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計画

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何も話せないまま過ごす時間は、ふたりとも自責の思いに更けさせる。

だいたい日本という国、あの時代に育った『詩音』が、あの場所だからまかり通った『常識』や『正義感』を振りかざし、政治に関わることのできない公爵令嬢に対して『暗部に目を向け、改善策を考えろ』と迫る方が間違っているのだ。
いや──王太子妃としてルエナ自身は教育も受けているはずだし、転生した自分や双子の兄がお互い見知っている乙女ゲームとその派生小説とほぼ同じと言って差し支えないこの世界で起きていることを総合すれば、そこらへんはご都合主義で『修正』が掛かってもおかしくはない。
現に『ヒロイン』であるはずのシーナ・ティア・オインに魅了されずとも、アルベールは妹であるルエナに向かって突然怒りだし、あのまま放置していたら単に引き籠っているだけのルエナを断罪しようとしていた。
そんなことにならないようにとシーナは学園でルエナを盗み見ることがあっても、間違っても認識される距離には絶対近寄らず、リオンも『生徒会長』というまるで日本の学校システムにある役職についている以上にシーナ自身とは学園内では関わらないようにしてきた。
それなのに──
「……やっぱり、何だかおかしいのよね」
「何がだ?」
ポツリと呟いたシーナの口調にホッとしながら、アルベールも声を潜めて聞き返す。
サラのように下心と誰かからの命令があってこの屋敷に勤めた使用人と違い、まさかこの部屋に配置された侍女たちが主人や客人の話すことを外部に漏らすとは思えないが、今回の『ルエナ冤罪事件を起こさないための作戦』を知る人間は少ない方がいいというのはずっと前から王太子とシーナ、そしてアルベールの三人で話して決めている。
だがその作戦効果は捗々はかばかしくなく、シーナ自身がやらない代わりというかのように、ルエナの冤罪は他の誰かの手によって『器物破損事件』という形で発現していた。
「アタシが凛音と恋に落ちるはずがない……そもそも『王太子妃候補の婚約者から王太子を奪う』っていう前提からして間違っているんだから、転入当初からアタシに対して何かしらヤラかしてくる奴らがいるのがおかしいのよ……」
「そう……言っていたが……リオン殿下がその件に関しては、君が悪い…とも言っていた気がするが……?」
「うぅっ……」
そう──その件に関しては、シーナは、詩音はやりすぎた。
試験の内容があまりにも簡単すぎて、筆記試験のすべてでほぼ満点を取ってしまったのである。
『平民上がりの平凡な子爵家養女』として過ごすつもりが、うっかり「え~?こんな簡単な問題ばっかり……馬鹿にしてんの?!」とわずかに本気モードになってしまった。
「ええ……あのせいでめっちゃめんどくさかった!って怒られたもの……リオンとルエナ様と同じクラスにするっていうのを、たまたまこの試験だけよかっただけかもしれないし、様子見で特級クラスから一番遠いクラスに入れようって説得してくれたのはありがたかったけど……」
オイン子爵当主には現在嫡子がおらず、ひとりっ子状態のシーナであるから、もしこの世界の法則に則って将来のオイン子爵家後継者を見つけるならば、王族から侯爵までの子息や令嬢ばかりが集められる特級から次の三クラスに所属できればかなりいい縁談がまとまるかもしれなかった。
もしくは嫡男はすでに婚約者がいるということがあるから、彼らから兄妹を紹介される手間を省いて、その下に位置する侯爵家や伯爵家の次男以下で優秀な者たちが多いクラスに入るとか──
けれども三人の計画としてはそれでもまだ安全とはいかず、どうにか将来独立して他家に勤めたり騎士などで身を立てる他ない三男三女以下の子息令嬢とは名ばかりの扱いの者が多いクラスへと入れてもらうことに成功した。
だいたいシーナが見るところ義父となったオイン子爵はかなりの弟スキーな感じで、弟を子爵家に呼び戻した上で再婚を勧めて、その子供に爵位と家を継がせればいいと思っている気がする。
「アタシも別に結婚に夢ないし~。『無名の画家』だけど、リオンだけじゃなく他の貴族様もアタシの絵を買ってくれるから、自立して生きていけそうだしね~」
そんなことを言ってふふんっと自慢げに鼻を鳴らすシーナを見て、アルベールは何とも言えない寂しげな表情を浮かべた。


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