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8 他人に伝えるということ

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「えっ、と……私でよろしければ?」

「ありがとうございます! 次の時に席にお伺いしますね」

 栗色の巻毛の令嬢は嬉しそうに笑うと友達の元に戻っていった。

 さらに教室に入ると、別の令息が声をかけてくる。

「な、勉強教えるんなら俺にも教えてくれないか?」

「あ、私もお願いしたいです!」

「……え、えぇ、喜んで」

「やった!」

 彼も彼女も今まで私の敵としか思ってなかったので、名前も覚えていない。ヤバい。どうしよう。

「もちろん私も混ぜてくれるよね?」

「は、い、グラード様……」

 一体何が起きてるんだ? と思う反面、グラード様は私に教わることなど何もないはずだ。

 と、そこでハッとした。

(わざと……? わざと挑発して、私に嫌がらせて、それを喧伝して……勉強会に混ざってくれたら名乗ってくれるし……)

 うわ、と思った。やる事がスマートすぎる。性格反転中だから、尚更王子様っぽい。

 プリントを教壇の上に置いた後、席に戻って次の時間の教科書とノートを出した私は、放心したまま次の時間の授業を聞き、機械的にノートを取って、次の休み時間には増えた令嬢令息とグラード様に囲まれて、名乗るところから始めてもらった。

 そして勉強を教えている……私が、学問の面で認められて勉強を……。

 楽しい時間はあっという間に過ぎていった。ランチはグラード様と一緒だったが、噂は広まって気軽に相席の許可を求められたりした。

 グラード様も機嫌が良さそうだし、私は初めて普通の会話を学友とした。どの教科の担任の授業が眠くなる、だとか、何が苦手とか、食べ物なら何が好きとか。

 私はまだショックが抜け切らないまま、午後の休み時間にも前の席の子に話しかけられたりしながら過ごし、結局放課後に反転の解けたグラード様にニヤニヤと笑われる羽目になった。

「な? 言わなきゃわかんねんだって。まぁ、お前の場合自分で『私は見た目を褒められるのが嫌』なんて言ったら反感買うだろうけどよ。楽しかったろ?」

「はい……あの、ありがとうございました」

「俺もココ使わせてもらってっからな。これでおあいこって事で。さーって課題からやるか」

 私に全く気負わせない態度で、グラード様はノートを取り出した。

 私も同じように前に座って黙々と課題を始める。……が、今日の事が嬉し過ぎて、どうしても集中できない。

「グラード様」

「なんだよ」

「甘いものはお好きですか?」

「いや、あんまり」

「わかりました!」

 それだけの会話をしてノートにまた向かった私に、今度はグラード様が首を傾げている。

 その日、私は寄り道をして帰った。
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