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第2章 神々の運命
第39話 開戦
しおりを挟む黄金の輝きが晴れるとそこは、広大な平原だった。
軽く見渡すとすぐ見えてくるのが想像を絶するほど巨大な樹の幹だった。その巨大な樹から伸びる枝と葉は、神斗たちのいる場所の上空を覆い尽くすほど生い茂っていた。
しかし季節が冬なのか風が冷たく、どこか暗い雰囲気だった。
「ここが、北欧神話の世界か」
「ああ。この世界は主に三層に分かれており今いるのは第二層だ」
「人間の国“ミズガルズ”、小人の国“ニダヴェリール”、スプリガンの国“スヴァルトアールヴヘイム”、そして巨人の国“ヨトゥンヘイム”がある階層ですね」
「第一層はこの世界の神の領域。他世界からの転移じゃこの第二層が限界だ。まぁ、第三層に転移しなくて良いだけマシか」
この北欧神話の世界は三つの階層で構成されており、それぞれの階層には神の住む領域や種族ごとの国が存在している。
今、神斗たちのいる第二層より上層である第一層にはこの世界の神々がおり、他世界の転移門を通ったとしてもその領域へ転移することはできない。
これは神殺しの国イデトレアでも言えることで、先日の奇襲攻撃の際に直接フェルノーラ城へ攻撃せずその前にある街を襲ったのはこれが理由だった。
「……あれが“世界樹”。なんと雄大な光景だろうか」
「そういえば海乃はこの世界に来るのは初めてだったな」
「なにせ私はイデトレアの軍を統べる軍務総長だからな。私が別の神話体系の世界に現れたとなれば、それは戦争を意味してしまうからな。実を言うと別の世界でも手腕を発揮できる空美やシャルルが羨ましかったんだ」
世界樹
北欧神話の世界の中心にそびえる大樹であり、三つの階層全てを支える支柱の役目を担っていた。
ユグドラシルは三つの根が巨大な幹を支えており、それぞれの根元には泉がある。
この大樹は北欧神話の世界にとって生命線であり、この世界そのものとも呼べる存在だった。
「俺もイデトレア以外の世界に来たの初めてなんすよ!くぅーっ、なんかワクワクするぜ!」
「光輝、遊びにきたのではないということはわかってるんだろうな?」
「わ、わかってますよ師匠……」
天の七支柱の一人、光輝は目を輝かせて辺りを見渡していた。
しかし、今は報復攻撃の真っ最中だということで神斗は興奮を隠せない光輝を嗜めた。
「にしてもなんか雰囲気悪くないですか?この世界」
「ああ。以前この世界に来たときはもっと明るい雰囲気だったんだがな……」
青々と生い茂るユグドラシルの葉の隙間からは暖かな陽光が差し込んでいるにも関わらず、空気はひんやりと冷たく重たい。
神界にあるどの世界にも季節は存在する。しかし今の北欧神話はただの冬だとは思えないほど異常な雰囲気だと言えた。
「まぁいい。俺たちはとにかくやるべきことを成すだけだ。まずは第一層へ繋がる“虹の橋”を目指す!」
虹の橋
それはこの世界の第一層と第二層を繋ぐ七色の道。
神斗たちのように他世界から転移した場合、第一層に行くにはこの虹の橋を渡るしか方法がない。
第一層へ上るためビフレストへ向けて進軍を開始しようとしていた神斗たちの前に、突然何かが出現した。
「グルルゥゥゥ……」
「こいつは確か……“幻狼”マーナガルム!!」
「ちっ、そう簡単にはいかせてくれないようだ。総員、戦闘態勢ッ!部隊ごとに陣形を組み攻撃に備えろッ!」
突然神斗たちの目の前に現れたのは人の背丈を越えるほどの巨大な狼だった。
同じ狼であるフェンリルほどではないが、その牙と爪からは凶悪な力が発せられていた。
「それにこいつだけじゃない。どうやら囲まれていたようだな。奴らもそれなりの準備をしていたということか」
「どうする師匠?全部叩き潰すか!」
「いいえ、ここは敵の陣中。時間が掛かれば掛かるほど不利になります。一刻も早くビフレストへと辿り着き第一層に向かうべきかと」
神斗たちの周囲にはいつのまにか多数の敵に包囲されていた。周囲の敵はイデトレアに攻撃してきた時と同様、魔獣や巨人で構成されているようだった。
今回、北欧神話に報復攻撃に来た神殺しの部隊は精鋭揃いだったものの、多数の敵に完全に包囲されている現状を打破するには時間を要する。そのうえ今は北欧神話の世界にいるため、いつ増援が来てもおかしくない。
目的を果たすには、この場をどうにか時間を掛けずに突破する必要があった。
「そうだな。俺と光輝、竜斗はビフレストへ向かう。こいつらの相手は海乃と合同部隊に任せる。頼んだぞ!」
「了解した!神々の相手ができないのは残念だが、これだけの数。それなりに楽しめそうだ!」
「無理はするなよ……ってお前にいっても無駄か」
神斗は今の状況を打破するため、合同部隊に多数の敵の足止めを任せることにした。さらに部隊を指揮し、目の前のマーナガルムの相手をする者として海乃を残すことを決めた。
この場を任された海乃はその手に矛先が三つに分かれた金色の槍、海神の三叉槍を握り巨大な狼の前に立った。
しかし普段であれば強者を前に強気な凛々しい表情であるはずが、この時はどこか不満そうな表情をしていた。
「少しぐらい心配してもらいたいものだが……まぁ良い。先を行け神斗!こいつらは私達が相手する!行くぞお前たち!獣ごときで我らの進撃を止めようとした奴らに目にもの見せてやれ!!」
「「「おおおぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!」」」
部隊はそれぞれ左右と後方に向き直って戦闘態勢に入った。
正面には魔獣と巨人に加えマーナガルムもいたが、唯一正面を向いて戦闘態勢に入ったのは海乃だけだった。
三つの部隊がそれぞれの方向にいる敵を相手にしようとしていたが、海乃はたった一人で正面にいる敵と戦おうとしていたのだ。
そんな海乃の行為を不快に思ったのか、マーナガルムは鋭い牙を剥き出しにし力を漲らせた。
「グルルゥゥ……オオォォォォォォォォンンッッ!!!」
「戦闘……開始ッ!!」
マーナガルムの放った美しい遠吠えを合図に周囲を囲っていた魔獣たちが一斉に突撃を開始した。
また海乃の指示によって部隊の兵たちも動き出す。
やがて両者はぶつかり、激しい戦闘が始まった。
「よし、今のうちにビフレストへ向かうぞ!」
「はい!」
「おうよ!」
周囲で戦いが始まったのを確認した神斗たちは、魔獣たちと兵士の戦いに乗じて正面に向けて走り出した。
神斗たちは真正面にいたマーナガルムの横を通り過ぎ、正面方向の魔獣や巨人たちを薙ぎ払いながら突き進んでいった。
当のマーナガルムは神斗たち三人には目もくれず、ひたすら真っ赤な目で海乃のことを睨んでいた。
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