついたのだ。
「それで、どうするんだい神斗くん?まさか襲撃を受けたのに何もしない、なんて事は無いよね?貴方イデトレアに帰還後、民衆に向けて堂々と反撃するみたいなこと言ったんだよ?遺憾の意を表するなんて馬鹿なこと言うだけで終わるつもりかい?」
「今更だなキーキ。侵略行為に対する報復を行えるようにしたのは、もとより神王会議中に北欧神話から何らかの攻撃をされると予想していたからだ。ここは神界、言葉なんぞ使わずあらゆる策と力によって意思を表す世界だ」
「それもそうね。なら、やるんだ……報復」
「ああ、そうだ。我ら神殺しは、北欧神話に対し報復攻撃を行う!!」
神斗は決断を下した。
文書や話し合いといった言葉を使う方法で解決することもできなくもない。
しかし神斗は言葉での解決を選ばなかった。なぜなら超常の存在である神々の住むこの神界において、神殺しの力を誇示し威厳を保つためには報復攻撃を行わなければ意味がないと思ったからだ。
「ガッハッハッハッ!!そうこなくてはな!他神話との戦争ッ!絶大な力を持つ神との闘争ッ!滾ってくるわぁぁああッ!!!」
「年甲斐もなく何興奮してんだいこのジジイは!」
「総監どの少し落ち着け、これは戦争ではない」
神斗の宣言を聞いたマーゼラは生き生きとした目を一層輝かせていた。
マーゼラは戦いが好きだった。そのため強大な力を持つ他勢力と戦えることに歓喜していたのだ。
喜びのあまり小躍りでもしそうな勢いのマーゼラだったが、その喜びは元老院議員の二人によって打ち砕かれてしまう。
「タケルの言う通りだ。これは我ら神殺しと北欧神話との戦争ではない」
「ちっ、分かっておるわ。これはあくまで神殺しから北欧神話への報復攻撃、だろう?」
「そうだ。我らは侵略するのではなく、侵略された分を奴らに返すだけ。それが一段落すれば第三勢力が介入する。戦争へは発展しない」
そう、神斗が決断したのはあくまで報復攻撃を行うことまで。
神王会議で議決された通り、襲撃を受けたイデトレアが北欧神話へ報復を行なった後は第三勢力が介入し戦争への発展を抑止する。少なくとも神殺しと北欧神話との戦争が起こることはないのだ。
「報復攻撃の作戦はイデトレアの幹部交えた会議で話し合うとしよう。マーゼラ、全ての幹部を招集しろ。海乃とカレンには部隊の編成案を提出させ、各部隊長たちにも招集をかけるんだ」
「了解した!」
「出来るだけ早急に作戦を立て、行動に移すぞ!!」
神王会議での議決についての報告、そして北欧神話からの襲撃に対する報復攻撃の確認ができたことで元老院会議は終わりを迎えた。
元老院議員たちはそれぞれ役割を果たすために会議室を後にする。
そのうちの一人、キーキが扉から出るのを面倒がって魔法を発動しようとしているのを見た神斗は何かを思いついたようでキーキを呼び止めた。
「……そうだ、キーキ少しいいか?」
「ん?何か用かい神斗くん」
「ああ、優香についてなんだが……」
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