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第2章 神々の運命
第38話 戦いの目的
しおりを挟む『さあさあ!いよいよ戦争やでシギュン!!』
『ああ、そうだねロキ。この前の奇襲攻撃の雪辱を果たそうじゃないか!』
豪華絢爛な宮殿にあるとある一室、そこにはピエロのような格好をした美青年ロキと、褐色の肌をした魅惑的な女性シギュンがいた。
『そうや!我が愛しき息子を屠り、あまつさえ人間界で俺様に苦渋を舐めさせた奴ら神殺しへの復讐の時やで!!ヒッヒッヒッ!!!』
ロキは人間界で優香に接触した際に優香とカレン、そして優香を護衛していた紅葉と戦闘を行った。
自らの力を十分に発揮できない人間界ではあったものの、ロキは三人の神殺しに撤退させられた。
さらに先日のイデトレア奇襲攻撃では、作戦を完全に看破されフェンリルまで打ち倒されてしまった。
これ以上ないほどの屈辱を味わったロキは、神殺しに復讐を誓っていた。
『んで?奴らとどう戦うつもりだい?いくらアンタでも奴らとまともに殺り合えばただじゃ済まないよ?』
『まぁ悔しいがその通りや。特に“天帝”と“海鳴り姫”、“戦兵”とは殺り合いたくないわ。他にも何人かバケモンがおる』
『ほう?神殺しを恐れるなんてアンタらしくないね?』
『あくまで神の力を奪った人間程度にしか思っとらんかった。だが実際に戦ってみて考えが変わったんや。守護者、奴はホンマに強かった。たとえ神界で戦ったとしても苦戦は必至やろうな』
神殺しには神斗をはじめとした多くの実力者がおり、ロキは何人か危険視していた。
ロキは今まで神殺しの力を甘く見ていたが、人間界でカレンと戦ったことでその考えを改めたのだ。
『復讐したいのは山々やけど真の目的を忘れちゃあかん』
『真の目的……あの魔導王の力を持つ神殺しを“殺す”こと、そうだね?』
『ああそうや。あの娘を殺し、神々の運命を引き起こすッ!!!』
ロキがイデトレアに襲撃を行った目的、それは優香を捕らえることではなく殺すことだった。
そしてその先にあるもの、神々の運命こそがロキの目指すものだった。
『それにあの小娘、岡本優香は“天帝”にとって相当大事な存在らしいじゃないか。あの小娘をやっちまえば神殺しへの復讐も果たせて一石二鳥だ』
『いいや、それだけじゃあ足りん。あの娘を殺すのはあくまで神々の運命を起こすためや。奴らへの復讐はもっと派手に、徹底的にやらなあかん!』
『じゃあトールに言われた通りにするのかい?』
『ああ、自分のケツは自分で拭かなあかんやろ?』
ロキは二度も失敗を犯した。
そのためトールから責任を取れと言われていた。しかしそれは幽閉や処罰といったものではなかった。
『俺様の全力を持って奴らを叩き潰す!!容赦せえへんで!?簒奪者どもぉぉおおッ!!!ヒッヒッヒッヒッヒッ!!!』
ロキの責任の取り方、それは自らの全力を持って報復攻撃をしてくる神殺しと戦うというものだった。
この時、ロキは考えてもいなかった。なぜトールが責任を取らせるためとはいえ二度も失敗したロキに神殺しと戦わせるのか。
そして、神王会議が終わった後に神斗とトールが何を話していたのか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
神殺しの国イデトレア。その唯一の玄関口となるカテレア神殿には、武器を携え防具を着込んだ軍隊が集結し整然と並んでいた。
その軍隊の正面、転移門の前にはイデトレアの幹部が数名立っており、真ん中には神斗の姿もあった。
「これより、北欧神話の世界へ入り報復攻撃を開始する!!」
「「「うおぉぉぉおおッ!!!」」」
神斗の号令に兵たちは大声を上げて答えた。
「今回の相手は北欧神話という強大な勢力である。そのため軍より第一部隊、第二部隊、第三部隊の合同部隊を編成した。それぞれの部隊の指揮は主に各部隊長が行うが、合同部隊全体への総指揮権は軍務総長である海乃が持つこととする」
イデトレアの軍はいくつかの舞台に分けられており、今回の攻撃には三つの部隊が参戦した。
数こそ多くはないものの、その一人一人がよく訓練された実力のある兵士だった。
それに加え軍を指揮する者としてイデトレアの中でも屈指の実力者である海乃も戦いに参加することとなった。
「そして今回の攻撃には神殺しの王として俺も出向く。そのため王下親衛隊である天の七支柱から光輝と竜斗も同行する。二人ともよろしくな」
「おうよ!任せときな師匠!」
「はい、ご期待に応えれるよう頑張ります神斗様」
“光輝”と“竜斗”
二人は優香を護衛する任務を与えられている紅葉と同じく、神斗の親衛隊に所属する神殺しだ。それ故に相当な力量があることは確かだった。
そして神斗はただ軍を激励するためにここにいたのではなく、自ら出陣するようだった。
「それと、皆に確認しておく。今回の攻撃は侵略のためではなく、あくまで奇襲攻撃に対する報復である。つまり、戦争ではないということだ。そのことを決して忘れるな」
「「「はっ!!!」」」
「特に海乃、お前に言っているんだからな?」
「うっ……わ、わかってる!」
神斗は戦闘好きな海乃に釘を刺した。それは軍を指揮する者として勝手な行動を取らせないためだった。
しかし、内心強敵と戦えるかもしれないと思っていた海乃は、気づかないうちに頭のアホ毛を犬の尻尾のように揺らしていた。
「本当にわかっているのか?……まぁ良い。改めてもう一度言っておこう。奴ら北欧神話は強大な勢力だ。多数の魔獣や巨人、エインヘリアルと呼ばれる戦士もいる。決して油断せず、目の前の敵に集中しつつ周囲と連携して戦うこと。勇敢なる兵たちよ、日頃の訓練を活かす時だ!獅子奮迅の活躍を期待する!!」
「「「うおぉぉぉぉぉおおおッ!!!!!」」」
神斗は背後にある転移門の方を向き片手を上げ、勢いよく振り下ろす。
「いざ北欧神話の世界へ!!進撃開始ッ!!!!」
「「「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおッッ!!!」」」
神斗を先頭に軍隊が転移門に突撃していく。兵たちは声を荒げお互いを鼓舞する。
転移門の先には強大な勢力がいる。それでも誰一人としてその歩みを止めることなく堂々と進んでいく。
その理由は、神斗の存在だった。王自ら軍の先頭に立ち兵士たちを導くとなれば当然のように士気が上がる。
王も兵とともに戦場に立つ。それこそが神殺しが強大な力を持つ存在だと言われる所以だった。
いよいよ神殺しと北欧神話の戦いが始まろうとしていた。
しかし、この戦いはその先にある巨大な戦いのほんの始まりに過ぎないのだった。
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